4、内部留保



世の中が不景気になってくると、内部留保や準備金を取り崩して、社員に還元しろとか、投資に回せとか、税を掛けろと言った奇妙な議論が出てくる事がある。

内部留保というと何か利益を意味もなく貯め込んでいるように思われがちである。又、利益は儲けであり、現金だと思っている人もいるみたいである。しかし、内部留保と言ってもお金を貯め込んでいるわけではなく。大半が借入金の返済や何らかの投資に充てられているのである。別に現金を貯め込んでいるわけではない。

内部留保は資本金を形成する要素の一つであるが、資本金と言う事にたいても似たような誤解がある。
つまり、内部留保とか資本金は何らかの資金を指しているかの錯覚である。

では、内部留保とは何か。内部留保は資本と利益に関係した概念である。
故に、内部留保を理解する為には、利益とは何か、資本とは何かを明らかにする必要がある。

利益とか、資本とか言うと一般に金銭的な裏付けのある概念だと受け取られがちだが、利益や資本には、現金的な裏付けがあるとは限らない。

利益や資本は、基本的に差額勘定である。
利益は収益から費用を引いた値。
資本は、総資産から総負債を引いた値を言う。
この他に差額勘定には、現金収支がある。
差というのは経済の基幹を構成している。

利益は決して搾取ではない。大体、企業というのは利益を目当てで経営をしているわけではない。
利益は、一つの指標であって利益を目当てにしても意味がないのである。
利益は目的ではない。目的というのは、どちらかと言えば働いている人の所得を上げる事である。
又、強いて言えば事業を成就する事である。
つまり、費用構造にある。だから費用を単純に悪者扱いするのは間違いである。

忘れてはならないのは、内部留保というのは長期借入金の原資だと言う事である。
内部留保を認めなければ、長期借入金の原資は確保されず。資金繰りに行き詰まってしまうという事である。
また、長期借入金の返済が進まず企業は負債から解放されない事になる。

長期借入金の原資は、他に、税引き後利益、そして、減価償却費が充てられる。
問題は、これらの要素と資金計画とが直接的に結びついていない事である。

すなわち、内部留保、即ち、資本について考える場合、利益配分、税率、減価償却費と非減価償却費、キャッシュフローの構造が理解されていなければならないという事である。

利益というと、すぐに儲けと錯覚する人がいるが、利益と儲けは同じ事ではない。
そういう人に限って金儲け、即、搾取だといいだす。
かと思えば、経営の目的は金儲けだと思い込んでいる人もいる。
どちらにしても極端である。

金儲けは悪い事だと思い込んでいる人も結構いる。金儲けを罪悪のように思い込んでいる人すらいる。
勘違いをしてはいけない。金儲けが悪いのではない。
問題となるのは、金儲けの手段であり、金を儲けた後の事である。要は、どの様にして金を儲け、金をどう分配し、どう使ったかが問題なのである。
人を騙すようにして金儲けをしたり、又汚い手段で金を儲ける事や儲かった金を独り占めしたり、儲かった金で博打や遊興にうつつを抜かすから悪いのである。真っ当に働いて金を儲ける事は何も悪くない。
むしろ、お金は使い方に問題がある場合が多いのである。

反対に拝金主義者、守銭奴のような人もいる。彼等は、お金を神のように崇め、金儲けが総てであるかのように思い込んでいる。
拝金主義者とは言わないが、経営の目的は、利益を上げることだと思い込んでいる人は結構いる。
特に、会計士や税理士のような人間に多くいる。
経営というのは、事業が主であり、利益の追求は副次的な事である。然もなければ企業理念は構成できない。
自動車を製造する会社には、自動車を製造する事に対する理念があり、介護をする会社には介護に対する理念がある。それを抜きにして金儲けばかりを優先させたら、本来の事業目標を見失ってしまう。
利益が経営の目的だとする者は、経営の実体を知らないのである。

注意しなければならないのは、金儲けと利益とは違う。儲けというのは、収入から支出を引いた残金を言う。それに対して、利益は、収益から値である。
現金主義、即ち、現金収支中心の時代は、商売というのはいたって単純だった。その時代は大福帳、つまり、現金出納帳だけで事足りた。
その日に売った商品の代金を集計した残りが儲けである。それから仕入れに必要なお金を差し引いて、残りで生活費を出す。金が足りなくなればどこからか借金をする。そこには投資言う発想は生まれてこない。
しかし、それでは、巨額な初期投資を必要とするような事業は成り立たなかった。投資というのは、期間損益があって成り立つ。つまり、期間損益の根本は、初期投資を一定期間に費用として按分するのである。期間損益では、借金の意味も違ってくる。つまり、借金も投資と絡まっていくのである。
そして、資本という概念も期間損益があって成り立っているのである。

利益の持つ意味を理解する為には、長期借入金の返済、納税額、減価償却費、非減価償却費、そして、利益との関係を見る必要がある。だから、損益とキャッシュフロー、税務会計を結び付けて考えなければならない。これは付加価値と結びつけるとより鮮明になる。
付加価値は、地代、家賃、金利、人件費(所得)、そして、減価償却費と利益からなる。これに対して、キャッシュフローは、長期借入金の返済額と納税額からなるのである。地代家賃は不動産に結びついて長期借入金の返済では、非減価償却費の部分に相当する。減価償却費と人件費、金利は費用である。そして、長期借入金の元本の返済は、減価償却費と税引き後利益が当たられるのである。税引き後利益によって充当されるのは非減価償却費、特に、不動産の部分である。

人件費は、所得である。人件費というのは、労働の対価である。

付加価値は、人件費という労働費(所得)、不動産から派生した非減価償却費、そして、減価償却費、金利、利益からなる。そして、これはキャッシュフローに連動しているのである。
デットクロスというのがある。税は、利益に掛けられる。利益は、収益と費用の差額である。キャッシュフローは、収入から支出を差し引いた額である。費用の要素は、減価償却費であるが、単年度の減価償却費と長期借入金の元本の返済額は一致していない。その結果、初期の利益に対して長期借入金の返済額は過小になり、利益は上がらないが反対に納税額は少なく収めることができる。それが時間がたつに連れて逆転し、償却が終わりながら借入金の返済が終わっていないと、償却が終わった分、利益が過大に計上されていながら、課税額が大きくなって資金繰りが悪くなると言った事象が現実に起こる。

いま一つ重要なのは、不動産は非償却資産であり、売らないかぎり損益に現れてこない。逆に売れば損益に反映されて課税対象となる。不動産を購入する際にあてがわれた資金は、決算上は、利益から支払われないかぎり、清算されずに残ると言う事である。仮に土地を借入金で賄った場合、その借入金の元本は内部利益を返済に充てないかぎり減らない事になる。

この様に経済の仕組みにはいろいろな絡繰りがある。絡繰りがあるから利益が上がる。絡繰りを理解していないと勘定合っての銭足らずと言う事が起こるのである。
これは格言ではなく。現実である。

内部留保には内部留保の働きがあり、内部留保の働きを知らずに、内部留保の良し悪しを議論しても始まらないのである。






       

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