15、投資Ⅱ


投資には、公共投資と民間投資がある。
更に、民間投資には、企業の投資と家計の投資がある。

公共投資と民間投資は、本質が違う。
民間投資が対価を前提として行われるのに対し、一部を除いて公共投資は直接的な対価を前提としていない。
公共投資に投じられた資金は、税金によって回収する事が前提となる。

その為に、公共投資は、期間損益主義ではなく、現金主義に基づいている。
つまり、財政と民間企業とは制度的整合性がないのである。

現金収支だけで貨幣の働きを計測する事は出来ない。
現金収支だけでは、貨幣の働きを理解する事は出来ない。

公共投資に一千億円を投資すると言う事は、市場に一千億円を供給する事を意味する。
その投資が経済的にどの様な働きをするかは、直接的に計測する事は出来ない。なぜなら、反対給付がないからである。
あったとしても、直接、損益に変換する事が出来ない。
つまり、対価としての働きがないのである。

公務員に対する給与も同様である。反対給付、対価として支払われるわけではない。
つまり、特定の顧客が想定されていないのである。
受益者負担と言う事でもない。
つまり、一方通行的に流し、一方通行的に回収するのである。

故に、投資と言っても公共投資と民間投資は基本が違うのである。

公益事業に資金を供出し、それを税金として回収するというダイナミックな回転を前提としているのが公共投資である。
但し、公共投資は、一方通行的な資金の流れになりやすい。

この様な性格の資金は、負債としての性格を持つ。紙幣が典型的であるが、借用証書や預り書が発展して紙幣になったとも言えるのである。
借用書であるから信用の裏付けがなければならない。

財政というのは国民対する借金という性格がある。そして、国民に対する借金が国民の所得になるのである。
国民から借金ばかりをして金を使えば国民は疲弊するし、余り締め付ければ今度は活力がなくなる事になる。

双方向ではないから、供給の仕方と回収の仕方が均衡しないと財政赤字という形で負担が継続的に増大する。それは仕組みの不備の問題である。

通貨の働きは、量と回転で決まる。

所得と財政の関係は、民主主義体制だけではない。
倹約家の君主の下では、民は潤わない。浪費家の君主の下では、民は疲弊する。


民間投資も家計投資と民間企業の投資がある。
家計投資も財政と同じ現金主義である。
民間企業とは違う。

投資には、人材投資、物的投資、金融投資がある。
物的投資には、設備投資、在庫投資、住宅投資がある。
人材投資には、採用投資、教育投資がある。

家計投資で一番大きいのは住宅投資である。

住宅投資は、消費手段に対する投資である。

この様な投資は、手持ち資金に借入金を足して初期投資として支払われる。それを月々の収入の中から返済していく事になる。返済額は、固定支出となる。この様な固定支出を所得から引いた所得が可処分所得となる。

次に比重の大きいのは、教育投資であろう。教育投資は、家計の中で大きな部分を占めるようになってきた。

家計は、生活の場である。生活とは消費である。
つまり、家計における投資というのは、生活手段、消費手段に対する投資である。

家計の投資というのは企業の投資から見るとシンプルである。
しかし、投資の本質に違いはない。むしろ、家計の方が投資としての形を端的に表しているようにも思える。

持ち家にするか、借家にするか。それは、ある意味で思想である。
教育投資というのは、子供の一生を左右する。それを決めるのは親の考え方、人生観である。


民間企業の投資は、期間損益主義によって表される。

物の経済は、投資として現れる。
投資の基本は、生産手段と生産物の関係である。
投資の物の要素は、減価償却費として現れる。
投資の人の要素は、収益と費用、人件費として現れる。
投資の貨幣的要素は、収入と支出という形で現れる。収入は、売上と借入金、支出は、元本の返済と金利と経費して現れる。

設備投資は、生産手段に対する投資である。
設備投資には、物の投資と金の投資がある。

物に対する投資とは、土地、建物、機械、設備等に対する投資である。

初期投資は自己資金と借入資金によって賄われる。
借入金は、返済金として負債勘定から減額されていく、一方で金利は費用計上される。
対極にあるのは、土地や建物、機械、設備と言った資産への支出である。
そして、物、即ち、資産の中の償却資産、減価償却費として費用計上されて減額され。非償却資産は、そのまま据え置かれ、売却する際に収益と費用に仕分けられる。
また、単位期間の費用対効果は、損益として計上される。売上は収益として、人件費は、費用として計上される。
収益と費用の差は利益として計上され長期借入金の原資は、利益と減価償却費から当てられる。
更に、原材料費は費用として計上され、一部は在庫として資産計上される。
税は、収益から費用を差し引いた部分に対して課税される。
ここで問題となるのは、収入と収益、支出と費用は一致していないという点である。
収入は、借入金と自己資金、そして、収益の和である。支出は、借入金の返済額と費用の和である。自己資金は、元金である。費用の中には、減価償却費や評価勘定、繰り延べ勘定が含まれる。ただ、現金収支に大きく関わるのは償却費である。

現実の金の動きは、第一に、借入金と借入金の返済計画、金利、第二に、資産と減価償却費、第三に利益計画、第四に、納税額として現れる。
借入金の返済の要素は、借入金額、借入期間、金利、支払手段である。
減価償却の要素は、資産価値、償却期間、残高、償却手段である。

不良債権を売却して損を計上しても借入金の元本の返済は解決していない。借入金は、負債勘定であり、名目勘定である。不良債権というのは、裏側に不良債務が隠されている。不良債権が処理されても不良債務は取り残されている。
不良債権は売却されたとしても含みが失われた上に借入金の返済がキャッシュフローを圧迫し続ける。その為に、新規投資が抑制される。この借入金の元本は利益から賄われる。
この様な事態が市場全体で起こると市場は収縮を始め景気は逆回転を始める。それがデフレーションである。市場全体に下げ圧力が働き出すのである。
大体、不良債権が表面化する時は、収益が悪化している場合が多い。その為に、不良債権を処理と収益の悪化は相乗的に働くのである。
そうなると、不良債務は一括で処理することは難しい。資金は返済計画によって長期的に処理されるのである。
それでなくとも、収益が好転しても必ずしもキャッシュフローが良くなるとは限らない。利益と借入金、そして、税との関係がキャッシュフローを圧迫し、資金繰りを苦しくする場合があるからである。
だから、キャッシュフローの観点から検証しないと不良債権の処理の痕跡は、検証できない。キャッシュフローが大切だと言われるのである。
お金は手段である。しかし、最終的に困らされるのはお金の問題である。逆にお金の問題だからこそ難しいのである。

投資には、着手から完成までに時間がかかるのである。
重要な事は、営業活動による収入と財務活動による資金計画、会計上の損益、納税計算に時間差がある事である。

投資は、産業構造の基盤を形成する。

損益構造は産業構造を制約し、産業構造は、損益構造を変質させる。
産業の性格を決めるのは、損益構造であり、損益分岐点である。
コスト構造の違いが産業を性格付ける。
コストに人件費の占める割合や償却費に占める割合が産業の性格を左右する。

軽工業のように人件費が占める割合の大きい産業は、所得が低い国や地域に有利に働く。
経済が成長し、人件費も上昇する。
そのために、経済が成熟するに連れて徐々に軽工業は、競争力を失う。
反面、資本の蓄積も進むので重工業へと移行してせざるを得なくなる。
それに従って人件費の占める割合も低下する。
この様に、市場環境の変化は、産業構造、損益構造の変化を伴うのである。

収益は、利益と費用の和である。
費用は、固定費と変動費の和である。
収益は、販売数量と単価の積である。
利益は、市場の伸縮を緩和させる役割がある。

初期投資は、固定費を形成する。
固定費は、初期投資によって定まるのである。

大量生産方式は、市場の拡大を促す。

市場の拡大は人件費の上昇を招く。
市場の拡大は、所得の上昇を必要とするからである。

反面、市場の拡大は、損益構造、産業構造の平準化をも促す。
市場の拡大は、所得の平準化も進める。
人件費が相対的な高い地域や国に対して所得の下げ圧力として働き。
人件費の相対的に低い地域や国に対しては所得の上昇圧力として働く。
市場の拡大は、費用を横断的に平準化する働きがある。
そして、費用が平準化されるに従って収益も平準化される事になるのである。

家内工業のような労働集約型でなく、資本集約型産業である近代工業は、損益分岐点に基づいて投資を行う。

投資の規模と価格の設定は、販売計画に基づく。販売計画は、需要予測に基づく。
しかし、正確な需要予測は難しい。消費者は気紛れなのである。
規模の経済によって一定期間利益を上げ続ける為には、正確な販売計画とそれに基づく資金計画が必要とされる。
売上が予測つかなければ、投資計画が立てられない。
売上は、単価と数量の積である。単価も数量も一定ではなく変動する。
又、費用も一定ではない。
生産も農産物のように天候に左右される産物があったり、事故や災害、政治に左右される原材料もある。
利益を上げるためには、一定量の売上を必要とする。
ところが、収益予想は難しく、固定費は必ず出て行く。それ故に損益には一定の幅を持たせる必要があるのである。
自由競争に委ねると損益分岐点は上昇し、利益が失われる。

会計というのは会計の枠組みの中で費用対効果を測定する。測定する過程で数値情報へと置き換える。
数値情報に置き換える過程では、経済的事象は数値的事象に変質するのである。
原価計算がその最たる事である。
原価は、会計の枠組みの中で作られた事なのである。

経済現象を読み解くためには、会計と資金の流れを良く見極める必要がある。
問題は利益構造にある。
経済が円滑に機能しないのは、損益構造に原因がある。
なぜ、景気が良くならないのか。それは利益が出ないからである。
利益が出にくい仕組みになっているからである。






       

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