経済の分析

 経済の目的が解らなければ、経済を分析する目的も解らない。分析の目的を理解しないで分析をしても、役に立たない結論しか出せない。だから、いっこうに財政も景気も人々の暮らしも良くならないのだ。
 経済の目的と公共の利益が反することがあってはならない。なぜなら、経済の目的も公共の利益も目指すところは、同じだからである。つまり、万人の幸せである。
 基本的に、政治は、公共、集団の利害の問題であり、経済は、私的、個人の損得の問題である。なおさらのこと人民一人一人の幸福に密接に関わっている。

 経済の本質は、需給や市場原理にあるのではない。人民の幸せにある。
 需給から捉えた市場の効率性のみから、経済現象を考えると経済の本質を見誤る。個人の幸せという観点から考えると、経済の本質は、むしろ、労働と分配から考えられるべき性質のものである。それは、労働が、生み出す価値の問題である。労働の生み出す価値の中には、育児や家事のように市場価値にそぐわないものがある。これは、真の男女同権を実現するためにも避けて通れない問題である。

 いかに、価値の構造を解明するかが、重要なのである。そのためには、原価の構造を明らかにする必要がある。分析の目的は、価値の構造を明らかにすることである。

 従来、経済を需要と供給の問題として限定的に捉える考え方が支配的である。しかし、経済を需要と供給の問題として限定的に捉えると経済現象を網羅することはできない。特に、労働と分配の問題は、市場構造、国家体制の根幹に関わる問題である。また、生産と消費は、需要と供給という面だけからは、とらえきれない。市場に出回らない生産物もあるからである。同様に、フローとストックも需要と供給だけで説明できない。需要と供給面からのみ調整すべきものでもない。使用価値と交換価値は、より深い問題を含んでいる。需要と供給は、交換価値により深い関連をもっている。しかし、交換価値のみが価値を持つようになると重大な弊害が生じてしまう。

 現代の経済的価値は、必要性、使用価値ではなく、交換価値によってのみ測られる。しかし、交換価値だけでは、測れない価値がある事を忘れてはならない。貨幣経済下では、交換価値は、貨幣価値に還元されてはじめて市場性を持つ。
 交換価値を使用価値の上位に位置づける考えがあるが、使用価値は、交換価値の基礎となる価値であり、交換価値に従属して派生するものではない。交換価値がなくても使用価値があるものは存在する。
 貨幣価値は、交換価値を象徴化、抽象化したもので実質的価値は、もたない。経済にとって貨幣の働きは、補助的なものである。しかし、一度、貨幣が市場に流通し、市場を支配すると、全ての価値が、交換価値に収斂してしまう。
 それ故に、市場経済や貨幣経済は、自身の価値に特化する傾向がある。
 市場経済や貨幣経済の原則は、全ての社会的財の貨幣的価値への還元である。市場経済下では、貨幣価値に還元できない物は、価値を持たない。愛や正義、人間の尊厳や存在すら貨幣価値に換算しようとする。市場経済以外の社会では、売春は、倫理の問題だが。市場経済下では、売春は、経済の問題である。

 しかし、貨幣的価値に還元できないものがある。しかも、貨幣的価値に換算できない価値の中に切り捨てることのできない重要な価値が、含まれているから厄介なのである。
 ところが、いったん貨幣経済一辺倒になると、全ての価値が貨幣価値に還元される傾向が生じる。結果、金に支配された社会が、成立するのである。地獄の沙汰も金次第。人の意志も正義すらも、金の力によってねじ曲げられてしまう。それは、貨幣の持つ機能そのものも、結果的に失わせてしまうのである。

 労働によって創り出される価値の構造は、管理会計や原価計算によってかなりのレベルまで分析され解明されている。しかし、その成果が、経済学に取り込まれるのはまれである。特に、日本では、会計学の分からない経済学者どころか、初歩的数学すら習得してない経済学者が大手を振って歩いている。
 また、これは、事業体が生み出す価値の問題であり、家内労働の生み出す価値については、別途分析する必要がある。

 労働や産業を一律に語ることはできない。労働にも産業にも質的な差がある。たとえば、精神労働と肉体労働、単純労働と熟練を必要とした労働、特殊な技術や知識を必要とした労働と言う具合にである。
 また、産業には、第一次産業、第二次産業、第三次産業と言う分類はよく知られている。また、労働集約型、資本集約型と言う分類もある。また、地域密着型、地理的な条件に左右される産業と地理的な条件に影響されない産業がある。
 この様な違いから、適正な産業構造を、割り出すのも経済を分析する重要な目的の一つである。

 また、産業には、生態的構造だけでなく、動態的構造もある。つまり、成長の構造である。成長の段階に応じてとるべく政策が違ってくる。動態的構造を明らかにし、とるべく指針、政策を明らかにするのも、経済を分析する重大な目的の一つである。

 景気の変動は、社会に多大な影響を及ぼす。判断を誤ると社会構造を破壊し、場合によっては社会体制そのものを崩壊してしまうことすらある。現象を分析することによって景気変動を引き起こすメカニズムを明らかに、市場を制御するのも重要な目的の一つである。

 経済の基本は、循環運動である。この循環運動は、フローとストックに深く関わっている。フローとストックのバランスが崩れるといろいろな問題が生じ、経済の土台となる構造を破壊してしまうこともある。

 循環運動の本質は、回転運動である。波動の根源は、回転運動である。経済の基本が循環運動であるという事は、経済現象として現れる景気は、波動運動が起こりやすい。また、経済の基本単位である企業活動の基本も回転運動である。
 ただ、経済現象として現れる、規則正しい波動、規則性のある波動ではない。規則性のない波動と言う事は、その背後にある回転運動に乱れがあるという事である。回転運動の乱れが大きくなり、波動が増幅すると経済構造そのものが毀損する。状況によっては、経済構造が機能しなくなる。そのまま放置すると経済が破綻する。
 故に、経済現象にある回転運動の乱れをなくすような経済構造を構築し、回転運動を政策的に制御できるようにするのが、構造経済である。

 経済の問題は、次の六点から分析すべきである。第一に、生産と消費。第二に、労働と分配。第三に、需要と供給。第四に、フローとストック。第五に、使用価値と交換価値。第六に、費用と効果。この六つの要素を分析し、経済の構造を組み立てていくのである。これらの六つの要素は、密接に関連しながら、経済構造を築き上げている。
 六つの要素は、密接に関連してはいるが、影響を及ぼす範囲には、重なる部分と重ならない部分がある。
 六つの要素の関連を分析し、経済現象の背後にある構造を明らかにして、とるべき政策を解明するのが、構造経済学である。そのうえで、経済に、自動制御装置を組み込んでいくのが、構造経済である。
 

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