近代税制を考えると言う事は、貨幣経済を考えることでもある。なぜならば、紙幣という表象貨幣による貨幣経済が確立される前と、以後とでは、税制の本質が違うからである。
 近代貨幣経済が確立する以前の税制というのは、宮廷官房の延長線上にあった。税は、君主の生活や地位を維持するために必要な経費を徴収する事が主たる目的だった。国民の生活や国家経済の維持のために使われる為に徴収されるものではない。

 つまり、税は上納金である。また、国家を前提とした税でもない。なによりも、国家という概念も枠組みも封建社会には存在していなかったのである。つまり、王や封建領主と臣民と言う関係でしかなかった。

 この点を鑑みても近代税制の成立は、国民国家の成立にも関係がある。国民国家の成立と近代貨幣制度、市場経済の確立、そして、近代税制は、相互に関連している。

 つまり、近代税制は、国民国家の確立と近代貨幣制度を前提として成り立っている。封建時代では、税制度の基盤となる財政も宮廷官房に過ぎない。

 国民国家においては、納税は、国民の義務であるという思想が前提となる。なぜならば、国民のと言う思想が確立していなければ、国民の権利と義務という観念は生まれないからである。更に遡って言えば、国民という思想は、国民国家の成立によってはじめて確立するのである。

 そして、納税は国民の義務であることは、財政は国民の権利であることも意味する。国家は国民のために存在することが前提となるからである。

 国家を構成するのは国民であるという事を我々は当たり前のように考えているが、それは、国民国家が確立されたからであって国家という概念すらない時代には、当然、国民という概念も成立していないのである。その時代では、国家ではなく、領土であり、国民ではなく。臣民、領民、或いは農奴でしかない。

 また、国民国家が成立する以前の税制度言うのは、包括的なものではなく。税は、あくまでも君主や領主の都合に依って課せられものであった。その為に、税は、常に争乱、内乱の最大の原因の一つであった。フランス革命もアメリカ独立戦争も税の問題が発端だと言われている。

 国民国家は、それまでの国家観を一変させ、国家の目的を根本から変えてしまう。国家はも国民のために、国民は国家のために存在するという関係が確立されるのである。それは、財政や税制の根幹となる思想をも変化させてしまったのである。故に、納税は国民の義務なのである。

 国民国家が成立すると国民生活の安寧と国民の福利が重要な課題となる。税制においても所得の再配分が重要になる。また、国家は、国民の生命財産を護ることが使命となる。その上に立って財政は、構築される。そこから国民皆兵、徴兵制度の思想も生まれる。
 戦争は、君主同士の戦いから、国家、国民間の戦いに変質するのである。

 つまり、それまで、特定の個人や一族の領土と見なされていた国家は、合目的的な存在、観念的な存在に変わったのである。国民国家にとって国家理念は全てに優先されるべき事であり、合意されるべき事、尚かつ明文化され周知されるべき大事である。故に、国家制度の目的の明文化は必須のこととなった。それが憲法である。
 そして、全ての国家制度は、憲法に根ざして制定されなければならない。税制度も然りである。税の目的、働きから税制度は設計されるべきものである。
 その際、税制の目的は、国家理念に基づく。国家理念は、憲法によって明文化される。
 また、税の目的によって税の対象も変わる。税の主体も変わるのである。翻って言えば、税の対象、税の主体に税の設計思想は表れるのである。

 国家が国民の生活の安定を前提とする様になったことで、国家は、富の分配に直接かかわらざるをえなくなった。

 近代貨幣経済は、国民国家という枠組みの中で成立し、機能した。不兌換紙幣は、国民国家だからこそ成り立つのである。なぜならば、紙幣は、国民的合意と信認の上でのみ成立する制度だからである。

 近代税制が確立される以前は、納税は、物納や用役が主であった。金納はあくまでも補助的手段だったのである。

 現在のような不兌換紙幣を基礎とした貨幣制度が成り立つためには幾つかの必要、前提条件がある。

 貨幣を考える上で、紙幣と紙幣以前の紙幣とでは、本質が違うというという事を念頭に置いておく必要がある。金貨や銀貨は、実物貨幣である。それに対して、紙幣は、表象貨幣である。実物貨幣ではない。
 近代の貨幣経済は、紙幣を基盤として成り立っている。紙幣は、表象貨幣である。表象貨幣の成り立ちは、紙幣の成立による。つまり、近代の貨幣経済は、表象貨幣を基盤としているのである。
 では、紙幣とは何か。紙幣の成立させた要因は、一つは、金に対する預かり証である。第二は、国債である。即ち、借用書である。第三は、有価証券である。第四は、約束手形、支払手形である。第五は、為替手形である。第六は、小切手である。第七に、質券である。何れにしても証書である。
 この様な紙幣の成り立ちは、紙幣の持つ特性をよく表している。第一に、預かり証だと言う事は、金や預金と言った何等かの実体的裏付けを前提としているという事である。更に、貯蓄手段でもある。第二の、国債というのは、負債を根拠としているという点である。第三の有価証券というのは、資本を根拠としているという点である。第四の約束手形というのは、信用手段を意味し、支払手形というのは支払手段を意味している。第五の為替手形と言う事は、決済手段を意味している。第六の小切手という事は、交換手段であることを意味している。
 この様な紙幣を成立させた要因は、現在の貨幣の基本的機能を意味している。貨幣経済を維持するためには、貨幣の持つ機能が発揮されることが、前提となる。
 財政赤字で最大の問題となるのは、貨幣の機能の一部が財政赤字によって圧迫され、あるいは毀損されることによって機能しなくなる場合である。財政赤字の本質は、貨幣の機能に求められるべきなのである。

 なぜ、税が必要なのか。税制度に依らなければならないのか。それは、第一に、貨幣を社会に循環させる必要性からである。それは、貨幣の供給と回収の仕組みによる。
 もう一つ重要なのは、紙幣の貨幣価値の信認を保つためである。貨幣価値の信認を保つためには、通貨の流量を管理する必要がある。それは、貨幣価値は相対的な価値であり、市場の規模と通貨の流量によって貨幣価値の水準が保たれているからである。

 貨幣の流れが循環しないと貨幣の流通する範囲が限定的となる。貨幣の流通する範囲が限定的となると貨幣を市場に浸透させるのが難しくなる。
 貨幣が市場に浸透しいないでその流通している部分や範囲が限定的なものであると貨幣の信認にも制限が生じる。
 それでも、実物貨幣のように貨幣の素材そのものが価値を持つ場合は、良いが、不兌換紙幣のように、貨幣が実質的価値を持たない場合は、紙幣の信認を得るのが難しい。

 税の問題を考える時、税の徴収ばかりを問題にするが、徴収だけでなく税の分配も重要なのである。税の徴収と分配を通じて貨幣は循環するのである。

 所得への再配分は、所得が不足しているところに配分することを目的としていることを忘れてはならない。
 所得の再配分は、税によって国民経済の安定を図る事を前提としているからである。所得の格差によって経済活動が阻害されることを防ぎ、所得を再配分することに依って所得格差を是正し、円滑な経済活動を促進することを目的としている。
 格差や階級、差別は、国民経済を不安定にする原因である。基本的に公平な分配が保証されることによって経済は安定するのである。そこに、所得の再分配はある。単に一律、画一的に分配すればいいと言うものではない。重要なのは、思想であり、哲学である。

 実際に問題となるのは、課税の仕方である。課税の仕方にこそ、税の目的や思想は、端的に表れる。税の目的によって税の対象も変わる。また、税の主体も変わるのである。
 所有、所得、消費、取引、分配を対象として税は設定される。何を対象とするのかは、税の目的と制度の働きから求められるべきである。

 優遇税制というのは、短期的に見て収益を押し上げる効果があったとしても、時間軸を加えた最終的な納税総額は、長期的に均衡することになる。

 税は、時間価値が大きく作用している。時間の作用を抜きにしては税の働きを理解できない。例えば、税の繰延である。税の繰延は、厳密に言うと減税ではない。納税時期の問題である。
 近代会計制度は、経済的価値に時間の害るんを導入したことで成り立っている。それが期間損益という思想である。それに対し、国家財政は、単年度主義、均衡主義、予算主義、現金主義を基本的思想としている。この事は、財政において時間の観念が稀薄だと言える。そして、その為に、国家財政と国民経済との整合性を取ることが困難になっているのである。
 国家財政と国民経済の不整合は、国家財政の悪化や景気の不安定さの一因ともなっている。
 

税制度

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