経済変動というのは、一般に考えられている以上に大きいものである。例えて言えば、為替の変動や原油価格の上昇は、突発的、急激に起こる。ほとんど、専門家ですら予測がつかない。反面に、期間損益上の利益幅というのは、普通、考えているほどあるわけではないである。せいぜいいって売上の7,8%にすぎない。金利程度と言うが、現在の金利程度といったら、ゼロに等しくなる。しかし、利益の時間的価値の一つであるから、金利は一つの目安ではある。つまり、ゼロ金利の時代は、限りなく、利益もゼロに近づいていく。

 また、利益は、単純に損益だけから導き出される性格のものではない。この点に、多くの人には、錯覚がある。利益は、資産取引や資本取引からも生まれる。
 資産取引や資本取り素木から生じる利益を考える上で、鍵や梃子になるのが負債、つまりは、借金である。
 猶、資産取引や資本取引は、直接的に資金や純資産に影響を及ぼす。故に、良い意味でも悪い意味でも損益以上の働きをする事がある。また、資産取引や資本取引の多くは、損益上に現れない、未実現利益である。

 この様な損益と貸借のバランスを見る上で、試算表が重要となる。

 金融機関から融資を受けようとすると、常に、担保を求められる。不良債権というのは、この担保が融資額と見合わないことから生じる。その際、あまり、事業収益は、問題にされない場合がある。
 金融機関にとって、融資した金が回収できればいいのであり、それに見合う担保があれば、とりあえずは問題にならないからである。ならば、裏付けとなる資産が重要なのであり、事業はあまり問題とされない。つまり、金融機関は、融資する時は、資産を担保するのに、企業の業績を評価する際は、損益に基づく。未上場会社は、赤字では、借入による資金調達に支障をきたす。
 しかし、これは、矛盾している。本来、融資は、事業に対してなされるものであり、担保価値が毀損しているときこそ、資金を企業は必要としているからである。それに対して、金融機関は、担保価値が毀損し、企業が資金を必要としているときに、融資するどころか、資金を回収しようとする。銀行は、晴れた日に傘を貸して、雨が降ってきたら、傘を取り上げると言われる由縁である。
 元々、資産と損益は基盤が異質なのだから、資産で担保し、損益で評価されたら、資金がアンバランスになる。これでは資金調達が不安定になり、資金が廻らなくなる。それ故に、経営者は、資金をどこかに貯めておこうとする。
 事業資金というのは、中長期的周期で動いている。それに対して、損益というのは短期的な結果である。故に、損益と収支を分けて説明するの為に、期間損益の概念が会計によって制度的に確立されたのである。それでも、予測ができない変動に関しては、期間損益だけでは捕捉しきれない。そこで、内部留保や資産に含みを持たせておく必要があるのである。
 だから、融資をする際においては、純資産と損益の均衡の上で測るべきなのである。ところが、日本の金融機関も政府機関も会計の本質が理解できないでいる。その為に、破綻しなくてもいい企業が清算されてしまっているのが現状である。
 だから、試算表が重要になってくる。

 経営者にとって今の財務会計はわかりにくい。それは、期間損益を土台としてしか企業評価がされないからである。企業の評価は、むしろ、総資産や純資産の評価にかかっている。それが、期間損益では陰に隠れてしまうからである。

 また、企業実績を資本の論理、総資本利益率や純資産利益率からのみ判断しようとする傾向がある。それは、今の会計制度は、当座企業を前提として成り立っているという事にも、原因している。当座企業ならば一回、一回清算し、その都度、その都度、利益を分配すればいいのだが、継続企業は、経済の変動に備える必要がある。その為には、長期的な視野に立った投資計画こそ評価されるべきなのである。
 また、投資行為や利益処分も単年度に均衡させることよりも長期的に均衡させることを前提としなければならない。単年度毎の利益、短期の収益の均衡のみを追求し、長期的な収支の観点を失うと事業の正しい評価は定まらないことになる。

 利益を上げることは悪い。内部留保も事業継承も同族企業も駄目という前提では、現在の企業は立ちいかなくなる。結局、資本主義は、国家か、大資本かの違いはあっても個人企業や私的企業を認めていないのである。ならば、最初から、国家資本か、大資本、あるいは金融資本に委ねるべきなのだが、そうしたら、経済が成り行かないことを為政者は理解しているのである。つまり、所謂(いわゆる)、給与所得者は、自分の全財産をかけてまでリスクをとりたがらないのである。人間は、一般に、対価に見合った範囲でしか責任をとりたがらないものである。一番良いのは、楽して成果だけを独占することである。
 それは、経営者を一つの階級と捉え、企業を私物化すると決め付けていることからくる誤解である。一種の思想である。
 この問題は、資本主義の根幹に関わる問題であるが、根幹は、資本主義を支える企業家精神をどう評価するかにかかっている。その際、充分に考慮すべき事は、企業家精神を単なる投資行為に置き換えてしまうことである。企業家精神は、資本的な意味での企業価値によって測るだけでなく。企業そのものの社会的基盤や事業内容、業績からも測るべきなのである。

 いずれにしても、企業利益を勘案する場合、単純に、期間損益だけでは、理解しきれるものではない。損益と貸借の均衡と、資金の流れを包括的に見ないと実態は把握できない。その為には、試算表を解析することが重要なのである。

 試算表(トライアルバランス)は、内部会計の集計表である。試算表に基づいて精算表(ワークシート)を作り、外部会計に変換する。その内部会計と外部会計の中間にあるのが試算表(トライアルバランス)である。
 それ故に、企業の経営実態を最も端的に現していると言っても過言ではない。

 試算表は、決算処理一巡の最終局面で作られる。と言うよりも、決算処理の入り口で通常の業務の結果を集計した表である。つまり、通常業務と決算業務の中継部分に、試算表は位置しているのである。試算表には、合計試算表、残高試算表、合計残高試算表がある。

 生産、消費、在庫は一定ではない。更に言えば、生産は、計画できるが消費は市場の動向、大衆心理によって左右される。
 コストにも、イニシャルコストやランニングコストがあり。資本・資金にも、運転資本と経常資本の別がある。おしなべて収入と支出が一定しているわけではない。

 労働と分配は、生産や消費に必ずしも左右されるわけではない。労働と分配を決める基準は、生産や消費とは別の基準なのである。しかし、それは、資金繰りに影響を与える。つまり、収益と費用として生産と消費、労働と分配は、関連付けられるからである。しかも、不足資金は、収入と支出に連動して割り出される。

 その為に、例え、利益が上がっていても資金を調達しなければならなくなる場合が生じる。資金を必要とする時に、資金が調達できなければアウトである。経営は成り立たなくなる。それが積み重なると経済に重要な影響を与える。

 この様な一時的な資金不足を補うためには、収益以外の部分から資金を調達する必要がある。資金を調達するための原資は、利益と資産にある。その為に、経営者は、利益を捻出するのである。

 経営者は、なんとしても利益を捻出しようと考える。そして、利益を捻出する鍵は、決算処理事項や未実現利益、非貨幣性資産に隠されているのである。その入り口にあるのが、トライアルバランスである。

 経営者は、試算表から精算表を作り、精算表上で、加工し利益を捻出するのである。精算表、ワークシートとはよく言ったもので、利益は、ある意味でワークシート上で創られる。その時最も重要な役割を果たすのが、決算整理課目である。むろん、損益上において経常的な利益が上げられるのが前提である。しかし、企業経営には波があり、常に一定の貨幣的収入をえられるわけではない。また、収入だけで支出を賄(まかな)えるわけでもない。それは、利益を上げられないからと言う理由だけでなく、収入と支払に時間差があるからである。黒字倒産という言葉が示すように、支払をしなければならないときに、必ずしも手持ち資金があるとは限らないからである。それ故に、収入と支出を収益と費用に置き換えて一定期間の中で均等にならして利益を計算する必要があるのである。そして、投資家は、その利益と資金の裏付けとなる資産の内容から資金を投資、融資するのである。その加工する直前の集計表が試算表である。

 ワークシートには、六桁精算表、八桁精算表、十桁精算表などがあり、それぞれ目的に応じて使われる。六桁精算表は、試算表から損益、貸借を分けた原始的な精算表である。八桁精算表は、それに決算整理事項を加えてものである。一般に、実務では八桁精算表が使われる。
 この精算表の構造こそが会計制度の本質、言い換えれば、資本主義、市場経済の基本構造を現している。
 市場経済や資本主義の本質は、減価償却費や繰延勘定と言った決算整理事項や未実現利益、純資産と言った貨幣に換算できない、非貨幣的な部分に隠されているのである。
 それは、市場経済、資本主義が期間損益を土台として、一定の期間で、損益バランスを明らかにする、開示することを前提として成り立っているからである。
 しかし、それ以外の基礎となる部分、実際の経営の核となる部分は、資産表に表されるのである。つまり、実際の財や資金が生み出す部分は、試算表によって捕捉しうるのであるが、資金を生み出す部分、つまり、隠された資産価値は、試算表からは捕捉しえない。そして、その隠された部分から生み出す資金が、経営を継続、発展するための活動資金なのである。

 キャッシュフローが脚光を浴びているが、実際は、トライアルバランス(試算表)があれば事足りるのである。もともと、収益と費用が確定するのは、決算整理が処理された後である。つまり、生のデータを決算整理という加工をして決算書を作成するのであるが、その加工以前の生データは、トライアルバランスに集約されている。そして、試算表を加工する処理の内容は、繰延勘定と非貨幣性費用勘定なのである。つまり、非貨幣性費用を処理することなのである。故に、本来改めてキャッシュフロー計算書を作成するまでもない。試算表が読めれば十分なのである。

 逆に言うと、決算整理事項こそ、会計制度が成立した要件であり、また、資本主義を資本主義とたらしめる要件なのである。資本主義を特徴付けているのは、決算整理事項の他は、資本勘定である。

 これは、利益概念を要件的に定義した表とも言える。つまり、利益というのは、試算表から損益計算書、貸借対照表に整理する過程で算出されると言える。ただ、この過程が確定したものでないと言うところに、会計制度の問題点が隠されている。利益は、意見と言われる由縁である。

試算表とキャッシュフローの違いは、売掛金、受取手形、買掛金、支払手形、即ち、信用取引の部分である。

 信用取引は、資本主義における取引を象徴している。つまり、信用取引は、金融取引との接点でもあるからである。信用取引には、金融的作用がある。この金融的な作用は、資本主義取引の期間でもある。取引の前提は、与信行為でもあるのである。

 試算表には、残高試算表と合計試算表がある。経営の成果だけを問題とするならば、残高試算表だけ見ればいいが、総体を見ようとしたら、合計試算表が必要となる。

 更に、決算整理事項を確認したければ精算表(ワークシート)を確認すればいい。ワークシートは、読んで字のごとく作業台である。試算表と精算表は誤魔化しようのない財務諸表なのである。

 そして、ワークシートを通じて、所謂、期間収益と期間費用が確定し、期間利益が計算されるのである。


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