バリューチェーンというのは、価値の連鎖である。価値は、あらゆる局面で生じる。ただ、局面、局面で価値や利益を生み出す、仕組みや構図が違うのである。それを一律に扱うのは、熱が上がれば、解熱剤しか飲ませないような、藪医者のような者である。発熱と言っても原因は多種多様であり、その原因に応じた処方をすべきなのである。同様に規制をただ緩和して競争を促せば何でもかんでも解決できるというのは、策がなさ過ぎる。規制緩和は、万能薬ではないのである。

 なぜ、あらゆる局面で、価値や利益が生じるのかと言うと経済の仕組みは、分配構造だからである。経済の仕組みを考える時、効率性ばかりを重視するとその本質を見失う。経済の仕組みの重要な機能の一つに労働と分配がある。
 仮に、失業率が高まり、この仕組みが機能しなくなると、公的機関は、わざわざ仕事を作ってでもこの労働と分配を機能させようとする。仕事を作ることで配分の権利を作り出している。
 つまり、市場や産業の役割の一つがこの労働と分配であり、その最終局面に家計がある。最終的局面である、家計は、共同体であって市場経済や貨幣経済が機能しない。
 財や貨幣の偏在は、この仕組みの歪みがもたらすものである。過剰流動性の弊害は、貨幣が、一部の投機筋に滞留することである。1990年代のバブル現象や2008年の石油価格の高騰は、将に、この弊害が顕著に現れた霊である。
 
 経済は、分配である。格差も、食糧問題も、エネルギー問題も突き詰めてみると、分配の問題に至る。
 この分配は、価値の連鎖によって機能する。故に、この価値の連鎖が失われたり、歪められると経済体制は円滑に機能しなくなる。
 貨幣は、分配のための道具の一つに過ぎない。つまり、貨幣は、交換価値を表象し、市場で表示された価値と同等の価値を有する財と交換する権利を表象した物にすぎない。利益は、貨幣価値によって表示された成果である。
 貨幣は、市場を通じて需給を調整しつつ、交換を通じて財の分配を促進する触媒の役割を果たす。ある意味で貨幣は、黒子である。その黒子が主役を押し退けて市場を牛耳ってしまう。それが問題なのである。
 経済の仕組みは、財の分配にその本来の目的がある。貨幣価値が全てに優先するわけではない。ところが、貨幣価値で表象される利益が全てに優先されてしまうと分配という機能が破綻してしまう危険性が生じる。つまり、利益を上げることだけが目的となり、分配のための仕組みが破壊されてしまうのである。

 分配を円滑に行うためには、プロセス、過程が重要になる。利益ばかりを追い求めるとこのプロセス、過程が破綻してしまう事態を招くことがある。そして、プロセス、段階間の分配上の不均衡が生じることがある。例えば、石油業界が良い例である。
 石油業界と一括りするが、石油業界も一つの全体としてのまとまりを持っているわけではなく。幾つかの段階や階層を持ち、それぞれの次元で収益力もリス、産業構造も違っている。
 原油価格の高騰によって川上部分である石油メジャーや産油国が、空前の利益を上げているが、中流部分である精製部分は、収益が圧迫されて再編成が加速している。末端の石油販売や、卸、精製会社は、収益の悪化によって廃業や再編をせざるを得ないような所に追い込まれていると言った例がある。この様に、一つの業界内部でも分配に偏りが生じる。

 価格というのは、市場だけで決められるわけではない。現に、原油価格の高騰は、市場の需給だけでは説明が付かないレベルまで達している。
 価格決定ほどこが行うかと言う問題は、単純ではない。どこで行われても一長一短がある。

 市場は単細胞ではない。

 故に、産業や市場のような経済の仕組みは、過程が重要なのである。その過程で価値の連鎖が生じることが重要なのである。
 産業では、研究、開発、調達、製造、販売、流通、経理、財務、人事、労務、総務、システム、あらゆる局面で価値が創出されているのである。

 サプライチェーン・マネージメントは、この家庭を管理することから利益を上げようと言う思想、手法である。過程は、事ほど利益を上げる者なのである。

 利益は、損益上、取引上だけで生み出されるわけではない。貸借上からも生み出される。その一つが、資産(固定資産、流動資産、貨幣)が生み出す利益である。純資産からも利益は生み出される。
 また、過程が生み出す利益もある。生産過程や流通経路というのは、利益の温床である。配送や運送、物流産業は、過程が生み出した産業である。何も、過程を省略したり、圧縮することだけが利益を生み出すわけではない。手段を変えたり、経路を変えたりするだけでも利益を生み出すことができる。その典型が、情報産業である。情報伝達の過程にいろいろな仕組みを持ち込むと、それが、新たな価値を創造する。
 その他には、市場が生み出す利益がある。時間が生み出す利益。権利が生み出す利益(営業権、特許)などもある。売掛金や固定資産を債券化しようと言う動きが活発化している。リースなども、資産から生じた価値である。そう言う意味では、負債も価値を生み出す。
 また、コストが生み出す利益もある。清掃や営繕などは以前から一つの分野として確立されている。組織、仕組みが生み出す利益もある。経理や庶務の仕事を外注すると言った本来、組織の一部の機能と見られたものまで、新たな価値を生み出している。人材派遣業は、れっきとした産業として認知されている。
 会計や法と言った制度が生み出す利益もある。会計処理の仕方で利益が全然違ってくる。デノミが生み出す価値というものが話題になったことがある。法や制度の変更やいろいろな価値を生み出す。それにまた、情報が生み出す利益がある。情報はただという考え方は成り立たなくなっている。天気予報ですら、価値を生み出している。乱数表が巨額で売買されたことすらある。
 空間(距離や環境)が生み出す利益もある。また、時間差が生み出す、例えば、裁定取引のようなものもある。メンテナンス、作業が生み出す利益もある。保安や点検は、産業としても成り立っている。
 環境保護による負担と言う記事が日経新聞に載っていたが、なぜ、環境に対する投資は負担であり、ITに関係する投資は、ビジネスチャンスというのであろうか。環境を良くしたり、社会を良くすることを負担と感じているメディアの存在は、現代社会を象徴している。環境や社会を良くすることは彼等にとっては、負担なのである。しかし、視点や認識を変えるとこれもまた価値の創造になる。

 また、産業や企業の成長過程からも価値は生み出されて、市場が形成されている。資本市場が好例である。

 情報の非対称性が問題となる。しかし、情報の非対称性が価値の源泉でもある。

 絶対量が一定ならば、一部で利益を独占すれば。相対的に他の部分では利益が減少すると考えられる。

 経済価値は、労働と分配の過程で派生する価値であって貨幣的価値、価格だけを意味するものではない。
 市場には流れがあり、市場という一般には、単一な空間を想像しがちだが、実際は、いろいろな形態、仕組みの市場が複雑に連なり、組合わさって全体を構成している。しかも、個々の市場は、それぞれ独自の原理や構造、形態、機能を持っているのである。同じ業界だからといって一律ではない。そして、個々の局面、局面で価値が創出されるのである。それを個々の局面において適正な配分が可能な体制、構造を築き上げ羅れなければならない。何も対処しなければ、配分に偏りが生じる。その偏りは、社会的格差の基や差別に原因にもなる。いかに、公正な配分を可能とする体制を築くかが重要な鍵を握っている。

 バリューチェーンとは、価値の創造の連鎖である。価値の連鎖をもたらす仕組みが経済を発展させているのである。

 経済は、分配である。そして、その分配の仕組みこそが経済の構造なのである。会計は、結果に過ぎない。つまり、外形に過ぎない。実体は、経済間構造そのものにある。利益我、全てに優先し、目的化してしまったことが問題なのである。利益、利益と、利益に群がるのは、ボールに群がる下手なサッカーのようなものである。

 本来の価値というのは、創造性にある。その創造性を元として利益は生み出されるべきなのである。目先の利益ばかりを追って創造性が失われることの方が危険なことである。


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