経済を構成するのは、共同体と市場である。市場経済体制下では、経済というと、市場をのみ指して言う場合が多い。しかし、経済は、市場のみでできているものではない。むしろ、家計にせよ、経営主体にせよ、財政にせよ、経済の基本単位は共同体にある。
 共同体の基本的機能は、分配にある。それに対し、市場の基本的機能は、交換にある。いずれも貨幣を媒介としているが、基本的機能が違う。そこで重要になるのが、共同体の範囲と市場の範囲である。

 いずれにしても、経済を構成する単位の範囲を特定する事が重要になる。経済は、全体と部分から成る。経済の単位の範囲を特定するにしても全体と部分とを明確にする必要がある。

 産業は、市場と経営主体(共同体)から構成される。市場と経営主体が組合わさって全体を成立させている。また、個々の産業の境界線は必ずしも確定されているわけではない。
 故に、産業の全体像を掴むためには、境界線を確定し、範囲を特定することが重要な鍵となる。つまり、どこで線引きをするかである。ところが、産業の範囲を特定するのは、非常に難しい。それは、産業の定義に関わる問題だからである。それも、要件定義でなければならないからである。

 また、範囲の定義には、産業の境界線が問題となる。境界線、単に、産業全体の境界線だけでなく。産業を構成する部分の境界線も重要な意味を持つ。つまり、全体と部分の範囲である。

 範囲を特定するためには、範囲を特定する為の目的が重要となる。つまり、どの様な目的、何のために、産業を特定しようとしているかである。

 産業の範囲を確定する、また、分類するためには、目的に応じて、何等かの要素、キーワードを設定することが肝要となる。

 簡単に鉄鋼業界とか、エネルギー業界、小売業界、流通業界などと言う概念を日常使うが、業界毎の景気変動や収益力などを分析しようと思ったら、個々の業界を厳密に定義し、範囲を確定する必要がある。

 何をもって業界を確定する必要があるのか、需要なのは、目的であり、問題は、その目的に沿った前提条件である。だから、産業の定義は要件定義とならざるをえないのである。

 範囲を特定する目的の一つに経済の分析や経営分析がある。しかし、経済分析や経営分析をみても、何か、釈然としない部分が残ることがある。それは、経済分析や経営分析が、なぜ、何の目的で分析をするのかが、ハッキリしない場合が多いからである。
 だから、どうした。ならばどうしたらいいのと言う事の解答になっていない場合が多い。つまり、一番肝心なところがぼやけているのである。
 範囲を特定するなら、例えば、固定資産が大きい産業とか、付加価値が高い産業、石油製品が費用に占める割合が高い産業、売上総利益率が高い産業と言ったように、目的を持って範囲を特定する必要がある。
 それは、何の目的で分析をするのか。例えば、固定資産が大きい産業には、どの様な企業があり、どの様な経緯で、成立し、そして、どの様な長所欠点があるかを明らかにした上で、固定資産が大きい産業には、どの様な政策で望めばいいかを明らかにすると言った目的や、原油価格の上昇がどの程度の範囲に、どの様な企業に影響が及ぶのかを明らかにするといった根本的な目的を前提とするからある。
 それによって、企業集団の全体像の範囲を特定すると同時、その全体を構成する個々の企業の経済に与える作用を明らかにするのである。
 産業分類も目的に応じた分類をすべきなのである。そして、その分類に基づいて産業の構造を明らかにし、産業の形成と、産業政策を決めるべきなのである。それが構造経済である。

 企業集団も、ただ単なる結びつきだけで捉えるのではなく、共通する基盤や要素によって分析する必要がある。それによって範囲に対する基準も変わってくる。

 範囲にもいろいろある。例えば、自動車、石油、鉄鋼と言った業種の範囲、製造業や小売業と言った業態の範囲などがある。また、企業集団であれば、資本的関係の範囲、人的関係の範囲、業務関係上の範囲、会計的範囲などがあり、境界線が極めて曖昧である。また、組織上の範囲、どこまでが正社員で、どこまでが組合員、経営者なのかと言った範囲もある。事業部制や販売エリアといった組織形態上の範囲、エリアや制度上の範囲もある。

 範囲というのは、細分化、セグメントとの関係も見逃せない。いずれにしても、企業集団や産業を考える上で、範囲というのは重要な要素である。

 範囲には、第一に、機能的範囲、第二に、空間的範囲(地域)、第三に、外形的、形式的範囲(商品)、第四に、会計的範囲、第五に人的・組織的範囲がある。
 
 範囲にも指向性や方向性がある。つまり、垂直方向の範囲と水平方向の範囲、時間的順逆のある範囲などがある。また、特定の習性や性質のある範囲などがある。

 市場は単細胞ではない。市場は一様ではない。範囲を特定したくても市場も企業も、企業集団も複雑に絡み合い、一様ではない。市場という単一で平板な空間を思い浮かべるが、実際は、市場の形態は一様ではなく、いろいろな形態の市場が複雑に重なり合い、結びあって全体を構成している。しかも、全体を構成する一つ一つの市場は、各々、独自の原理や構造、形態、機能を持っているのである。更に、企業集団は、絶え間なく合従連衡を繰り返し、また、再編を繰り返している。市場自体が全体でもあり、部分でもある。故に、市場の範囲を特定するのは並大抵ではない。同様に企業集団の範囲を特定するのも難しい。しかも、いろいろな人間や機関のりがい、思惑が絡み合って、単純に、一つの基準で割り出すわけにはいかない。その典型が会計上の連結基準である。



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