私は、陰謀論に組みする気はない。ただ、国家に匹敵するぐらいの力を発揮する企業群があることは事実である。そして、その企業群の動きや発想、考え方、体制が世界経済のみならず、政治や力関係にも重大な影響を与えていることも否定はしない。だからといって彼等が絶対的な力を発揮したり、悪意を持って一体的、謀略的な動きをするとは思えない。問題になるとしたら、市場を独占したり、また、カルテルを結ぶことによって引き起こされる弊害である。それも、倫理的に考えていたら、理解することはできない。あくまでも、機能的、構造的な問題である。

 企業集団というのは、市場経済が確立されて以来常に問題を孕んでいた。それは、企業は、常に集団化する事によって力を発揮してきたからである。そして、企業集団は、排他的存在であり、その集団化、組織化の仕方によっては、市場の規律が乱されると考えられてきたからである。

 特に、市場が国際化し、規模が地球的規模になると国家の枠組みを超えた合従連衡が成立し、国際秩序にとって脅威となってきたからである。それ故に、経済の基本単位を見直し、個別企業から一定の関係を基準として企業集団を基本単位としようとする機運が高まってきた。それが連結主義である。

 国際会計基準においては、連結決算が基本となってきつつある。連結決算というのは、会計主体を企業単体としてではなく、資本的に結合した企業集団とすることを意味している。つまり、会計上、経営主体は個々に独立した企業を指すのではなく、資本的な関係によって結ばれた企業集団を指すのである。

 近年、我が国でも会計制度の抜本的な改正があった。その中でも最も重視されたのが、連結会計制度である。連結決算とは、会計原則にもある会計主体の在り方の変更であり、会計主体の変更を意味する重要な改正である。それまで、企業単体を会計主体としてきたのを一連の企業群、企業集団を会計単位の一つの単位として規定する考え方である。つまり、経営主体を企業集団を基本とする事が、我が国でも公に認められたことになる。これは画期的なことである。

 会計制度上における連結決算で最も問題となるのは、内部取引である。内部取引を操作すると利益を操作することが容易になる。それが、連結決算を重視するようになった動機の一つである。また、連結される企業群の中に、非上場会社を交えると決算情報が不透明になる。
 西武グループの中核企業である国土開発が未上場であったことが、西武グループ全体の決算を不透明にしていたという事が好例である。いずれにしても、内部取引の処理は、重要な課題であり、その在り方は、経済全体に影響を与える。また、不公正な競争の温床となる。

 企業集団は、その規模や在り方によっては、市場を独占する。それ故に、我が国は、持ち株会社は、長い間、禁じられてきた。しかし、連結決算を主体とした会計処理に変更されると同時に、持ち株会社も事実上、解禁されたのである。

 企業は、成長、拡大するに従って、適正な規模の単位に分裂を繰り返す。それは、細胞分裂のようなものである。構造には、構造を維持するために適正な規模がある。構造を維持するために、一定の規模に到達すると組織は分裂をする。まず、組織は一定の規模になると、組織を管理するための機能が生じ、それが他の部分から分離独立して一つの部署を形成するようになる。その次ぎ、組織は、その目的に応じてここの部分が独立し、分裂する。分裂は、内部分裂と、外部分裂とに大別される。内部分裂とは、その組織内部における分裂を意味し、外部分裂とは、その組織の一定の部分が自立し、独立した組織として母体となる組織の外部に成立する事を意味する。この様な分裂を繰り返しながら、組織は拡大していく。
 組織は、単体、単細胞的な組織から始まる。そして、それは、やがて集権的機能組織に発展する。更に、分権的の機能組織になり、やがて、分社されて企業群を形成するようになる。ただ、この過程は、一定ではなく、組織の置かれている環境によって発展過程には差が生じる。例えば、地理的に離れたところに、複数の拠点を持つものは、地理的な条件に基づいて分裂する。また、研究や開発販売と言った特殊な機能を発展させる事によって、分裂するものもある。生産拠点を独立させる場合もある。また、周辺的業務を取り込む形で、企業群を形成する場合もある。また、同業者を取り込む形で、企業の効率化を計る場合もある。異業種に進出する形で、垂直的な企業群を形成することもある。いずれにしても、企業は、発展するに従って企業群を形成するようになる。

 企業集団の形成には、水平的な結びつき、結合と垂直的な結びつき、結合がある。水平的結びつきというのは、同業者間で提携や協定によって結びついたり、買収、合併、吸収、株の持ち合い等によって資本的に結びつくことであり。垂直的結合とは、異業種の企業が、提携や買収、合併、吸収、株の持ち合い等によって資本的な関係によって結びつく事である。

 企業集団を形成する結びつきには、第一に、取引関係を中核とした結びつき。第二に、資本関係を中核とした結びつき。第三に、金融資本による貸借を中核とした結びつきがある。この中で最も強い結びつきは、資本による結合である。また、第四に、公共機関や国家と言った何等かの権力や公共事業のような利権によって結びつく企業集団もある。第五に、金融制度や鉄道と言った何等かの制度やシステム、機構に結びつくことによって形成される企業集団もある。

 取引を中核とした結びつきには、日本的なものとして有名になった系列がある。系列企業の結びつきは、緩やかなものであるが、系列の中核となる企業が、親会社、元請け会社のような形によって柔軟な構造を構築した。不況期には、下部の下請け企業や子会社に余剰人員や経費削減を押し付けることによって中核企業を温存した。

 資本による結合は、最も強固な結合状態であり、吸収や合併によって形成される。その最も代表的なのが、持ち株会社や親会社のような経営主体によって一元的に支配されているコンツェルン、財閥である。コンツェルン、財閥は、異業種を縦断的、機能的に結合した企業集団である。日本では、戦後、この様な財閥は解体された。
 資本的結合の中には、株の持ち合いという形式もある。株の持ち合いは、日本において、持株会社が禁止された為、旧財閥に属す企業集団がお互いの株を持ち合うことで結びあって形成された企業集団である。

 基本的には、企業集団とは、合目的的な集団である。
 東インド会社のように、国家戦略に基づく企業集団もある。産軍複合体のように何等かの国家の利権を中核にして成立する企業グループもある。

 近年企業集団は、多国籍化、巨大化する傾向がある。
 企業集団は、多国籍化することによって国家間の制度や経済環境の違いを活用してカントリーリスクや為替変動リスクをはじめ数々のリスクを回避する事が試みられている。
 その中にタックスヘブン、為替変動などを利用した租税回避行為や利益操作行為などがある。中には、マネーロンダリングのような違法行為ギリギリのものも含まれ、税制度や会計制度の統一化を促進するなどの影響がでている。反面において、低賃金の国などを求めて国際分業を促進する効果ももたらしている。それがまた、産業の空洞化などをもたらす原因ともなっている。
 この様に企業集団の利益と個々の国家の利益が合致するとは限らず、時に、国家の利益と多国籍業の利益が相反することがある。この事は、企業の無国籍化を促進する。つまり、経営主体は、どの国に帰属するかが問題がある。どの国に帰属するかは、納税義務にも絡む問題である。

 企業集団は、国家と対立したり、国家目的と相反する行為をとって各所で国家と衝突することが多くなった。その為に、資源ナショナリズムの原因ともなっている。しかし、企業集団は、現実には、各国の経済の枠組みや国際経済の枠組みを構成している。つまり、企業集団の在り方は、環境問題も含めて世界経済の先行きを占う重要な要素なのである。

 市場経済は、市場独占との戦いであった。特に、アメリカにおいて、この戦いは、建国の理念を賭した戦いなのである。それに対し、企業は、常に徒党を組んで市場を自分達の支配下に置こうと企ててきた。多くの人は気が付いていないが、独占禁止法こそ、資本主義、市場経済を思想的に表した法はない。
 国家は、市場の規律や原理を守るために、あるいは市場を規制し、また、市場の規律を緩めてきた。その中で、企業は、水平的な繋がり、垂直的な繋がり、機能的な繋がりと手を替え品を替え、企業集団を成立させてきたのである。そして、企業集団の在り方が常に問われてきたのである。

 アメリカでは、これまで五回の再編のブームがあったと言われている。そして、その都度、独占禁止法が強化されてきた。日本にも幾度かの波があったと言われるが、アメリカほど神経を尖らせてはこなかった。

 アメリカでのブームの第一回目は、19世紀末に重要産業部分で有力企業が独占支配権を強化するために、零細事業者は、呑み込む形で行われた。
 第二のブームは、1920年代に銀行、ガス、電力と言って公共性の高い企業が、持ち株会社を中核として行われた。
 1914年に成立したクレイトン法の影響を受けて垂直的統合が活発に行われた。
 第三のブームは、1960年代におき。反トラスト法を回避するために、垂直的、水平的統合を避け、コングリマリット型の統合が主となった。
 第四回目は、1980年代、株式市場の活性化と伴ってマネーゲーム型のM&Aが盛んに行われた。
 そして、今日(1990年以降)、情報通信や金融分野での統合が活発化していると言われている。(「M&Aがわかる」仲野 昭・笹川啓介著 実業之日本社)
 この様に、その時代その時代の世相、社会の要望を受けて企業集団に対する認識も変わってきた。特にも経済のグローバル化に伴い、国際競争力が問題となり、企業集団に対する考え方も大きく変化してきているのである。それに伴い覇権主義的な思想も台頭してきているのである。

 結局、産業の問題や経済政策の問題は、究極的には、企業集団の在り方に収斂する。



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