産業は、大河に例えることができる。産業の働きを考える時、局地的な生産性や効率ばかりを見ていたら理解できない。木を見て森を見ないと言うことになりかねない。大河の役割は、ただ、飲料だけにあるわけではなく。周辺の大地を潤し、農産物や家畜の育成に欠くことができない水や栄養を周辺地域に行き渡らすことも重要な働きなのである。
 大河の働きには、水や養分を分配することにもある。それ故に、産業政策は、灌漑工事みたいなもの。広い範囲に万遍なく水を行き渡らせる事が肝心である。偏りや不測が生じると水争いが生じる。水利を独占することは許されない。ダムを築くか流れを管理するか。それが市場経済の本質なのである。
 その分配という機能を見落とすと産業のあるべき姿をもわからなくしてしまう。そして、ただ、効率や生産性のみを追い求めることになる。

 競争力、競争力と競争力だけを問題にしたら、企業は、社会から浮き上がってしまう。働きが悪い、生産性が低いと言ってめったやたらに解雇するわけにはいかないのである。生産性や効率性ばかりを追求するだけでは、企業は、社会的責任を果たせないのである。第一、社会が企業に要求しているのは、雇用の創出である。それは、企業の社会的な貢献、責任が財の生産と分配にあるからである。

 産業には、上流部分と下流部分がある産業が多く見られる。その好例が石油業界である。石油業界は、開発・生産の上流部分と精製・販売の下流部分からなる。

 石油価格は、2003年のイラク戦争を境に高騰し続けている。NYMEX原油先物市場のWTIは、2003年、1バーレル、30ドルだっのが2006年7月には、78.40ドルと3年間で2.5倍に跳ね上がった。(「ガソリン本当の値段」岩間剛一著 アスキー新書)これは、第三次石油危機と言っても過言ではない状況である。
 この様な石油の高騰は、背景には、国際石油産業の構造的問題が潜んでいる。

 産業は過程である。産業には、段階がある。産業の上流と下流では、産業の有り様が変わってくる。

 第一次石油ショックや第二次石油ショックは、上流部分が発生源であった。その主役は、OPECである。また、多分に政治的な要素の影響がかかわっている。
 しかし、今回の石油価格の高騰は、第一次石油ショック、第二次石油ショックと事情が違い、下流部分が主たる原因となっている。

 国際石油産業においては、収益の7〜8割を上流部分で稼ぎ出している。それに対し下流部分は、利幅が薄い上、近年環境問題の高まりから新規精油所の建設には、厳しい環境規制がかかり、多額の投資が必要となる。
 その為に、新規設備への投資や設備の更新投資が滞り、製造設備の老朽化が進んだ言う背景がある。
 また、高騰した石油価格がいつ暴落するかも予測できない。そのために、アメリカの石油業界は、新規投資を控え、老朽化した設備をフル回転させるのが最も効率的なのである。また、石油の高騰は、石油産業に莫大な利益を呼び込んでいる。2006年のエクソンモービルの純利益は、約400億ドル(4兆8000億円)と天文学的数字に達している。この金額は、途上国のGDPに匹敵する。

 また、上流部分と言って開発部分は、ハイリスクハイリターンの世界である。石油探索には多額の資金を必要としている上、千三つ、即ち、千本井戸を掘って三つあたればいいと言う、俗に言う山師の世界である。その反面、一度、石油を掘り当てれば莫大な利益が上げられる。売上高営業利益率が50パーセントを超える企業が沢山あるのである。(「ガソリン本当の値段」岩間剛一著 アスキー新書)

 しかも開発コスト、生産価格は、原油価格に連動している。原油価格の上昇は、それまで生産コストが見合わなかった油田の開発や新規エネルギーの開発に弾みをつける。

 2008年度決算では、石油業界は、川上の部分が空前の利益を上げているのに対し川下の部分は、存亡の危機に立たされている。

 産業の独占は、全ての領域において為される必要はない。ロックフェラーは、物流を抑えることで石油業界を支配したし、OPECは、原油の生産部分を抑えることで価格をコントロールしようとした。
 独占というのは、産業の特定の部分を抑えるだけでも可能なのである。ただ、表面的に産業を捉えるだけでは、独占の実相を捉えることはできない。独占というのは、構造的なのである。

 石油産業は典型であるが、いずれにしても産業の上流下流の在り方は、産業の消長に重大な影響を与えている。

 上部構造と下部構造という見方もできる。下部構造というのは、産業の基礎であるガス、電気、水道、通信、交通と言ったインフラストラクチャーと原材料、素材、部品と言った産業の米と言われる部分からなる。
 それに対し、上部構造というのは、加工、組み立て、製造、運送、販売といった産業の実現部分から成る。
 この様に、産業は構造的であり、見る角度によって全然違った実相を現す。

 日本は、資源に乏しく、食料、エネルギーと言った重要物資の自給率が低い。その為に、素材、原材料を輸入し、加工して輸出し、外貨を獲得しない限り、国家経済を維持していくことが困難である。しかも、島国である。交易路が途絶えればすぐに必要資源が枯渇する。これは、日本の産業の特性を規定している。そして、経済のみならず国防の基本認識もこの点を前提とせざるを得ない。つまり、世界平和の護持は、国是とならざるをえないのである。

参考
(2008年5月1日、AP)
 米エクソン・モービルの1-3月期、原油高で17%増益
 米石油大手エクソン・モービル(Exxon Mobil)が1日発表した1-3月期(第1四半期)決算は、純利益が前年同期比17%増の109億ドル(約1兆1,300億円)だった。記録的な原油価格の高騰で探査・生産の上流部門の利益が押し上げられた。
 四半期の純利益としては、2007年10-12月期の117億ドルに次ぐ高水準だった。同社のIR部門を統括するバイス・プレジデントのHenry Hubble氏は電話会見で、「原材料価格が高騰する中でエクソン・モービルの統合された事業ポートフォリオがうまく機能し、記録的な第1四半期の業績を達成することができた」と述べている。
 一方で、結果は市場予想を下回っていた。一株利益は2.03ドル、売上高は前年同期比34%増の1,168億ドルだったのに対し、市場予想は一株利益が2.13ドル、売上高が1,240億ドルだった。
 エクソンによると、精製マージンが世界的に大きく低下したことで、純利益が10億ドル押し下げられたという。精製マージンは原油価格とガソリンなどの精製品の価格差を表すもの。
 1-3月期の平均原油価格は1バレル98ドルで前年同期から約70%上昇し、今週に入り119.93ドルにまで達している。この原油高を受け、既に発表された石油大手各社の第1四半期決算も大幅な増益となっている。
 欧州の石油大手では、英BPの純利益が前年同期比63%増の76億ドル、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが同25%増の90億8千万ドルだった。また、米コノコ・フィリップスは純利益が同16%増の41億4千万ドルだった。米石油第2位のシェブロンは2日に決算を発表するが、各社と同様大幅な増益となる見込み。

(2008年4月15日 徳島新聞)
 県内中小GS経営悪化 暫定税率期限切れ、返済日迫り苦悩
 道路特定財源の暫定税率期限切れで、徳島県内の中小零細ガソリンスタンド(GS)の多くで資金繰りが悪化している。税率分の値下げや価格競争で売り上げ、収益ともに減少し、三月に仕入れた高い課税ガソリンの代金が四月末の期日までに支払えないGSが出る可能性もある。金融機関から運転資金を借りた際の利子を補助する国の支援策は来週中にも始まる見通しだが、抜本的な解決策とはいえず、店主らは頭を抱えている。
 一日からガソリンの仕入れ値は税率分で一リットル当たり二十五円下がったため、三月と四月の売り上げを単純比較しても税率分だけ減る。四月初めに客が殺到し一時的にガソリンの販売量は伸びたが、暖房器具に使う灯油が減るため、大半のGSは四月の売り上げ、収益ともに減るとみられる。
 GSは、ガソリンなどの仕入れ代金を翌月末に元売り会社や特約店に支払う。高く仕入れた三月分の支払いは二十日以降に発生する。
 阿南市内の個人経営のGSは価格競争に対応するため、一日から課税ガソリンの在庫を二十円値下げ販売し、約十万円の赤字が出た。客が増えたのも数日間だけで、販売量は伸びなかった。灯油も例年、四月は三割ほど減ることから、売り上げ、収益ともに減る見込み。店主は「仕入れ代金の不足分は銀行から借りないといけないが、借りられるかどうか不安」と表情を曇らせる。
 国が全国石油協会を通じて実施する特別利子補給制度は、一定の条件を満たしたGSに金融機関の借り入れ利率五%を上限に、GSの負担分〇・四%を差し引いた利子を補助する。全石協は来週中にも申請の受け付けを始める方針だ。
 県石油商業組合にも、GSから資金繰りに関する相談が寄せられているという。小川幸彦専務理事は「制度の創設はプラス材料だが、既に借金を重ねているスタンドも多く、誰もが制度を活用できるか疑問だ」と話している。


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