産業は、大小さまざまな形態の企業の集合体である。基本的に、現在の市場経済というのは、混合経済であり、企業形態は、法的に、また、強制的に特定の形態に統一されているわけではない。その形態も私的所有権を前提として私的企業のみならず、公的機関である国営企業や公営企業、または、営利を目的としていない非営利法人、何等かの有志的な集まりである協同組合のような機関まで含まれる。しかし、いずれにしても産業は、企業の集合体によって形成されていることは間違いない。故に、企業の働きを明らかにしておく必要がある。

 産業は、構造物である。そして、経済もまた構造的である。経済現象は、経済現象の背後にある産業構造の作用の累積、相互作用によって引き起こされる。

 経済制度は、国家を基本単位とする。経済は、国家を基本単位として内部経済と外部経済を形成する。
 今日、EUの様に複数の国家が、一つの制度を共有する例があるが、その場合でも基本的には、経済制度は、国家を一つの単位として見なす。
 即ち、一つの国家に、一つの政治体制。一つの国家に、一つの経済体制。一つの国家に、一つの法制度。一つの国家に、一つの貨幣制度。一つの国家に一つの中央銀行。一つの国家に一つの金融制度。一つの国家に一つの中央行政府。一つの国家に、一つの財政。一つの国家体制に一つの制度が原則である。これらに準じる形で一つの国家に一つの会計制度が成り立っている。

 経済には、それぞれ基本単位、即ち、国家によって各々固有の場と世界経済共有の場がある。
 共有の場は、世界経済の基礎、土台にあたる場であり、その最下層に物理的場が存在する。
 固有の場、体制によって差があり、基本には、法的な場がある。資本主義、自由経済体制では、貨幣経済の場と市場経済の場がある。

 現代株式会社の原形は、社団であり、中世ヨーロッパに起源を持つ。社団とは、法人格と特権を認められた集団である。(「<はかる>科学」坂上 孝・後藤 武編著 中公新書)ここで重要な概念は、法人格である。つまり、企業というのは、法的に人格を与えられた集団、人為的な集団を指している。つまり、企業というのは、法的な存在であり、集団だと言う事である。この様に法的に自覚を与えられた集団、機関、組織が集合し、組合わさって構成されているのが産業である。

 この様な企業には、内部経済と外部経済がある。内部経済というのは、企業内部の経済状態を指し、それは、企業の内部構造に依拠している。そして、外部経済というのは、企業を取り囲む経済環境や経済状態、経済制度を指す。この様な外部経済は、企業の外部経済構造に依拠している。企業の内部構造は、法的関係に制約を受ける。それ故に、企業の内部構造と外部構造は、相互に関連し、影響しあっている。故に、企業の内部構造と外部構造とは、組織の整合性が求められている。その際、重要なのは、内部経済と外部経済の連続性である。

 企業の外部経済が依拠するのは、経済制度や政治制度である。
 経済制度にも、内部経済と外部経済がある。経済における内部経済と外部経済の境界線は、国家の法の効力が及ぶ範囲である。その範囲内を経済制度の基本単位とする。故に、経済制度の基本単位は、国家である。そして、企業の外部構造の基本単位も国家になる。

 企業行動を規制する法則は、法制度(主として商法、証券取引法等)と会計制度である。法や会計制度も原則的に国家が一つの基本単位である。現在会計制度は、基準の規格化、標準化のための準備か進められているが、現在でも実現していない。また、例え、実現したとしても、基本単位が国家であることにはかわりはない。なぜならば、制度的整合性や連続性を鑑みた場合、国家を基本単位とするのが妥当だからである。また、その制度が成立する基盤の範囲と境界線が国家を単位としたものだからである。
 その上で、仮にEUのような国家連合を一つの単位として分析する必要がある場合でも、国家を基本単位とした上で、国家連合を想定する方が妥当であると、私は、考える。

 現在、企業の多国籍化、多角化、集団化、組織化が進行している。企業の多角化は、経済制度の基本単位である国家、国境を越えた機能を企業にもたらせている。また、多角化は、単一的な企業の枠組みを超えた、また、単一的な産業の枠組みを超えた機能を企業にもたらせている。そして、更に、複数の企業が国家や業界の枠組みを超えて合従連衡する事によって産業の働きをより複雑なものにしている。また、単一、また、単位企業が集合し、組織化することによって国家とは、別の単位の経済単位が構成されつつある。
 この場合も国家連合と同様、基本単位は、個々の企業におきながら、会計上の連結決算同様、別個に一つの集団としての企業体を想定する必要がある。

 産業を構成する要素である企業間は、第一に、資本的関係、第二に、債権・債務関係、第三に、取引関係、第四に、技術的提携関係、第五に、設備的提携関係、第六に、人的関係によって結び付けられている。これらの関係の基本は、契約関係である。
 また、これら関係の他に、市場関係、即ち、第一に敵対的、競合的関係、第二に、同盟、友好関係、第三に、連係、連結、系列関係がある。

 資本は、投資行動、債権、債務は、賃貸行為による。そして、資本は、資本市場を、債権、債務は、金融市場を、取引は、商品取引市場を、人は、労働市場を、それぞれ形成する。されに、資本市場と金融市場は、金。商品、取引市場は、物・財。労働市場は、人に分類できる。要約すると、人、物、金が産業と市場の基本要素であり、企業を構成する基本要素でもある。

 企業の働きは、第一に、財の生産、第二に、消費、第三の雇用の創出、第四に、所得の分配、第五に、貨幣の循環、第六に、財の循環、第七に、価値の創造、第八に、納税などによる社会的責任がある。

 これらの働きが、企業間を結び付ける関係の要因となっている。

 また、これらの働きは、外部経済に対しては、在庫、設備投資、雇用問題、株式市況、景気、物価と言う形、現象として現れる。故に、外部経済の現象を理解する為には、在庫や設備投資、失業率などの問題を検討するひつようがある。そうすることで、その背後にある企業の働き、その集合体である産業の状態を解明することができる。
 また、内部経済には、資本、負債、資産、費用、利益として現れる。それ故に、資本、負債、資産、費用、利益の関係を理解し、その動きを知る事で企業内部の実体、状態、構造を解明することが可能となる。

 企業は公器、公的機関である。即ち、公に開放された機関である。同時に、私的機関でもある。
 企業を成立させる権利には、所有権と経営権がある。基本的に所有権と経営権は分離されている。即ち、制度的に、法的に、機能的に、所有権と経営権は分離されている。
 例えば、株主総会は、所有権者の集まりであり、取締会は、経営権者の集まりである。そして、株主総会も取締役会も各々が背景としている権利によって形態、形式が決められる。
 所有権、経営権、それぞれの権利と義務の内容は、要件によって定義されている。例えば、株主での発言権は、株の持ち分によって決まるのである。それが株主会議や取締役会の有り様を決定するのである。
 この所有権と経営権を誰が、どの様に所有するのかによって企業の基本的、又は、法的性格に差が生じる。必然的に、その働きに違いが出る。

 民営化と一口に言うが、民営化にも、第一に、所有権だけを民間に転移するもの。第二に、所有権をそのままにして経営権だけを民間に委託するもの。第三に、所有権も、経営権も民間に転移するものと三種類ある。そして、それぞれ効能が違ってくる。一概に民営化が良いというのは乱暴であり、それぞれの置かれている状況や前提をよく検討、見直す必要がある。また、その際、問題となるのは、なぜ、民営化する必要があるのか、その目的や民営化することによってどの様なメリットがあるのか、デメリットがあるのかを事前に明らかにすることである。最初から民営化ありきでは、問題の本質を見失う危険性がある。

 基本的に産業は、個別の企業を組み合わせたものである。企業は、自己完結的である。即ち、企業は自律的な機関、組織であり、固有の内部構造がある。内部構造は、第一に、人事、評価、分配機能。第二に、組織統制、管理機能。第三に、会計機能。第四に、営業、販売機能。第五に、仕入れ、購買機能。そして、製造業は、これに製造、生産機能が加わる。これらが必要に応じて組み合わさりながら、産業を構成していく。

 また、企業は、働きや機能を通じて家計や財政に関係付けられている。経済は、これらの関係を通じて景気のような現象を引き起こしている。経済現象を理解するためには、これらの結びつきや脈絡を解明する必要がある

 忘れてはならないのは、企業は、人間の集まり、集団だと言う事である。それもまた、組織化された集団であり、運命を共有している集団、共同体だと言う事である。故に、企業の働きは、結局、人と人との関係に集約されていくのである。


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企業の働き