通貨圏というのは、特定の通貨が作り出す経済領域である。中でも、基軸通貨は、国際市場を支配する。その意味で、通貨は、国際市場の覇権を決定付ける鍵を握っている。基軸通貨を握ることは、経済的覇権を確立することでもある。基軸通貨であるという事は、自国の通貨が、国際的決済手段であるという事である。
 基軸通貨国は、自国の通貨を国際市場に流通させることによって国際市場の決済手段を保障する。その為に、基軸通貨国は、経常赤字が運命付けられている。しかし、経常赤字が累積しても自国の通貨が、国際市場で支払決済としての機能を持っていれば問題ない。問題になるとしたら、基軸通貨としての信認を失った時である。
 基軸通貨が決済手段として機能するためには、各国は、基軸通貨を国家間の決済の為に一定額を準備しておく必要が生じる。それが外貨準備である。外貨準備高を高めるためには、輸出の振興がある。外貨を獲得するためには、為替の差が重要な役割を果たす。
 また、経常赤字を補填するためには、資本取引によって自国の通貨の環流を促す必要がある。

 通貨圏を確立するためには、その通貨圏を支配する通貨が、その通貨圏を構成する市場に一定量、流通している必要がある。特に、基軸通貨は、国際市場に、一定量、流通していなければならない。問題は、特定の通貨を、どの様にして市場に流通させるか。その手段が重要となる。また、通貨の信認、価値をいかに保つかが鍵を握ることになる。

 本位制度というのは、基軸通貨の裏付けてとして何等かの実体、例えば、金や銀と言った物質との交換を保証することによって成り立っている。本位制度の問題は、裏付けとなり実体その物が、相場的価値を持つと言う事である。それ故に、そのもの自体の価値の管理をしなければならなくなるという事である。例えば、金本位制度下では、金の価値を管理せざるをえなくなる。
 変動相場制度では、基軸通貨自体が、貨幣価値を保証する。基軸通貨を保証するのは、基軸通貨を発行する国に対する信認と圏内の国が基軸通貨を支払準備として蓄えておくことである。その為に、基軸通貨国は、国内の需要をまかなう以上の通貨を発行し続けなければならなくなる。時として、それが過剰流動性として国際市場を彷徨うのである。

 現在の変動相場制度は、1971年8月のニクソンショックによって金本位制が崩壊した事によって成立した。そして、その時から、ユーロダラー市場が形成されたのである。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

 通貨問題は、国内、内部経済と国外、外部経済の二面性を持つ。通貨圏の範囲は、一つの国に一つの通貨が基本単位である。日本の国内の市場で通用する通貨は、基本的に円だけである。むろん、他国の通貨が仕える部分もないわけではない。しかし、それらは、ごく一部に限られており、基本的に日本の市場で通用するのは、円だけである。この様に、その国が発券する通貨は、その国の市場の範囲で通用する。この様に一つの国の内部にのみ成立する経済を国内経済、内部経済という。

 それに対して、国家間において、国際的な交易がはじまると、国外との取引が必要となる。この様な国外との取引によって生じる経済行為や現象を国外経済・外部経済という。この様な外部経済が内部経済と同じ様な取引をするためには、基軸となる通貨が必要とされる。

 基軸通貨というのは、一国の範囲を越えて、一定の領域の経済行為の基軸となる通貨を指して言う。つまり、基軸通貨は、国内経済と国外経済双方の影響と要請を受けるようになる。

 我々が日常、何も考えずに、所与、当たり前なものとして使っている尺度の単位、例えば、メートルのようなものも明確に定義されたのは、フランス革命以後である。(「<はかる>科学」坂上 孝・後藤 武著 中公新書)。度量衡が統一される前のフランスには、800以上もの度量衡が存在したと言われている。
 国民国家を成立させた重要な要素のに単位の統一と戸籍の確立がある。単位の統一と戸籍の確立は、測ることの意義と深く関係している。単位が統一されることで、科学技術の規格が統一され、戸籍が確立することで国民のかずが特定できるようになる。されに、単位の統一と戸籍の確立は、税制の統一を促す。それは、中央集権的国家の礎となる。同時に、国家を一つの枠組みの中に構築することを可能とする。そして、度量衡の統一は、一つの科学を確立する基礎となる。
 現代統一されていないのは、通貨の単位ぐらいである。それは、通貨の単位が相対的な物であることが原因している。通貨の単位が統一されないのは、通貨が、内部経済と外部経済の水準を均衡させる役割を持っているからである。

 国家間の取引を考える上で前提となるのは、内部経済の均衡である。つまり、個々の国の内部経済体制が確立されていることが前提となる。先ず一国の経済が成立していなければ、多国間での経済の均衡は保てない。
 つまり、個々の国の内部経済制度は、外部経済から独立し、かつ、自律的に形成される。個々の国の経済が確立されることによって国家間の経済、つまり、国外経済が成立する。

 国内経済、内部経済を制御するためには、通貨の流量を制御する必要がある。その為に、一つの国には、原則として一つの中央銀行が置かれる。又、国内の経済体制は、その国内において自律的に均衡する必要がある。
 個々の国の物価は、個々の国の生活実態によって決まる。我々は、よく国家間の所得を比較して、自分達の生活水準を位置付ける。しかし、単純に所得を比較しただけでは、その国の生活水準を理解することはできない。ある国の所得が日本人の月収に及ばないと言ってみたところで、その国の国民は、その所得で生活しているのである。物価水準が全然違うのである。日本で何千円もする食料が、何十円で買えたりする。要するに、物価構成であり、生活必需品が以上に日本は高いのか。それとも、贅沢品が以上に安いのかの問題なのである。そして、どちらの方が生活しやすいかの問題なのである。この様に、国内の問題と、国外の問題は、一旦、切り離して考える必要がある。
 その上で、国外経済・外部経済の有り様を検討する必要があるのである。

 財政赤字の問題も財政が対外債務か、対内債務かによって違う。国際が、海外において捌かれていれば、対外問題に発展し、内政干渉を招く恐れがあるが、対内債務であれば、純然たる国内問題として処理できる。むろん、財政赤字を解消する際においては、それなりの痛みが生じることは避けられないが、しかし、自国の主体性だけは保持できる。

 むろん、国家内部の経済が確立されていなくても私的な次元での取引、交易は可能である。しかし、それはあくまでも私的取引の領域の範囲内にとどまる。先ず、国家の内部経済体制が確立されてはじめて、正式に国際取引に参加することができるようになる。

 正式に国際取引が可能になるための前提は何かというと、為替取引の成立であり、為替取引を成立させている金融制度の確立である。そして、金融制度が、基軸通貨を要請するのである。

 金融制度や金融システムが基軸通貨を必要としているのである。故に、金融制度や金融システムが基軸通貨の価値を保証する。

 又、国内経済において重要なのは、通貨政策の自律性である。その為に、従来は、本位制度をとって自国の通貨の自律性を保とうとした。しかし、本位制は、通貨の流量を抑制する。その為に、経済の拡大や変化に柔軟に対応することができない。結局、本位制度を逸脱して、不兌換制度に移行せざるをえなくなった。
 その反面、基軸通貨を担うことになった米ドルは、単なるアメリカ一国の通貨としての役割だけではすまなくなってしまったのである。又、アメリカ理金融政策や連邦準備制度の影響力は、アメリカ一国の範囲にとどまらなくなった。

 基軸通貨が、国際通貨として成立するためには、基軸通貨が国際市場に広く流布している必要がある。

 財政赤字によって通貨が環流し、貨幣経済が確立されるように、基軸通貨国の経常赤字によって通貨圏が形成される。

 この様な経常赤字は、為替相場における通貨間の格差によって引き起こされる。基軸通貨が、他の通貨よりも高い価値を保ち、消費を維持することによって基軸通貨国以外の生産を促し、基軸通貨の環流を引き起こすのである。

 輸出国と輸入国との関係は、生産国と消費国との関係でもある。生産拠点と消費拠点の間でダイナミックな貨幣の環流が起こると市場経済が起動する。しかし、経済は、基本的には物量であり、物量が途絶えれば、貨幣がいくらあっても経済は機能しなくなる。貨幣価値が市場を支配することによって財が本来持つ価値が見失われたことに、今日の市場の混乱の原因がある。
 産業の活力は、成長力と生産力の積によって決まる。産業の根幹は、生産である。ドル高は、アメリカ国内の産業の国際競争力を削ぐ。生産力の伴わない消費は、やがて限界に達する。
 消費と所得は、表裏の関係にあり、家計と産業は、経済の両輪の役割を果たす。故に、いくら消費が活発でも産業が低迷、衰退すれば、いずれは、経済が停滞する。
 その意味でアメリカの経常赤字の拡大は、何を意味するのか、注視する必要がある。均衡を失った市場経済は、やがては破綻する運命にあるのである。世界経済を牽引するのは、基軸通貨国のアメリカの消費であるが、消費を拡大すればするほどアメリカの産業は、衰退してしまう。しかし、基軸通貨の価値の暴落は、国際市場の信用制度の破綻を招く。
 生産と消費の不均衡にこそ、基軸通貨国のジレンマがある。

 ここ数年、石油の高騰が続いている。2007年には、市場最高値を更新し続けている。第一次オイルショック、第二次オイルショックの際も、石油価格の高騰によって、大ダメージを世界経済は受けた。しかし、その石油価格も長い間、低迷し、そして、又、上昇に転じたのである。その原因は、いろいろと考えられる。しかし、基本的に忘れてはならないのは、乱高下しているのは、石油価格だと言う事である。実際に供給に市場をきたしたと言うより、石油が社会生活に支障が生じるほど不足したわけではない。つまり、石油ショックというのも、ある意味でこれまでは、価格上の現象だったのである。むろん、全てがそうだとは言い切れない。近い将来、実際に石油が枯渇することもあり得る。しかし、現時点では少なくとも、需要量を賄うだけの供給量は確保されているのである。

 貨幣価値というのは、財の市場価値、即ち、交換価値を測る尺度に過ぎない。貨幣それ自体が価値を持つわけではない。また、貨幣価値というのは、相対的な尺度である。貨幣価格を決定する要因は、市場に流通する財の総量と同じく市場に流通する通貨の総量の均衡である。つまり、財と通貨の需給によってである。

 この通貨の需給を調整するのが、中央銀行の役割である。通常、国家は、一つの通貨単位を持つ。今日、一つの通貨圏の中には、一つの中央銀行に相当する機関がある。しかるに、基軸通貨圏においては、この中央銀行の機能を果たしている機関がない。現在、基軸通貨と言われているのは、米ドルであるが、アメリカの中央銀行にあたるアメリカ連邦準備制度理事会は、アメリカ国内における中央銀行の機能しか果たしていない。

 基軸通貨による通貨圏に、中央銀行の機能を果たす機関がないことが問題になる。基軸通貨の国際市場における流量を調整する機関が存在しないことになるからである。

 通貨は、財の価値を測る尺度であるが、財の量に釣り合うだけの通貨が供給されるとは限らない。市場の状況は予測不可能であり、市場の需要に供給が釣り合わないことがある。通貨が不足すれば、相対的に財の貨幣価値が下がりデフレとなる。逆に、通貨の供給が過剰となると基本的には、インフレとなる。

 通常、通貨が余剰に供給してもその通貨を吸収するだけの投資余力が市場にないと、通貨は、資本市場や金融市場に滞留することになる。それが、資産インフレを引き起こして、バブルを発生させる。

 金融市場や資本市場は、市場心理に大きく左右される。市場心理は、チャンスと見れば強気に働くが、ピンチと見るととたんに弱気になる。そして、流動性の高い資産に回避しようとする傾向がある。

 第一次オイルショック、第二次オイルショック、そして、2007年から2008年にかけての石油の高騰が好例である。石油相場は、市場の需給関係だけでは説明が付かない。

 政治や経済において大きな変動を引き起こす事件が起き。投資家が、何等かの衝撃を受けると市場を支配するのは、投資家の不安心理である。投資というのは、ある種の群集心理であり、予測がつかない部分を必ず含んでいる。その不確実な部分が実体経済は重大な影響を与えているのである。経済が制御できないのは、必然的帰結である。

 通貨が市場に流通するのを阻害する要素には、流動性の選好の要素がある。つまり、個々の経済主体が流動性の高い資産を選好することによって市場の流動性が低くなるのである。流動性を求めてリスクの高い資産から逃げ出す。こうなると資金が市場で急速に不足することになる。(「1997年 世界を変えた金融危機」竹森俊平著 朝日新書)
 
 現実に、株の暴落時においては、早い者勝ちである。また、早逃げ、逃げ足が早い者が得をする傾向がある。こうなると、逃げ遅れて、取り残される危険性を嫌がるようになる。そして、我先に、いち早く、流動性が高くて安全に資産に逃げ込もうとする。投資家の行動は、鰯の集団行動に似ているのである。

 又、金融システムのグローバル化に伴い。国家間のおける資金の移動が容易く、克、瞬時に行えるようになった。その為に、国際的な資金の流動性が高まってきた。

 結局、重要なのは、現在の世界経済の災いの多くは、貨幣の性格によるものだということである。
 国外経済・外部経済において問題なのは、最後の貸し手が不在だと言う事である。
 
 国内経済と違うのは、複数の通貨がそれぞれのレートで調整しあっているという事である。つまり、通貨レートの均衡により、世界経済の均衡をある程度、調整することは可能である。

 個々の国の経済政策、金利、物価水準、所得水準、消費水準、貯蓄水準、生活様式、各国が保有する外貨準備高などの要素によって決まる。
 反面において経済のグローバル化は、一国の経済制約の効果を弱めることにもなる。その為に、国家間の政策協調の必要性がますます高まることとなった。

 最終的に目指すべきなのは、通貨の統合なのであろう。その意味では、ユーロの挑戦は、歴史的な実験となる。ただ、だからといって一足飛びに世界的な規模での通貨の統合は不可能である。通貨が統合されるためには、各国の経済の水準が一定程度の高さで均衡する必要がある。経済の水準にバラツキがあれば、個々の国の経済環境にも重大な影響を及ぼすことになる。故に、通貨が統合される為には、その前段階的に幾つかの基軸通貨によって通貨圏が構成されることは考えられる。

参考
「通貨燃ゆ」谷口智彦著 日本経済新聞社
 

通貨圏

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