経済制度は、国家を基本単位とする。経済の場は、国家を基本単位として内部経済と外部経済を形成する。
 今日、EUの様に複数の国家が、一つの制度を共有する例があるが、その場合でも基本的には、経済制度は、国家を一つの単位として見なす。
 即ち、一つの国家に、一つの政治体制。一つの国家に、一つの経済体制。一つの国家に、一つの法制度。一つの国家に、一つの貨幣制度。一つの国家に一つの中央銀行。一つの国家に一つの金融制度。一つの国家に一つの中央行政府。一つの国家に、一つの財政。一つの国家体制に一つの制度が原則である。これらに準じる形で一つの国家に一つの会計制度が成り立っている。

 国家を一つの単位とする制度が破綻すると、国家の独立や自律が保てなくなる。最悪の場合、国家制度が破綻する。それ故に、国家は、国家を基本単位とする制度を護ろうとする。また、護るように行動する。それが戦争や革命、クーデターの原因となる。

 経済の問題の多くは、外部経済と内部経済の不均衡から生じる。外部経済は、国家間の経済的な格差によって絶えず流動的な状況に置かれている。

 国家間の格差は、国家の内部経済に起因する要素が多分にある。その決定的な要素の一つが、物価水準であり、その物価水準を決定付ける生活様式や習慣、民度である。第二に、経済の状況、成長段階である。第三に、所得の水準である。第四に、生産力である。第五に制度的要因である。第六に地理的、地勢的、地質的要因である。

 この様な国家固有の問題から生じる国家間の格差が、外部経済の不均衡の原因となる。特に、人件費の格差は、決定的な要素として働くことがある。人件費の格差を生み出すのは、生活水準の違いである。

 また、国家間の格差には、持つ国と持たざる国との格差もある。石油が好例である。産油国は、石油資源を持っていると言うだけで、国際経済に影響力を行使してきた。それは、時には、政治的に利用されもしたのである。また、オイルショックは、日本経済に多大な影響を与え、日本人のライフスタイルを一変させたのである。

 この不均衡の解消は、政策によって対応できるものと制度的に対応しなければならないものがある。政策は、即効性はあるが、一時的な効果しか期待できないが、制度は、時間がかかる上、融通はきかないが恒久的な効果が期待される。
 関税というのは、この、制度的な対策の典型である。制度的な施策には、関税以外に外国為替制度がある。

 同様なことは、通貨にも言える。ニクソンショックによっても日本人の生活は一変したのである。この様に外部経済の変動は、内部経済に重大な影響を与えてきた。だから、外部経済の荒波から内部経済を護る防波堤が必要とされるのである。その防波堤が、関税であり、外国為替制度である。

 外部経済の変動は、貿易の不均衡による国際収支や資本収支の悪化や為替の変動という形で現れる。その典型が1997年のアジア危機である。

 国際収支の不均衡を是正する手段には、為替による手段と関税的手段がある。為替による手段というのは、為替相場を誘導することによって輸出入を調整し、国際収支の均衡を保とうとするのに対し、関税的手法というのは、関税障壁によって国内の産業を保護しようとする政策である。
 関税障壁は、貿易の保護主義的政策として自由貿易主義者から目の仇にされてきた。しかし、それでも関税障壁を撤廃することは今日でも実現していない。

 産業は、生産機構であるだけでなく。分配機構でもある。この点をよく考慮する必要がある。
 単純に生産性のない産業、競争力のない産業は淘汰してしまえばいいと言うのは乱暴な話である。その産業に携わり、その産業によって生計を立てている者も少なくないのである。産業の盛衰は、直接、その仕事に従事する者達の家計に影響を与えるのである。そして、それはマクロ経済にも反映され、景気の動向を決定付ける。

 国際分業と言う観点からしても、基幹産業を保護することは当然のことである。為替の変動は、基幹産業に壊滅的な打撃を与えることもある。また、一度、失われると取り返すことのできない技術や知識もある。その国の基幹産業が壊滅的な打撃を受ければ、分配機構が適切に機能しなくなり、国際分業も上手く機能しなくなる可能性がある。
 オイルショック時において、一時的に産油国は、潤ったが、結局、地球的な偏りを生み出し、最終的には、産油国の経済にも反映したようにである。国際経済は、一国の都合だけで機能しなくなってきているのである。経済で重要なのは均衡なのである。

 外部経済の変動によって国家の内部構造は常に影響を受け、極端な場合、経済構造や体制が破壊されてしまうことすらある。内部経済を安定させる為には、外部経済による影響を和らげる必要がある。
 経済制度や経済政策の目的の一つに、外部経済から内部経済を護ることがある。その中に有効な手段の一つが、関税制度である。

 関税制度というのは、この内部経済を外部経済から護るための制度である。関税というのは、税制度であり、自由な交易の妨げになる。それ故に、自由貿易からすると逆行している。
 しかし、国内の産業保護という観点からすれば、関税制度が有効な手段であることは確かである。それは、アメリカが、報復的な手段としてスパー301条を制度的持っていることからもわかる。

 それは、単純に経済的な事由だけでなく、政治的な理由も隠されている。国家の独立を護るためには、国防上不可欠な物資や食料やエネルギーの自給率の問題も軽視できないのである。国家には、経済的効率を高めるという以外に国民の安全と財産を護るという責務もあるのである。

 保護主義的政策とは、報復的な関税、異常に高い関税によって他国の商品を閉め出し、市場を閉ざすような政策ばかりを指すわけではない。

 また、競争力の低下は、不当な廉売を原因としているとは限っていない。為替の変動や原材料の高騰などの防ぎようのない原因によって起こることもあるのである。つまり、何等かのハンディーに原因することがあるのである。

 外的な条件の急激な変化に対する対策として保護主義的対策を採用することは、間違いではない。絶対という政策はないのである。絶対にいけないという政策もない。政策というのは、相対的なものである。

 我が国では、アンチダンピング法が発動される例はほとんどない。しかし、欧米各国においては、アンチダンピング法は、有効な手段としてよく用いられる。アンチダンピング法の是非はともかく。世界経済は、常に国家戦略を下敷きにして構築されてきたという事実を忘れてはならない。経済というのは、人口的な世界なのである。そして、それは、国家間の力関係によって成り立ってきたのである。
 関税と独禁法は、ある意味で不可分な関係にある。独禁法が国内の産業に向けられる際においても国際市場や産業を無視することはできない。当然のように影響を受ける。それよりも、海外の企業に向けられると必然的に貿易政策や関税に連動する。その好例が、スーパー301条に代表されるアンチダンピング法である。(「世相でたどる日本経済」原田 泰著 日経ビジネス人文庫)

 我が国は、不平等条約によって開国当初、関税自主権も与えられていなかった。それが結果的には、幸いしたところもあったが、しかし、基本的には、関税自主権は、独立国の基本的権利の一つである。関税自主権が与えられたのは、1905年である。これは、象徴的な出来事である。また、帝国主義的な時代においては、徴税権が担保されていたのである。つまり、対外債務、即ち、他国からの借金が返せない時は、徴税権が債権国に奪われる事を意味したのである。(「世相でたどる日本経済」原田 泰著 日経ビジネス人文庫)

 また、為替の変動は、気まぐれであり、予測不可能である。その為に、思った効果を上げることが困難な場合がある。その点、関税は、その目的が明白である。それ故に、露骨に国益が前面に出る場合が多い。

 関税は、経済制裁に発動することも可能であるし、現に、経済制裁に使われたこともある。しかし、本来特定の国を狙いにした経済政策は、両刃の剣である。自国の国民の不利益、犠牲の飢えに成立していることを忘れてはならない。

 関税問題は、各国の国益に直接かかわる問題であり、場合によっては、戦争を引き起こす要因となり兼ねない。

 保護主義が悪いと言いきれるかの問題もある。まだ揺籃期にある産業を国際競争力に曝しても良いのか問題である。逆に、後発国は、計画的に産業を育成することができるのに対し、先進国は、権益を荒らされるという例もある。知的所有権の問題は、一種の関税問題と考えられなくもない。

 結局、国家構想、ビジョンの問題である。国益と国際秩序の両立である。どんなにきれい事を言っても国際社会は、各国の国益のがぶつかっている場なのである。それは、平和の前提でもある。
 その上で、国家間で、政策的、または、制度的整合性をとる必要がある。また、外部経済と内部経済の連続性の確保する必要性もある。

 かつて、経済のブロック化は、関税同盟の様なものから始まった。それは、世界的な大戦の伏線でもあった。
 また、古来、関税同盟は、特権階級を生み出しもしてきたのである。この様に関税は、経済体制の境界線を画してもきた。

 EUは、通貨同盟であると同時に関税同盟でもある。関税を一定の区域で取り払い、また、関税を同盟国以外との防波堤とするのは、区域内の経済構造を確立することを促す。それは、一つの経済の在り方を示唆している。この様に制度の共有は、必然的に世界を共有することに繋がる。

 また、現代は、企業の多国籍化と関税の関係も見逃せない。タックスヘブンを使った租税回避行為もである。いずれにしても、関税は、関税制度単体で成り立っているものではなく、他の制度と制度的な整合性が重要になってきているのである。

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