貿易政策の究極的なものは、鎖国である。その対極にあるのが、経済封鎖である。さすがに鎖国的政策、特に、北朝鮮の様に、政治的鎖国はともかく、経済的鎖国をとる国はほとんどなくなった。ただ近年まで、中国は、事実上の鎖国を行っていた。
 日本は、三百年以上も鎖国をした希有な国である。これは、島国だからできた事で、大陸国家では難しい。国境線を封鎖しようがないからである。国家間の公式の交易は禁じられても一般庶民のレベルでの交流を抑えることは難しい。密貿易も然りである。人間は利にさといのである。孤立した共産主義国や独裁主義国が鎖国的な政策をとることはあっても現実には、抜け穴だらけである。それは、経済は、局地的に見て均質な生産、特に、食料の生産が可能ではないからである。常に、物不足な所と物が過剰なところが混在する。それを調整するのが交易である。
 豊作貧乏という言葉があるように、物は不足するのも困るが、過剰になるのも困るのである。
 また、日本は、鎖国の最中、結構、飢饉に襲われていてる。鎖国は、当然、自給自足体制を前提とする。自給自足というのは、口で言うのは容易いが、実際に実行しようとするといろいろと障害がある。自給自足と言っても鎖国してしまえば、その国の国民が生活していくために必要な全ての物資を偏りなく生産し、供給しなければならない。つまり、微妙な均衡の上に成り立っているのである。物資を過不足なく生産し、万遍なく分配する体制が確立されてはじめて可能なのである。つまり、飢饉は物不足からだけ発生するわけではなく。分配の過程でも発生するのである。
 食料は、常に、同じ量を均等に、計画的に生産し続ける事のできない財である。一年、一年、その年の天候や状況によって作柄が違ってくる。それも、地域によっても違ってくる。

 鎖国は、珍しくなったが、経済封鎖の方は今でも時々見受けられる。
 ソビエトのアフガニスタン侵攻に抗議して、アメリカが発動した経済封鎖が良い例である。イラク戦争の折りにもアメリカは、対イラクに対して経済封鎖を行っている。最近では、北朝鮮に対する金融資産の凍結が実行された。経済封鎖に関しては、常に、その実効力が問題になるが、それでも、生活に直結した影響を受けることだけは確かである。

 貿易とは、他国との交流を前提とする。貿易を通じてお互いの文化、文明、知識、情報を交換しているのである。それ故に、貿易を立たれるという事は、ただ単に物資の流れが途絶えると言うだけでなく。人的、文化的交流も立たれることを意味するのである。

 鎖国や経済封鎖は、究極的な政策だとしても、それ以外に貿易政策は、いろいろととられる。そして、その目的、機能は、国内の景気、経済状態の安定と国内の産業の保護をいかに均衡させるかにある。

 貿易政策は、政治的な意味での合従連衡、同盟関係と同じであり、時には、戦争状態にも陥るのである。
 その典型が貿易摩擦である。日米関係は、戦後、概ね、政治的、軍事的には良好であった。しかし、経済的には、多くの葛藤があったのである。
 自動車やコンピューターと言った先端技術だけでなく、牛肉、オレンジ、そして、主食の米にまで貿易摩擦は及んでいる。その間、日米関係は、本当に同盟関係にあるのかと思われるほど険悪な関係に陥ったこともある。
 我々は、政治的な戦争には、過分に反応するが、経済戦争には鈍感である。しかし、経済戦争によって決着が付かなければ必然的に政治的、軍事的戦争へと突き進んでしまうし、また、経済戦争の方が場合によっては悲惨な状況を生み出すものなのである。

 貿易政策には、WTOや世界銀行のような国際機関が深く関わっている。この点も貿易政策を考える上では見逃せない問題である。

 貿易政策は、根本的には、国の在り方にも関わる問題である。関税同盟という言葉が象徴するように、つまるところ、経済における外交とでも言うべき問題なのである。自由貿易主義に立つのか。保護主義的政策に立つのか。また、経済的同盟関係を強めて、経済のブロック化を推し進めるのか。グローバル化を前提とするのか。孤立主義に立つのか。それは、国家の根本理念にも関わる問題なのである。
 また、自給率の問題は、国家の存亡、独立、国防に関わる問題なのである。人間は、食べる物がなければ飢え死ぬのである。必要な物資が手に入らなければ、野垂れ死ぬのである。
 北方の民族が強かったのは、それだけ厳しい環境下におかれていたからである。強くなければ、生き抜けないからである。民族の大移動は、根底には、経済的動機が隠されている。そして、それを解決する手段は貿易政策にあるのである。
 そのことをよく肝に銘じて、戦略的に、複合的に貿易政策を立案する必要がある。


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