経済の基本は、生産と消費である。つまり、生きていく上で必要な財の生産と消費が、経済の基幹を形作る。その上で、財の分配が、経済の実相を成立させる。分配の決めて、基準は、労働の質と量である。需要と供給は、経済の均衡上において重要な役割をする。しかし、経済の根本は、生産と消費であり、経済制度を成立させている要因は、労働と分配の関係である。

 国内、ないし、同一地域内で消費する財が、万遍なく(バランスよく)調達できれば、経済は、破綻しない。後は、どう配分するかですある。その時、公正という概念が重要となる。対外債権や対外債務の多寡が、国内の経済の安定に決定的な影響を与えないのは、現実に国内で消費する財に対し対外債権や対外債務が直接的に関わっていないからである。

 重要なのは、実体経済における輸出入の均衡である。いくら金があっても買う物がなければ何にもならないのである。配当や金利による収入があって、もそれに、見合う財がなければ経済は均衡しない。金で、食料や燃料を購入できても、金で飢えや寒さを凌(しの)ぐ事はできないのである。対外債権は、かえって、国内経済には、負担になる場合すらある。(「金融史がわかれば世界がわかる」倉都康行著 ちくま新書 英国の対外投資の巨大さが、英国経済の没落を早めたのではないか・・・。)

 閉鎖的な社会では、同一地域内で生産と消費が均衡することが重要なのである。しかし、この様な社会では、一年一年の生産量によって経済が左右されることになる。農産物や海産物を基礎とした食料の生産は、その年の天候や環境に大きく左右され、極めて不安定である。しかも、食料は、死活問題に直結している上、一度、飢饉に襲われると社会資本の土台が毀損され容易に立ち直ることができなくなる。
 同一地域内で生産と消費を均衡させるためには限界がある。故に、交易に限界があり、一定の地域内において、自給自足的な経済に依存している社会では、人口の増加は、その地域で賄(まかな)える物資に限定されることになる。極端に言えば、食糧事情によって人口は、抑制されるのである。

 明治維新以前の日本は、鎖国をして、国内で消費する必要な物資のほとんどを国内で生産してきた。自給自足体制においては、同一の地域内、国内で必要物資、必需品を万遍なく、漏れなく調達できる事は不可欠な要素なのである。
 しかし、国際化が進み国際分業が深化した今日では、同一地域内で、一国内で、生活に必要な物資の全てを万遍なく調達することは困難である。そこで、交易が重要な鍵を握ることになる。
 交易が経済の中心課題となり、通貨が経済問題の鍵となってくるのである。

 この様な限界を超え社会を発展させるためには、交易が必要となる。即ち、交易の発展は、社会の発展において必要条件なのである。、

 交易の土台、インフラストラクチャーは、通貨と市場である。即ち、国際通貨制度によって国内経済と国際経済の均衡が保たれているのである。実際的には、経常収支(貿易収支、サービス収支、所得収支、経常移転収支)と財政収支、資本収支(投資収支、その他資本収支)、家計収支、外貨準備高の均衡である。

 国家間の通貨を調整するために、成立したのが、国際決済制度であり、為替制度である。決済制度は何か。決済とは何か。

 複式簿記は、取引の認識上の作用反作用である。仕訳上の二重記帳は、貸し借りの関係がはじまりである。
 債務は、債権の素となり、債権が債務を発生させる。

 取引というのは、債権債務関係が生じてからそれが完結するまでの行為を指す。決済というのは、債権債務関係の解消を指して言う。そして、債権債務の関係の解消に一役買うのが、金融機関である。、

 金融機関というのは、黒字主体と赤字主体を仲介し、融資を通じて黒字主体から赤字主体へ投資を促す機関である。

 複数の国家間で、交易を行うためには、基軸通貨を核・媒体とする必要がある。バラバラに交換した場合、通貨間に不均衡が生じ、交易に歪みが生じるからである。
 為替制度に求められる機能は、通貨の交換価値の安定と内外価格差の是正、物価の調整である。
 固定相場制度が作る出す場と変動相場制度が作り出す場は、違う場である。必然的に通貨に関連した制度も違ってくる。
 固定相場制度は、通貨の交換価値は固定できるが、実質的価値を調停する機能が働かない。それによって交換価値と実質的価値が乖離し、財に出入の調整ができなくなる。その為に、貿易の不均衡が生じ、国内経済の均衡が保てなくなる。
 また、固定相場制に実効力を持たせるためには、貨幣に実体的な物質的価値を裏付ける必要が生じる。それが本位制度である。

 結局、固定相場制度を維持することができなくなり、1971年、ニクソンショックによって固定相場制度は瓦解し、以後今日に至るまで、変動相場制度に移行することになる。

 変動相場制度は、為替の変動によって、輸出入の不均衡が是正される事によって成立する。国家間の経済収支の不均衡は、為替制度によって調整し、国家は、国内の雇用と物価の安定に集中させればいいと言う考え方である。

 しかし、国内外の経済状況を均衡させるためには、貿易収支の不均衡を是正する必要がある。貿易収支を均衡させるためには、タイムラグを計算に入れなければならない。通貨の不均衡を是正するためには、単純に貿易収支の均衡だけを考慮に入れただけでは効果が期待できない。このために、変動相場制度は、経常収支の調整弁としての機能だけを単純に果たすわけではないことが明らかになってきた。(「金融史がわかれば世界がわかる」倉都康行著 ちくま新書)
 また、貿易の不均衡は、単純に為替の問題だけで解決できるものではない。より根本的な問題がある。たとえば、国家間の人件費の問題、産業構造の問題、資源を持つ国と持たざる国との格差、国家体制の問題(社会主義か、自由主義かといった問題のみならず、税制度や規制制度と言ったものまで含んで・・・。)などが複雑に入り組んで国家間の格差を形成している。

 1992年には、ヘッジファンドによってアジア危機が起こり、マレーシアのマハティール首相は、為替管理政策によって危機を凌ぐ事態も発生している。また、インターネットの発達によって仮想マネーが、徐々に通貨制度の中に浸食している事態も発生している。

 国際通貨制度を安定させるためには、世界中央銀行のような機関によって国際決済制度を確立する必要があるが、世界中央銀行は、経済において相当の権力を持つことになり、世界中央銀行が、世界権力とならないような国際監視体制が必要となる。更に、国家間の思惑が絡んでなかなか、公正な世界機関が実現できないでいる。又は、世界を幾つかのエリアに分け、そのエリア内において中央銀行を設立するといった方策も考えられる。いずれにせよ、国際決済制度は、極めて構造的なものにならざるをえないであろう。


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国際決済制度