産業は、基本的に、生産財の生産者から消費者への流れである。その過程に、分配が介在する。分配は、労働に対する所得を基礎にして行われる。所得は、市場を経由して消費に結びつけられる。市場は、需要と供給によって調整される。

 生産者から消費者への流れの中で産業の場は形成される。つまり、生産から消費への過程が場を形成する。ただ、場というのは、明確な境界線があるわけではない。あくまでも、産業の性格を分析する上で便宜的に設定された次元・位相である。

 産業は、複数の経済主体と市場によって形成される。つまり、複数の経済主体と市場によって形成された空間が場である。

 場を構成する経済主体である企業には、第一に、人事・労務・福利・教育・人材育成・雇用。第二に、管理・事務・庶務、株式、法務、組織規定管理。第三に、会計・財務。第四に、情報・調査・企画。第五に、統制、意思決定、制御。第六に、生産、用役。第七に、渉外、営業、外交。第八に、物流、在庫、貯蔵。第九に、仕入れ、購買。第十に、評価・分配と言った機能がある。これらの機能が、産業の場の力を形成する。

 場を構成する市場、又は、企業のような経済主体の中には、複数の場にまたがっているものや複合的な機能を持っているものがある。この様な市場や企業を分析解析する場合は、幾つかの要素に分割して分類しないと正確な分析ができない。また、その場に与える働きや作用を解明することも困難である。

 市場というのは、実際には、産業を構成する要素の一つに過ぎない。いわば、市場は産業を構成する部品である。市場は、需要と供給を調整し、財の分配を裁定する場である。財の分配を調停するのは、市場だけではない。組織や体制も同様な機能を持っている。市場が間接的に財の分配の調停を行うのに対して、組織は、直接的に財の分配の調停を行うのである。

 産業の範囲は、国境によって画定することはできない。適用される法や制度の範囲は、国家が単位である。これによって産業の内的場は、区画される。

 産業の場を支配する力は、法的力、制度的力である。法的力は、商法、会社法、及び、民法である。また、制度的力は、会計制度である。実際に経営をする際の論理的、規範的拘束は、制度的拘束力によって受ける。故に、論理的規範は、会計的なものにならざるをえない。即ち、会計的論理である。

 市場経済における経済的原理は、会計的論理である。
 しかし、この会計的論理が一つではない。先ず制度会計、即ち、外部会計と管理会計、内部会計に分かれる。そして、日本の場合、外部会計は、税務会計と財務会計、商法会計の三つに分かれる。それらの論理の力が、重層的に産業へ働きかける。

 現実の産業界では、行動規範は、税務会計、財務会計、商法会計の三つから拘束されるため、整合性がとりにくい。なぜならば、三つの会計の背景となっている法、即ち、税務会計の背景は、税法。財務会計の背景は、証券取引法。商法会計の背景は、商法とそれぞれの法の法源、法の目的、法を成立させている基盤が違うからである。それでありながら、確定決算主義を税務会計が採用していることによって三つの会計は、連動させられている。その為に、同じ会計処理、減価償却費や引当金が実利的会計である税法に引きずられて歪められてしまう傾向がある。制度は、本来、合目的的なものであるから、無理な連係は避けるべきである。
 しかし、いずれにしても三つの会計の仕組みは、大枠において一致している。即ち、複式簿記による根本的な仕組みは共有している。そして、会計的規範によって、産業は支配されている。

 産業や産業を構成する個々の企業を考える場合、イニシャルコスト、ランニングコスト、資産価値、資本がキーワード鍵になる。
 その好例が鉄道会社である。近代会計や資本主義が確立するのに、運河や鉄道会社が重要な役割を果たしている。鉄道は、開拓に巨額の資金を必要とする。その為に、資金調達の手段として資本の確立が重要となる。これが資本主義体制の確立を促した。また、調達した資金の多くは、固定資産に投資される。その一部が、償却資産を形成し、減価償却制度を生み出した。また、鉄道の開通は、周辺部の資産価値を上昇させ、固定資産の価値を上昇させ、純資産の含み資産価値を膨張させる。それが資本価値を上昇させ、株の時価総額を上げる。

 一方に固定資産の膨張と収縮があり、一方に資本の膨張と収縮がある。これが資本主義の特徴である。
 資本主義によるスケールメリットの典型である。つまり規模の拡大は、価値が価値を生むという現象を起こすのである。つまり、資本は、それ自体が価値であると同時に価値の源泉でもあるのである。

 さらに、設備の稼働率が収益と費用の関係を確定する。つまり、一単位あたりの製品にかかる固定費の比率を稼働率が下げるのである。損益の費用構成は、全体的に見ると稼働率に関係ない固定的費用である固定費と稼働率に比例して変動する費用である変動費に区分される。しかし、単位あたりで見ると固定費と変動費の関係は逆転する。つまり、単位あたりの固定費用は、稼働率が上昇率するのに比例して低下する。これが、資本主義において投資行為を誘導する動機となるのである。同時に、資本主義体制では、大量生産を基本的な目的とせざるを得なくなるのである。つまり、資本主義体制では、大量生産ありきが前提となる。そして、この大量生産は、大量消費によって支えられることになる。必然的に、資本主義体制は、大量生産、大量消費体制にならざるを得ないのである。

 また、資本主義における損益概念は、償却という概念の上に成り立っている。減価償却が利益の源なのである。
 償却という概念が確立されたことによってイニシャルコスト、即ち、初期投資をランニングコスト、運用費用に転化する事によって収益が確保されたのである。この事によって資本や負債による資金の調達が可能となった。この事で、収益会計と収支会計が分離され、損益の概念が確立された。この損益の概念こそ、資本主義の基本的な概念である。
 資本は、負債と資産双方の性格を併せ持っている。そのことが資本に梃子の機能を持たせる。資本の資産としての性格が、負債を担保となり、負債の性格が資金源となる。この負債の担保としての性格と資金源としての性格が合わさって資本として調達資金の量を増幅するのである。それが梃子の原理である。この様に調達した資金の裏付けとなるのが、運用先である資産である。
 調達された資金のエネルギーを流動資産に蓄えるのか、固定資産に蓄えるのか。それが、資金の流動性の決め手となり、短期的資金、長期的資金の資金源となる。

 産業の場とは、調達、生産、分配、消費を繰り返す場である。その過程で、財を国民に分配し、国民経済を形成しているのである。この循環過程が本質なのであり、単純に、生産性や効率性、収益性を追求するだけで成立するような場ではない。例えば、収益性や効率性から言えば、中間の業務を省略化すればいいのだろうが、ただ、省略してしまえば、失業者を増やすだけになってしまう。失業者が増えれば、経済活動は不活発になる。結局、企業収益も悪くなるのである。産業には、雇用を生み出すという側面があることを忘れてはならない。そして、雇用は、経済活動の過程で発生するのである。

 調達の場は、いわば入り口にあたる。インプット、アウトプットで言えば、インプットである。それに対し、分配と消費の場が出口になる。アウトプットである。分配の場は、消費への出口であると同時に、労働という軸から見ると所得への出口となる。そして、調達から消費に至るまで、労働という縦軸によって貫かれているのである。つまり、所得という観点から見ると出口である分配は、全ての場に共通している。

 元々市場規模には限界がある上、市場や企業の損益を構成する個々の要素、即ち、費用、売上、在庫、生産量の伸び率にも差がある。それが景気の波動の原因である。
 例えて言えば、人件費は、固定費である。しかも、基本的に年々上昇していく。この上昇は、物価の水準に影響する。それは、製品の価格という側面と購買力という側面の両面から物価に影響を与える。この様に年々上昇する費用と横這いの費用、逆に、償却費用のように下降する費用とがある。この様に年々上昇する費用と横這いの費用、下降する費用とがある。また、設備の稼働率、生産量、売上に連動する費用と独自の動きをする費用がある。

 投資家は、何を買うのか。それは、価値そのものを買うのである。それを理解することは、資本主義を理解することでもあり、産業の成り立ちを理解することでもある。

 産業の再編成には、水平的統合と、垂直的統合がある。水平的統合というのは、産業の場を横断的に統合する再編の仕方であり、垂直的統合というのは、産業の過程を縦断的に統合するやり方である。

 産業を分類する場合、垂直的に分類する傾向があるが、企業が活動する場をベースにして考えると、水平的に分類した方が妥当である場合が多い。

 垂直的に分類した場合でも石油産業のように、間口、上流部分が狭くて、出口、下流部分が広い産業や、逆に、自動車産業のように間口が広くて、出口が狭い産業もある。
 産業の再編や政策は、産業の状況や構造に応じて為される必要がある。バブル潰しの政策が、金融業界の構造や仕組み、状況を考慮せずに行ったため、実効力を欠いた上、後々、ノンバンクや農林系金融機関に甚大な被害が派生したのが好例である。

 産業を分析するために分類する場合、水平的な分類と、垂直的な分類が重要である。個々の産業構造や産業の場に働く力を解析するという目的からして、重複するのは、やむを得ない場合がある。
 それは、産業を分析するための目的が、産業の再編集や政策の決定のための基礎資料を提供するためにあるからである。この様に、産業を分析には目的があり、その目的に応じて分類する必要があるのである。


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