なぜ、経済学の世界では、災害が経済に及ぼす影響を問題視しないのであろうか。関東大震災の後、出回った震災手形が、昭和恐慌の原因の一つとなったと言われる。江戸時代以前は、旱魃や日照り、飢饉、洪水そのものが経済だった。つまり、経済というのは、産物の作柄を指していた時代もあるのである。
 災害が経済に及ぼす影響力は、決定的なものがある。そして、それが長く経済や財政に影響を与え続け、時には、経済や国家財政を破綻に導くことすらある。だから、古代社会においては、天変地異の原因は、帝王にあるとして権力闘争の火種にもなったのである。また、そこから天文学も発達した。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

 いずれにしても、災害が経済に与える影響は、幅広く、多岐に、また、長期にわたる。特に、人の心に甚大な傷跡を残すことになる。一口に災害と言っても、災害の直接的な被害だけを考えれば良いというわけではない。第一に、時間的な問題、第二に、機能的な問題、第三に、空間的な問題、第四に、物理的問題、第五に人的問題、第六に、金銭的な問題と多面的に考える必要がある。
 中でも、ライフラインの問題は深刻である。ライフラインが経たれてしまうと、人間は、生存することが困難になる。人命に関わる問題であり、速やかに復旧しなければならない。その上で、時間をかけて計画的な復興をしていくのである。混乱を引きずった形で、無秩序な復興をすれば、長く後世に禍根を残す結果になる。

 災害は、広範囲に亘り、しかも、長期的にライフラインを切断する。ライフラインは、人間の生存に欠かせない生命線である。ライフラインは、人や物(水や食料、エネルギー、薬品、衣料等)、情報を運ぶライン、ネットワークである。また、治安や衛生にも致命的な影響を与え、放置すると深刻な問題を引き起こすことになる。また、復興が長引けば、人心に与える影響も大きい。災害は、それまで営々として築き上げてきた財産を一瞬にして奪い尽くす。個人の財産にとどまらず、社会資本を根底から覆してしまうこともある。中には、一つの文明や産業を灰燼に帰すことすらあるのである。だからこそ、日頃の心構えが肝心なのである。
 ライフラインが寸断されると、物流に及ぼす被害は、甚大である。物流は、経済の大動脈とも言える。ライフラインが分断されることによって物流が途絶えた地域は、途端に経済が機能しなくなる。交通網の確保は死活問題なのである。

 また、ライフラインが機能しなくなると時間の経過と共に被害は拡大する。災害が発生した時は、初動活動がものをいうのである。二次災害、三次災害を起こさないように備える必要がある。その為には、社会資本として、防災設備や教育、他地域との連携が用意されている必要がある。その為には、軍事費に匹敵する予算が必要なのである。また、日頃から教育や訓練を怠りなくすることが要求される。

 また、災害復旧は、長期的な計画に則って行われる必要がある。人々の生活の保障は急がれるが、新たな街作り、また、おなじ様な災害を防ぐための体制作りには、時間がかかる。迅速にやるべき事と、長期にわたってやるべき事を分けて対策を立てる必要がある。いずれも、経済の問題である。

 災害がもたらす被害で一番深刻なのは、人心に与える影響である。経済というのは、貨幣価値だけを指すのではない。人々の営みこそが経済なのである。
 災害が経済に及ぼす影響はなどというと顰蹙を買いそうである。しかし、それは、経済に対する誤解が根底にあるからである。つまり、経済と、金儲けとをイコールとして認識しているからである。災害と経済とを結び付けると眉をひそめる人は、経済と金儲けとを同じだと考えている証拠である。経済というのは、金儲けを指すのではなく。生活である。つまり、災害後の経済というのは、生存者の生活に関わることなのである。
 経済が人々の生活に直接かかわる事象だけに、災害が経済全般に与える影響も大きいのである。災害の被害は、外面的には、時間が解決する。しかし、内面に与えられたダメージは長く残るのである。
 それ故に、防災は、国防、教育と並ぶ国家的な事業である。防災や国防、教育は、国家財政にも深く関わっている。防災というのは、百年に一度起こるかどうかの災害に備えてなされる。それだけに、不正の温床にもなりやすい。災害が起こるたびに、手抜き工事が明るみにでる。手抜き工事が、被害を深刻なものにし、拡大させるのである。
 しかも、災害は、予想もつかないところに飛び火、被害を拡大する。

 2008年、石油価格が記録的な高騰をした。そのキッカケを作ったのは、ハリケーンカトリーナである。ハリケーンの通り道にあたるカリブ海沿岸には、数多くの石油施設がある。第一次、第二次、オイルショックは、産油国に端を発しているが、2008年の石油高騰は、消費地と投機が原因だと言われているのである。それは、消費地が災害に対して充分な備えをしていなかったことが原因である。

 災害が経済に与える影響には、災害による直接的な被害の他に、防災、復興などの影響がある。そして、災害による直接的な被害よりも、その後の防災、復興にかかる費用の方が長く、かつ、膨大なものなのである。
 災害の記憶は、時とともに薄れていく。しかし、災害が残した爪痕は、時が解決してはくれない。人間が自分達の力で解決すべき事なのである。天災は、忘れた頃に来ると言われている。だからこそ、災害に対する備えは、根気強くまた、計画的に行う必要があるのである。防災は、時間との戦いでもある。

 災害と経済を考える時、防災という観点からも考えなければならない。治水灌漑も防災投資の一つである。
 人類の歴史は、自然災害との戦いの歴史でもあった。そして、その戦いが経済を発展させてきた側面を忘れてはならない。

 その意味では、エルニーニョ現象なども災害とは言わないまでも経済現象の一つと考えるべきである。また、農産物の作柄、出来高は、今でも、経済に直接影響している。
 狂牛病や鳥インフルエンザのような疫病も然りである。経済に甚大な被害を及ぼし、畜産業に根本的な構造変化をもたらした。

 地震、台風、津波、洪水、山火事、竜巻、雪崩、噴火、山崩れ、旱魃、寒波、冷害、長雨といった自然災害が、作物の作柄を決定付け、飢饉や旱魃を招いていた。

 乱開発や河川の汚染、温暖化、大気汚染、海洋汚染は、人類が自ら招いた災害である。これらの災害は、国境を越えて拡がる。この様な人災の及ぼす影響も無視しえない。
 チェリノブイリ原発の事故は、自然災害ではないが、一種の災害としてみてもおかしくない。しかも、その被害は、世界的に拡がったのである。

 つまり、経済は、自然の有り様に支配されてきたのである。今日、自然災害に対する備えがかなりでき、自然災害による経済の影響は小さくなった。しかし、それでも自然環境が与える影響は、無視できるものではない。否、より地球的規模で自然災害は拡大していくことが予測される。

 ここ十年前後を見ても阪神淡路大震災、スマトラ沖地震と津波といった大災難がアジアを襲い。また、アメリカにもハリケーン・カトリーヌや巨大竜巻によって甚大な被害が引き起こされた。これらの大規模災害と温暖化問題の因果関係が問われている。
 2008年に入って、ミャンマーを襲ったサイクロン「ナルギス」、四川大地震と大災害が続いている。そして、ますます、国際協力の必要性が叫ばれている。一国の災害をただ、一国の災害として捉えているとその惨禍が廻り廻って自国にも及ぶのである。
 人類は、国を傾けるほどの費用を軍事費にかけるというのに、歴史的に繰り返される天災に対しては、軍事ほど熱心とは言えない。せいぜい言って公共事業の一環程度である。しかも、災害が起こるたびに手抜き工事が問題となる。災害に対する備えは、何世代にもわたって計画的に築き上げていくものである。それが文化であり、文明である。そして、神への怖れである。自然は、尊敬心と怖れをもって接すれば、人類の守護神となる。しかし、一度、侮れば、魔人となって牙をむくのである。自然を見方にするのも、敵にするのも、経済の有り様である。
 自然と上手く共存することを諮らなければ、人類に未来はないことを、我々は、肝に銘じるべきなのである。

参考

死者5万人以上と推計 中国・四川大地震
【北京15日共同】中国国営新華社通信によると、同国国務院(政府)は15日、四川大地震の死者が5万人以上と推計されることを明らかにした。四川省の確認された死者は1万9500人を超えた。日本政府の国際緊急援助隊は同日、現地へ向かった。

震源地の四川省アバ・チベット族チャン族自治州☆川(ぶんせん)県など被災地では15日、人民解放軍と武装警察部隊の13万人が懸命の救出作業を続けた。生存率が急激に低くなるとされる被災後72時間は同日午後に過ぎ、被災地では焦りと疲労の色が深まっている。

中国紙、人民日報(電子版)によると、四川省政府当局者は同省の負傷者が10万2100人以上となり、1万2300人がまだ生き埋めになっていると発表した。

新華社によると、軍は輸送機やヘリコプターなど延べ300機を動員。感染症発生予防のための防疫専門家も含め2000人を超える医療要員も被災地入りした。民政省はこれまでに被災地に12万張りのテント、布団22万枚などを配った。

98年水害以来の「総動員」 大量人員、輸送記録更新
【北京15日共同】中国・四川大地震で中国政府は15日までに、救援活動のため軍兵士や武装警察部隊など計約13万人と医療関係者約8000人をはじめ大量の人員と物資を投入。1998年に長江(揚子江)流域を中心に猛威を振るった大水害以来の「全国総動員」(中国メディア)との指摘が出ている。

新華社によると、15日午前までに動員された軍兵士と武装警察部隊員は9万5553人、予備役部隊員が3万6174人に上り、12日の地震発生以来、軍用輸送機とヘリコプターの出動回数は300回近くに上った。

国防省によると、地震発生翌日の13日、各地区から震源地に近い四川省成都付近に空輸した軍兵士の数は1万1420人に上り、輸送兵員数、飛行回数とも「中国人民解放軍の歴史上、最多記録」(中国紙)になったという。

衛生省も地震から4日目に入り救援活動が「時間との闘い」(同省幹部)になる中、救助に当たる医療関係者を四川省で5000人以上、他省などから1755人動員し、治療に全力を挙げている。

ミャンマー:サイクロン被害 死者・不明13万人−−国営テレビ
【毎日新聞 2008年5月17日東京朝刊 バンコク藤田悟】ミャンマー国営テレビは16日夜、サイクロン「ナルギス」による死者が7万7738人、行方不明が5万5917人になったと発表した。前日の発表から死者が3万人以上増え、死者・行方不明者の総数(13万3655人)は2倍近くに跳ね上がった。

 急激な増加の理由について「悪天候などで確認が困難だったため」としている。国連は死者・行方不明者を10万人と推計しているが、国営テレビの発表は初めてこれを上回った。

原油高騰鎮静化へ石油備蓄一時停止…米政府
【2008年5月17日読売新聞 ワシントン=矢田俊彦】米エネルギー省は16日、最高値を更新する原油対策として、戦略石油備蓄の積み増しを7月から一時停止すると発表した。

 現在の購入契約が切れる7月以降、年内は再契約しない。積み増しのために購入している原油1日当たり約7万6000バレルを市場に回し、原油・ガソリン価格高騰の沈静化につなげる狙いだ。

 米議会は今週、年内の備蓄積み増し停止か、原油相場が1バレル=75ドルを下回るまでの停止を求める法案を可決した。ブッシュ政権は当初、備蓄積み増し停止の効果に否定的だったが、原油相場が最高値を更新し、米議会の賛成票も大統領の拒否権を覆せる3分の2を上回る圧倒的多数だったことから方針を転換した。

 備蓄積み増し停止法案を主導した民主党は、ガソリン価格で1ガロン当たり5〜24セントの価格引き下げ効果があると主張する。だが、米エネルギー省の発表後も原油価格は高騰しており、市場では効果は限定的との受け止めが広がっている。

 米国の戦略石油備蓄は、自然災害や戦争などの非常時の備えとして原油で蓄えている。容量は7億2700万バレル、現在は7億270万バレルが備蓄されている。

【フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】
原油価格の高騰
2004年より中国における需要増大などによって原油価格の上昇が続いてきたが、ハリケーン・カトリーナはさらなる原油価格の高騰の要因となった。7月末には1バレルあたり約60ドルだった原油価格は8月30日には一時70ドル超(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)を記録した。ガソリン小売価格も全米で高騰する中、特にニューオーリンズからパイプラインで原油の供給を受けていたジョージア州アトランタでは消費者のガソリン不足の不安に便乗する業者も現れ、1ガロンあたり5ドルを超える高値で販売する小売店もあった。ちなみに1年前の2004年9月上旬におけるアトランタでの平均小売価格は1ガロンあたり1.6ドル程度である。

メキシコ湾沿岸はアメリカ合衆国の主要な油田地帯であるが、ハリケーンの接近で原油産出の中断を余儀なくされた。また、ハリケーンにより原油精製施設も被害を受け、閉鎖に追い込まれた。復旧には数ヶ月かかるという見通しもある。アメリカ政府エネルギー省は国内のガソリン価格上昇などを受けて、戦略備蓄石油を石油会社に貸し出すことを決定した。

国際エネルギー機関(IAE)は、日量200万バレルの緊急石油備蓄放出を決め、各国に協力を求めた。

穀物市場への影響

カトリーナによって閉鎖された、ファーストフード店ウェンディーズニューオーリンズ近辺は、米国中部産穀物(小麦、大豆、トウモロコシ)の集散地である。罹災直後、シカゴ穀物先物市場では、国内余剰懸念により先物価格が低落傾向にあり、日本においては逆に、先物価格が上昇するという状況になるなど、日本国内の穀物価格の上昇及び物価への悪影響が懸念されたが、米国における復旧の進展、日本国内における備蓄調整等により影響は限定的なものにとどまった模様である。

就学への影響
ルイジアナ州を中心に、大学など多数の高等教育機関が被害を受け、復旧の見通しが立たないため、学生の受け入れを当面せず大学を閉鎖することを表明する学校が多数出た。学生の救済のために、カナダを含む北米の大学は、転学者の受け入れなどを表明している。多くの州立大学では、自州出身者であることを条件にしている。ほか、私立学校では姉妹校であることなどを条件にしている。移動費用などは大学側が負担するところが多いが、申し込み期限は9月上旬を指定するものが多い。


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