我々は、産業革命の前史として、大航海時代があることを見逃しがちである。コロンブスによるアメリカ大陸の発見は、ヨーロッパ経済に劇的な変化をもたらしたのである。交易の場は、シルクロードのような陸路から、海路へと変わり、南米植民地からもたらされた莫大な金や銀があって産業革命は、はじめて成立したのである。
 この様に、交通の在り方は、経済のみならず社会や政治体制をも変えてしまうほどの力がある。

 産業というと何等かの財を生産、製造すると決め付けがちであるが、交通も重要な産業の一つである。産業革命は、見方を変えると、交通革命、エネルギー革命、農業革命、組織革命でもあったのである。
 ここで言う交通革命とは、大航海時代を指すのではなく。鉄道や自動車と言った交通機関の進歩を指して言う。

 交通は、経済や他の産業に重大な影響を及ぼす。交通路の道筋や交通手段の変化によって地域や産業の盛衰が決定付けられることすらある。
 鉄道の生成期に、鉄道の線路を敷くことに反対したために、衰退した地域の話はよく聞いたものである。

 資本主義を成立させるた株式会社が成立したキッカケは、商社、そして、運河と鉄道である。

 交通の発達は、都市の発展を促進する。つまり、交通の問題は、都市化の問題でもある。交通は、地域間を結び交流を促す。そして、交通の便をもっとも効率よくしようとすると一カ所に集中的な機能を持たせることになる。同時に、住宅地とか、商業地、工場地帯と言った地域的な分業、機能が生じる。交通機関は、地理的分業を可能とする。

 交通の要衝は、物流のセンターでもある。交通が交叉する地点は、財の集散地になる。そして、市場は、財の集散地を核にして発達する。つまり、交通の要衝は、物理的空間内の市場の発祥地である。

 また、産業は、取り扱う材料や製品に基づいて立地条件が重要な要件となる。立地条件は、交通の要素が重大な条件となる。
 海産物を扱う産業は、海岸や漁港の近くに拠点を置く必要がある。また、鮮度が鍵を握る産物は、市場に荷物を運ぶ運搬時間が決定的となる。嵩張らない高級品は、空輸してもコストが見合うが、大きな荷物は、空輸では割りが合わない。 
 運送業にとって時間は、コストである。そして、運送コストは、運送手段、運送経路、燃料費、運送時間、距離が関係してくる。

 流通は、広義では、運送、倉庫、小売、卸売りを意味する。日本標準産業分類では、I運送業とJ小売・卸売業に分類される産業である。流通、物流を担う場である。
 広義で言う流通という分野は、何等かの物的生産物、生産財を生み出すわけではない。それ故に、古来、流通分野は、軽視され、また、差別されてきた。しかし、流通分野は、より市場に近いため、多くの所得を得、また、富を蓄積してきた。それが近代市民社会の礎(いしずえ)ともなっている。
 しかし、広義で言う流通には、物流、保存、貯蔵、販売、分配、配送と言った機能が含まれる。そして、これらの機能は、構造的な違いにも関わる。そこで、流通を更に細分化し、狭義で言う流通に限定して考察したい。

 狭義では、物流を意味する。物流には、基本的に第一に、陸運。第二に、海運。第三に、空運がある。ここでは、狭義で捉える。
 物流の中で、最近発達したのが宅配である。また、それ以前にも小包、郵便がある。これらを広義に捉えると通信を加えることもできる。通信の働きには、交通と共通した部分もあるので、ここでは通信も加えて、流通の場とする。ここでの定義は要件定義とする。

 交通の問題は、時間、距離、費用、量(大きさ、数量、形状)、性質、そして、安全性の問題である。つまり、早く、安全に、多くの荷物を、安く、かつ、正確に決められたところに送り届けることである。
 質とは、荷物の形状、即ち、個体であるか、液体であるか、危険物であるか、壊れ物か、鮮度を保つ必要があるのか、冷凍物かと言った荷物の性質に関することである。
 また、ICチップのように高価であるけれど形状が小さい物とか、豚や牛といった生き物だとか、荷物の性格によって運搬手段も変わってくる。手段が変わればコストも変わる。また、製造拠点も変わってくる。

 交通産業は、開発、開拓業者を通常は兼ねる。例えば鉄道会社は、鉄道線路を敷くと同時に、周辺の地域の開拓を併せて行わないと採算がとれない。
 つまり、鉄道の周囲に宅地を造成し、新しい産業を興さないと人の流れや物流が生じないのである。人の流れや物流が生じなければ、交通産業は成り立たないのである。この事から、交通産業の在り方は、副次的に周辺の固定資産の上昇を促すのである。つまり、フローによってストックに影響を及ぼすのである。

 物流業者は、倉庫業を兼ねる部分もあるが基本的には、物流と貯蔵、保存とは別だと考える。それは、保存や貯蔵は、ストックであるのに対し、物流は、フローだからである。

 また、交通手段、交通路だけでなく、交通機関、例えば、自動車や飛行機、機関車、船舶(造船)と言った産業も一国の経済を支える中核的産業である。

 運送コストの上昇は、経済全体のコストを引き上げる。交通費が、経済全体に及ぼすコストというのは、馬鹿にならない。交通機関というのは、社会資本であると同時に、社会的コストでもあるのである。
 道路が、政治問題化するように、道路は、社会資本という側面以外に公共事業、公共投資という側面を持っている。また、交通網が社会全体に及ぼす効果は、絶大なものがある。道路一本、地下鉄が開通するかどうかで資産価値が断然違ってくる。
 本州四国連絡橋や整備新幹線、第二東名高速道路、東京湾アクアラインの例を出すまでもなく。通行料の問題は、ただ、採算性の問題だけでなく、地域社会の経済の活性化の問題とも絡む問題である。

 東京湾アクアラインの例でも、通行料をいくらに設定するかによって一日の通行量には、重大な差が生じる。また、千葉県の人口や地価にも重大な影響がでる。東京が過密化し、地価が高騰すれば、その解消策として決定的な意味合いを持つ。また、現在人口の減少に悩んでいる千葉県の経済効果にも大きく貢献することは明らかである。

 交通料金の問題は、維持費、管理費と交通量の問題なのである。

 たださえ、日本の交通料金は、高い。また、有料道路や新幹線の整備と言った公共投資が財政を圧迫しているのも事実である。それが日本の経済全体の社会的コストを引き上げているのである。しかも、経済的な効果もハッキリせず、環境破壊に繋がっていると思われるような施設も少なくない。何のための、誰のための道路なのか。特定の人間のための利権や特権であってはならないのである。交通機関の整備は、国家百年の計である。

 交通は、経済である。同時に、交通は、国家である。交通を考えるためには、壮大な国家ビジョン、国家構想、国家理念、国家戦略が必要である。
 交通は、経済的効果だけでなく、国防や防災、環境保全の面からも重大な役割がある。故に、ただ、経済的効率面からのみ設計すると重大な障害をもたらすことになる。交通蒙を考える場合、国防上の理念、防災に対する方針、環境に対する思想などを先ず確立する必要がある。
 交通を考える場合、先ず、全体の中央、センターを決める。その上で、全体を幾つかの地域(エリア)に区分し、そのエリア内の中心点を定め、そこを中継地点とし、中央と中継地点、中継地点と他の中継地点を結ぶ。更に、その中継地点をハブとしてその地域にネット、網をかけていくのである。
 交通網を設計する上で、先ず、考える必要があるのが道路である。道路は、国家、経済の大動脈、循環器にあたる部分である。道路は、幹線道路と集合(中央)点、交叉点、合流点、中継点などがある。また、要所、要所には、橋やトンネルを作る必要がある。これらの道路と並行して、ガス、電気、水道、通信、石油などライフラインを通す必要がある。
 幹線道路は、古来、ローマ街道、五街道の例を見てもわかるように、最大の国家事業の一つである。大体、街道は、軍事的目的で整備される道が多い。しかし、一度、道が開かれると地域間の交流が深まり、文化や経済を活発にする。この様に、道路は、交通の基盤、基礎である。鉄道が発達した一時期は、幹線道路の機能が低下した時期もある。しかし、自動車が発達した今日、幹線道路が国家、経済に果たす役割は、飛躍的に増大している。
 道路も徒歩で往来していた道から、馬や馬車、そして、自動車とその用途が変化してきている。また、道路は、単なる交通の為の設備から、上下水道、電気通信と言ったライフラインのための基礎、土台ともなってきている。この様な道路の機能の変化に伴い、道路の建築技術は革新されてきたのである。同時に、道路の定期的な保全、補修工事は不可欠なものとなってきた。
 高速道路、有料道路、自動車専用道路、バイパスと道路も多様化しており、目的に応じた道路整備が求められている。
 ドイツのアウトバーンがドイツの発展と統合に果たしてきたように、幹線道路の整備は、国家の盛衰を左右する大事となっているのである。
 また、道路は、環境に及ぼす影響も大きい。環境は、自然環境だけでなく、経済的環境、社会的環境、政治的環境があり。道路が与える影響はいずれに対しても絶大である。
 道路は、恒久的な設備であり、建設には、莫大な費用と年月を必要とする。それが利権に容易に結びつく。
 しかし、道路は、一度、建設すると、簡単には、環境に与える効果を変えることは難しい。また、建築費用は、莫大なものとなる。また、その与える影響は、国家財政、国防、防災、環境保全と多岐にわたる。それ故に、慎重かつ計画的に建築しなければならない。国家経済に与える影響から見ても、一部の者の独占物、占有財産、既得権益、利権にしてはならないのである。

 道路網が整備されれば、それを補完する形で、鉄道網の整備が必要となる。鉄道は、正確、かつ、安全、確実な交通機関として親しまれてきた。しかも、大量な物資を輸送できるという利点がある。反面、路線が限定され、運搬の最終地点が駅に限定されるという欠点がある。その為に、自動車の発展と伴に、一頃よりは、衰退してきた。しかし、鉄道の持つ正確性や郵送力の魅力は捨てきれないものがあり、まだまだ、重要な交通機関であることに変わりはない。鉄道の強みは、何よりも郵送力と計画の立て易さにある。つまり、渋滞や事故を心配せずに、正確な時間を計算できるという事にある。この利点は、正確な時間を要求する事業にとっては重要な意味がある。この点を生かせばまだまだ、鉄道の発展する余地はある。

 次に、整備すべきは、港湾と空港である。港は、交易の要である。特に、航空機が発展してきた今日、空港の役割は飛躍的に増大している。空港の中でもハブ空港の役割が重大になっている。ハブとしての役割は空港のみならず港湾においても重要視される。しかし、ハブとなる空港や港湾は、全体と地域の役割の中で考えられるべきものであり、背景に、よりダイナミック(活動的)な国家構想がなければならない。

 かつては、運河、水運は、重大な国家的事業だった。ヨーロッパでは、運河は、道路と同じくらいに発達した。中国では、国家を傾けるような大事業の一つだった。その証拠に世界最大の運河である京杭運河は、隋の滅亡の一因とも言われている。運河事業は、鉄道の発達とともに衰亡した。
 この様に交通というのは、歴史や技術の発展伴って変化してくるものである。一つの交通機関の発達は、他の交通機関の衰退に繋がる。そして、この様な交通機関の交替は、経済の在り方そのものをも変化させてしまうのである。

 温暖化問題が叫ばれ。環境破壊が問題となり。更にエネルギー問題が近々の問題となっている今日、物流の効率化と、交通に関わる社会的コストの軽減は、財政の健全化の面から見ても待ったなしに解決しなければならない問題なのである。

 日本人は、ただでさえ、ロジスティク、即ち、物流が苦手である。軍事戦略において、参謀本部は、第一に作戦。第二に、情報。そして、第三に、兵站を担う者という意味がある。欧米において、参謀でもっとも重視するのが、後方支援、即ち、兵站だと言われている。そして第二に、情報である。そして、最後に、作戦である。日本人は、この発想が逆転している。その結果、あの第二次世界大戦における悲劇を招いたのである。ドイツやアメリカの潜水艦は、ひたすら、敵国の貨物船や補給艦を狙ったというのに、日本の潜水艦は、勇ましく軍艦を狙って沈められたのである。その結果、日本は戦う以前に消耗していったのである。
 物流は、今日でも経済の鍵を握っている。交通費の高騰は、目に見えない形で経済の足腰を弱らせる。
 交通網が発達する以前は、人間は、狭い範囲のなかで細々と暮らしてきた。交通網が拡大したからこそ人類は飛躍的に発展することが可能となったのである。その交通にかかる費用がじわじわと上がってくることは、結局、活動範囲を狭めることに繋がるのである。それは経済活動の低下を意味する。



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