調達の場とは、言い換えると、資源の場である。資源には、基本的には、人・物・金がある。人は、労働市場を構成し、物は、物理的市場、金は、金融市場を構成する。故に、広義では、労働市場、物理的市場、金融市場の三つの市場を含めた範囲を指す。また、狭義においては、物理的市場を指して言う。しかし、ここで言う調達の場は、労働市場を除いた場を指して言う。
 人とは、人格がある。人格には、実体的人格と法的人格がある。物理的意味での資源には、有機的な物と無機的な物の別がある。有形な物と無形な物とがあり。また、無形な物を情報という。また、所謂、インフラストラクチャー、社会資本にあたる、必需的資源と原材料としての資源という二つの意味がある。金融市場というのは、資本市場と狭義で言うところの金融市場とがあり、それぞれが直接金融と、間接金融を構成する。そして、この区分は、貸借対照表上に資本と負債という形で表現される。

 生産財の特徴は、基本的に素材だと言う事である。調達の場で流通する生産財は、そのまま製品として最終消費者へ手渡される物と原材料として製造業へと渡される物に分別される。

 あらゆる産業の川上に位置している。つまり、調達の場を形成する産業は、川上産業である。

 物理的意味での資源市場は、コーリン・クラークの三分類において第一次産業に分類される産業を主として指して言う。

 つまり、物理的な意味での資源の市場に金融市場を加えた場を調達の場と定義する。即ち、物理的な調達の場とは、第一次産業と呼ばれる産業が機能している場である。日本標準産業分類では、A農業、B林業、C漁業、D鉱業、G電気、ガス、熱供給、水道業であり。F製造業の一部などが含まれる。さらに、これに、H情報通信業、K金融保険業を加えた物をここでは調達の場と定義する。

 第一に、農業、林業、漁業といった生鮮物、生き物、有機物を扱った産業である。これらの産業は、俗に、古典的産業、伝統的産業に区分される原初的産業であり、その労働環境、労働形態も古典的、伝統的組織、制度を下敷き、下地にしている産業が多い。
 機械化がかなり進んでいるとはいえ、基本的には、労働集約型産業である。
 生産財は、有機的な物であるため、鮮度が重要となる。その為に、元来は、貯蔵、備蓄がきかない製品が多く含まれていた。それが二次加工されることによって貯蔵、備蓄が可能となり、所謂(いわゆる)、工業製品の原材料として活用されるようになったのである。、それによって生鮮加工業や食料品産業が工業化されてきたのである。この様な、産業は、冷凍保存のような保存技術、冷凍倉庫のような保存設備に対する投資が大きくなる。
 また、季節変動があり、また、天候や災害の影響を受けやすいという事である。その為に、価格が不安定な事から、先物市場が形成されている。先物市場のはじまりは、堂島の米相場会所だと言われている。この事からわかるように、この場を構成する生産財の価格は、相場の影響を受けやすいという点を注意する必要がある。

 第二に、鉄や銅、金、石炭、塩のような地下資源の採掘を事業とする鉱業である。地理的要件、地質学的要件が決定的、絶対的な要素となる。かつては、労働集約的産業の典型であったが、機械化が進んだ今日、資本集約型産業に変貌してきた。
 これらの生産財の特徴は、長期保存、備蓄が可能だという点と、環境問題、環境投資が馬鹿にならないという点である。地理的要件が価格決定における重要な要素となり、国際政治や戦争の影響を受けやすく、また、運送、配送に多大のコストとリスクが伴っているという点である。また、相場の変動が大きい事から、これらの生産財の多くが、先物市場が形成されている。つまり、ここに属する生産財は、投機の対象となりやすい性格を持っている。

 第三に、電気、ガス、水道、通信、道路、港湾、鉄道、空港といったライフラインを構成する産業は、産業界だけでなく、社会や経済全般のインフラストラクチャー、基礎となる産業である。
 これらの産業は、社会資本を構成する産業である。即ち、資本集約型産業である。社会資本を形成すると言う事からわかるように、巨額の初期投資を必要としている上、それを長期間で回収しなければならない。しかも、その生産財は、無形な物が多い。つまり、空気や水のような存在である場合が多い。一歩、間違うと市場的には、無価値な物、つまり、交換価値がない物になる。それでいて必需品でもある。消耗品でもある。なくてはならない物だけど、価値がない。それが、この産業の生み出す製品の特徴である。必然的に、フリーライダー(ただ乗り)や人道上の問題も重大となる。

 第四に、石油、鉄鋼、化学製品、化学薬品と言った原材料、素材産業である。
 素材、原材料市場は、単品で、商品格差が少なく、資本集約的産業であるために、固定費が大きく、収益が、設備の稼働率に依存する傾向が高い。即ち、資本集約型産業であり、少品種大量生産が生産体制の基本となる。この事からわかるように、素材、原材料市場は、商品数が限られている上に、商品格差が少ないため、商品格差による差別化がしにくく、価格による差別化、低価格、乱売合戦による過当競争に陥りやすい。そのために、寡占的、独占的市場になりやすい。一部の工場製品に市場が独占されることにより、事故や災害に脆弱になりやすい。通常は、過当競争によって収益力が低く、寡占的市場になっていたとしても、一度、工場が事故や災害によって操業に支障がでるととたんに、相場に影響する。また、その製品を原材料としている産業に被害が波及する。原材料産業というのは、常に、ある種のリスクに曝されており、リスク管理が重要となる。

 第五に、資金調達の場として金融業である。
 金融市場は、資本市場と金融市場とからなり、通貨の調達と供給を担う産業である。生産財の特徴は、貨幣価値を表象した物であり、実体的、実物的価値はない。つまり、観念的、抽象的価値であり、基本的に交換価値を現している。また、流動性が価値の中でも重要な要件となっている。金融商品は、流動性を前提とされなければ、商品としての価値がない。そして、その流動性を裏付ける信認がなければならない。よく、記念金貨や純金の金貨が売り出されるが、その場合、金貨は、貨幣として表象された価値より、記念品としての価値や含有されている金の価値の方が優先される。つまり、記念金貨のような物は、通貨としてよりも希少品、金製品としての価値しかないのである。
 その為に、金融商品は、その裏付けとしての準備金の量によって担保される必要があるのである。
 
 金融市場と労働市場は家計からの調達となる。金融業界の貸借対照表は、独特の形態を持っている。その為に、他の産業では、貸方に位置する預金が、銀行では、借方に位置する。つまり、銀行は、預金という形で、家計から資金を調達するのである。この事は、金融機関が家計と産業との媒体となっていることを意味する。

 所得構造、支出構造の変化が、可処分所得の変化をもたらす。つまり、支出の中で固定的な部分と変動的な部分を画定するのである。

 支出の基盤は、家計にある。家計は、最低限生活するのに困らない生活費まで切りつめることができる。先行きに不安が生じると消費者は、ギリギリまで出費を切りつめようとする。それによって家計支出は、最低限までに低下する。同時に、最低限の生活に必要とされる必需品、消耗品の市場は、温存されるが、それ以外の市場は、需要が低迷し、規模が縮小される。つまり、支出の固定的部分はまで支出が抑制され、変動的な部分が圧縮される。そして、支出が硬直化する。この様な時に景気は悪化し、景気が悪化することで、ますます、財布の紐がきつくなると言う悪循環を引き起こす。

 また、景気が悪化し、失業者が増えると所得が減少するために、市場は縮小する。一旦市場が収縮を始めると市場は、構造的に圧縮される。これを抑止するためには、市場の動きを制御するための仕組みが組み込まれている必要がある。

 この様な市場の収縮や拡大に伴う運動は、貨幣の働きに起因する要素が多い。なぜならば、資本主義経済は、主として貨幣経済に依拠しており、所得と支出は、貨幣、及び、貨幣に準じる物で決済される取引が大多数であるからである。

 企業を例にとると企業の行動規範に収益構造が組み込まれていることによって企業の活動を抑止している。収益構造、会計制度がなければ企業業績も赤字体質になるであろう。それが公営企業である。

 貨幣は、交換価値そのものと言うよりも交換する権利を表象した物という性格の方が強いからである。つまり、貨幣を溜めると言う事は、権利行使を留保するという方が性格なのである。この権利が、時間的に変化する。つまり、価値は確定していないという事になる。価値は、権利を行使した時点で確定する。つまり、それが貨幣の性格を規定しているのである。

 経済というのは、循環活動である。何のための循環かと言えば、財を社会全体に分配するための活動である。循環活動を通じて財を分配するためには、過程が重要なのである。そして、分配を受けるための、権利は、本来労働なのである。その為の媒体として貨幣があるのである。つまり、労働を貨幣に換算して所得とし、それを支出として分配を受けるための権利とするのである。しかし、貨幣価値は、労働によってのみ留保される物ではない。そこに問題があるのである。
 金融機関は、資金の調達と供給を通じて経済活動を促す。つまり、心臓部のような役割を果たしているのである。

 六番目の産業として注目されているのが、情報産業である。情報を一つの資源としてみる傾向が近年定着してきた。情報の中に、営業権やブランド、資格のような物も含まれる。所謂(いわゆる)無形資産である。また、特許権や著作権は、知的財産として公認、認知されつつある。情報は一つの資源である。

 第一の農林漁業と第五の金融業を除いた産業は、大規模な装置を必要とする産業が多く、特に、三番目の電気、ガス業が貸借対照表で固定性配列を採用するように固定資産が大きい産業でもある。

 運河、鉄道と言った産業が株式会社の嚆矢(こうし)であるように、巨額の資金を調達する技術を必要とする。

 オイルショックが象徴するように、国際政治や為替の変動の影響を受けやすい。また、アメリカの戦略物資が食料、エネルギー、情報だと言われるように、戦略物資としての側面を持っている。戦略節説いての側面を持ち、巨額の資金を必要とすることから国営、公営事業とする国も多い。また、何等かの保護政策をとっている国もある。

 また、巨額の資金を必要とし、固定費の割合が高く、商品格差が少ない事から商品の差別化が難しく、コモディティ商品の典型とされる。つまり、質よりも量が重要な要素となる産業だと言える。そ差別化が難しい為、価格問題に収斂し、安売り合戦が起こりやすい。の為に、産業の上流部分では、寡占、独占的市場を形成しやすい。この事から見ても、もっとも、独占法に抵触しやすい産業の一つである。

 以上の点を見て解るように、調達の場というのは、投機の場でもあるという事である。先物や資本上が典型であるが、相場商品のほとんどはこの調達の場に集中している。それは、原材料市場が投機の対象としてもっとも好都合だからである。逆に言えば、景気の変動を引き起こす原因の多くは、この調達の場にあることを意味し、景気の変動を制御するためには、この調達の場の規律にかかっていることを意味する。

 また、何等かの環境の変化の影響を受けやすい産業だと言う事である。つまり、環境の変化に敏感で、価格の変動が激しい。それ故に、投機の対象にされやすい産業だと言う事である。しかも、その影響が、川上産業であるが故に、広範囲に及ぶ。

 オイルショックの例を引き出すまでもなく、調達の場を形成する産業の多くが川上産業であるために、産業の変動は、直ちに川下の産業に波及する。しかも、広範囲な影響を及ぼす。

 2007年7月の新潟県中越沖地震によってピストンリングの大手部品メーカーであるリケンが操業停止したことによって国内の自動車産業が大打撃を受けたのは、好例である。一度なんらかの支障がでるとそれが産業全体に瞬く間の内に波及してしまう。

参考資料

(7/21)自動車部品メーカー連鎖休業、影響は全国に拡大 (日本経済新聞社)
 新潟県中越沖地震により自動車全12社が生産の一時休止を決めたことで、全国各地の部品メーカーが連鎖的に生産休止などに追い込まれている。国内自動車産業で製造に携わる人員は約75万人。そのうち54万人強が部品産業で、リケンという1社の被災が広大な産業の隅々に影響を及ぼした。週明け以降、順次再開するとみられるが、今度は減産分を取り戻すための増産に追われることになりそうだ。
(7/23)トヨタ、24日生産再開・地震で車減産、業界で10万台以上へ (日本経済新聞社)
 トヨタ自動車は23日、新潟県中越沖地震の影響で生産を休止していた工場を24日から一部再開すると発表した。自動車部品大手リケンが23日午前から製品出荷を再開したため。いすゞ自動車なども生産休止を解除、地震発生から一週間がたち、産業界で影響の大きかった自動車も復旧に向け本格的に動き出した。ただ、自動車各社がフル稼働に戻るまでにはなお時間がかかり、休止に伴う減産は1995年の阪神大震災時の約4万台を上回る合計10万台以上となりそうだ。

新潟県中越沖地震 トヨタなど工場停止 リケン被災で代替品検討
7月19日8時35分配信 フジサンケイ ビジネスアイ
 新潟県中越沖地震が国内自動車メーカーの生産に大きな影響を与え始めた。柏崎市に製造拠点を置く自動車部品大手のリケンの工場が被害を受け操業を停止。同社製部品の供給が受けられなくなるためだ。これを受け、トヨタ自動車は19日から20日まで全12工場と車体工場の一部で操業を停止し、スズキも19日から5工場でほぼ全面的に操業を止める。このほか、日産自動車、富士重工業、三菱自動車も操業停止を決めた。各社とも来週以降については今後調整するが、リケンの操業再開が遅れれば、リケン以外や海外からの調達などの対応に迫られそうだ。
 リケンは、エンジンのピストンを滑りやすくするには不可欠な部品であるピストンリングで国内5割のシェアを持つ。このほか、変速機の部品など多くを手がけている。今回の地震で、設備が倒れるなどの被害を受けたほか、在庫を保管する建物が大きく損傷を受けるなどしたもよう。同社は18日、「一両日中に設備の再設置は完了する」としているが、本格的な操業再開のめどはたっていないという。



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