近代的産業が成立したのは、産業革命においてである。
一口に、産業革命と言うが産業革命を成立させた要因は、単純ではない。
いくつかの要因が複雑に作用しながら、構造的に形成されてきたのである。また、産業革命は、近代産業を構成するを決定付けている。
故に、産業革命を成立させた要因を明らかにする必要がある。
産業革命を成立させた要因の第一は、科学技術の発展である。産業革命は、科学革命、技術革命でもある。
第二は、エネルギー革命である。それまでの水力や馬車、人力、薪炭と言ったエネルギーから化石燃料中心の社会への変化は、産業だけでなく、生活様式全般をも変革していった。そして、それは、環境問題や資源問題と言った今日的問題にも繋がっているのである。
第三は、交通機関の発達と道路、鉄道網の整備である。産業革命は、交通革命でもある。
第四に、大量生産方式の確立である。産業革命は、生産工程の革命でもある。
第五に、簿記会計制度の確立と発展である。それに基づく資本主義的事業体が成立し、やがて株式会社へと発展し。それと同時に近代金融制度が形成された事である。この事は、組織化された大規模企業体の出現を可能とした。つまり、産業革命は、商業革命でもあった。
第六に、近代民主主義体制の確立である。市民革命によるブルジョワジーの台頭によって社会的下地が作られた。産業革命は、政治革命、市民革命でもある。
第七に、宗教革命に基づく、価値観の多様化、変化である。価値観の変化は、家族の在り方や人間の生き方の根本をも変えてしまった。産業革命は、宗教革命でもあった。価値観の変革による生活様式の変化は、大量の賃金労働者を生み出した。このことによって産業革命を支える労働力が確保されたのである。そして、産業革命に続く、情報通信革命が、より劇的な形で産業革命以後の経済体制の枠組みを完成させてきたのである。
また、産業革命の背後には、農業革命や人口の爆発的増加も隠されている。いずれにせよ、産業革命は、産業革命だけで成り立っているのではなく、科学革命、エネルギー革命、交通革命、商業革命、政治革命、商業革命、農業革命、人口の増加という複数の要因が複雑に絡み合っていることを忘れては成らない。
この様な、産業革命には、光と陰がつきまとう。重要なことは、この産業革命が、人間の意志によって予定され、計画的に為されたのではないという事である。欲望に突き動かされた結果、爆発的に拡大したに過ぎないという事である。その為に、現代の市場、経済は、人間の意志を排除しようとしているかのようにも見える。放任こそが一番だという思想に支配されてきたのである。
産業革命が進行するにつれて、経済は、生産の場と、消費の場と、貯蓄の場に分離していった。そして、それぞれが、生産経済、消費経済、貯蓄・貯蔵経済を形成していった。生産経済は、第一次産業、第二次産業を中核とし、消費経済は、家計、財政、サービス産業を中核とし、貯蓄・貯蔵経済は、金融と物流を中核としている。
財政の本は、王家の家計である。この性格は、国民国家になっても基本的に変わらない。つまり、国民国家になっても財政は、共同体全体の家計である。故に、財政は、家計の延長線上で考えるべきであり。基本的には、消費計画がベースになる。計画をベースにする以上、財政で重要なのは、思想・哲学なのである。
経済機構は、合目的的な存在である。故に、経済機構内部では、目的は、機能化し、機能は目的化する傾向がある。
産業は、事業体の集合である。故に、産業の目的は、事業体の目的が複合化されたものである。産業の目的は、経済の目的と事業体の目的が調和したところにある。経済・社会と事業それぞれの目的からの要請によって産業は成り立っている。
事業体は、経済的に、合目的的、目的志向な存在である。故に、個々の事業体の目的は、事業体内部からの経済的要請・目的に基づくのである。
事業体の経済的目的は、第一に、必要な資材、労働力、資金、情報を調達し、それを加工して有形、無形の成果物を生産し市場に商品として供給することである。第二に、利潤を追求し、収益を、取引業者・債権者・労働者・社会に分配することである。
産業は、経済システム・経済機構を構成する一要素である。産業が経済システムや経済機構を構成する一つの要素である以上、産業の在り方の是非は、経済システム・経済機構の目的から明らかにされなければならない。故に、産業を考えるにあたって経済システム・経済機構の目的と機能を明らかにする必要がある。
経済システム・経済機構の目的は、第一に、労働と分配にある。第二に、労働価値の決定と、労働者の社会的位置づけにある。第三に、経済的問題の平和的解決である。第四に、生産、消費、貯蓄の制御、調整、調節である。第五に、自己実現・生活の保障である。自己存在の経済的自立・経済的裏付け。第六に、生きる為に必要な物資の調達と生産、分配である。
産業は、事業体の複合体である。
産業の基本単位は、事業体である。事業体の代表的なのは、企業や個人事業である。事業体は、共同体であり。内部経済を構成する。内部経済は、独自の分配機構を持ち、市場の原理とは違う原理が働いている。事業体は、労働と分配の場である。事業体は、組織、過程を持つ、独立した単位である。
近代産業は、会計学的構造をもっている。また、会計学的論理で行動をする。つまり、会計学的基礎の上に成り立っている。即ち、事業体には、会計学的な力が作用している。
産業は、生産、製造、創造の場である。産業は、事業体の集合である。事業体は、共同体である。
ここで重要なのは、第一に、産業は、生産、製造、創造の場だと言う事である。つまり、産業は、生産の場にあるという事である。産業革命によって生産と消費は、分離した。そして、その分離は、それまでの生活共同体の在り方を大きく変え、産業を自律した機関へと変貌させた。そして、生産と消費が分離する過程で、市場経済、貨幣制度の発展は、促され。家族の形態も変化した。家族は、生活共同体から、労働力の供給源へと変貌し、消費経済、家庭内労働の地位は相対的な低下した。この事が、経済構造そのものを歪にし、経済の不安定化を招いている。
第二に、産業は、事業体の集まりだと言う事である。事業体のただ単なる集まりというのではない。個々の事業体が何らかの機能を持って構造化された集合体が産業だと言う事である。そして、事業体と事業体とを結合しているのが市場である。ただ、個々の事業体は、社会的要請によって作られた組織ではない。何らかの意図を持って者が組織したのである。その為に、企業は、私的動機、目的によって経営されている。公共の福利とは無縁である。公共の福利と一致している場合は、問題ないが、公共の福利の目的と事業体の目的が背反した場合、重大な齟齬(そご)が生じる。公害がその好例である。そして、往々にして公共の福利と事業体の目的は、対立するのである。
本来、産業が事業体と市場を合目的的に組み合わせた構築物ならば、それを公共の目的に応じて、再構築することは可能なはずである。問題になるのは、黎明期にある産業であるが、それとても何らかの社会や産業の要請に基づいて成立している。その要請を的確につかめば、産業を育成する場を構築することはできる。それを可能とするためには、産業に働く原理を解明する必要がある。公共の目的に基づいて、産業を再構築することそれが、構造経済学である。
第三に、事業体は共同体だと言う事である。現代は、事業体、即ち、企業を共同体としてではなく、ただの機関だとする見解が主流である。しかし、それでは、事業を構成する労働者は、疎外される。機関だとする見方は、人間をただの労働力としてしか見ない考え方が潜んでいる。人をただの労働力としてしか見なさなければ、人間的価値は無価値なものになってしまう。それは、人間性そのものを否定する事になる。人間性を否定した社会は、社会としての求心力、凝集力を失う。それでは、人間は何のために生きているのか、働くのか、存在意義失う。自己実現の機会を奪われることになる。それは、社会を社会たらしめている意義をも喪失させてしまう。労働者は、事業体から生活の糧を得ているのである。自己実現の目的を事業体に見出しているのである。事業体は、経済的目的以外に、共同体としての目的、働きを、特性を併せ持っていることを忘れてはならない。
市場の役割は、需要と供給の調節で在る。第二に、成果物・商品の価値の裁定である。第三に、成果物・商品の分配である。
産業は、複数の事業体の集合であり、個々の事業体を結合するのは、市場である。故に、個々の事業体の機能と市場の特性を結びつければ、産業は設計できる。 産業の成果物は、商品として市場を経由することで価値を持つ。故に、産業は、市場経済と不可分な関係にある。逆に、産業化しえない労働が、市場経済の外に取り残されてしまっているのである。その典型が、家計である。
かつては、産業が市場を支配してきた。しかし、市場は自律的となり、市場が逆に産業を支配するようになる。そこで、産業は、市場の支配権を取り戻そうとしている。問題なのは、産業によって市場の規律、自律性が損なわれることである。また逆に市場的価値によって産業の規律が失われることである。どちらか一方が圧倒的な力を持って他の一方を支配した時、経済全体の調和が失われる。故に、一方が是、他方が非という単純な図式ではなく。いかにして、経済の均衡を保つかである。その為には、経済を一つの機構として捉える必要があるのである。
故に、市場は、産業の揺籃場である。
市場経済においては、いろいろな発展段階にある産業が混在している。
現代社会の経済機構は、いくつかの産業が複雑に絡み合って成立している。そして、個々の産業を構成するのは、複数の事業体である。市場は、これらの事業体の競合の場である。
産業は、通常、階層的である。そして、事業体は、その階層内部において機能的である。つまり、産業は、構造的である。この構造を成立さている原理が重要なのである。
産業構造を構築するためには、建物を建てるように土台から、設計図に基づいて作る必要がある。産業の土台を形成している要素、事業を見抜く必要がある。
産業の構造を決める要素とはどのようなものか。第一に、製品の特徴である。製品の特徴によっても産業は変わってくる。むろん、製品が、有形か無形かは、産業を形成する上で決定的要因の一つである。その他に、製品の性質や形状も重要な要因である。貯蔵がきくかどうか。大きいか、小さいか。運送ができるか。それによって製造工程に重大な差が生じる。また、連産品であるかないかも重要である。大量生産ができるかどうかも産業を決定付ける要因である。その他に、消耗品であるか、耐久品か。固定資産かどうか、それが償却資産ならば再投資期間、周期、サイクルによって産業の好不調の波を生み出す。この様に、製品の特性が産業の形態を決める。
第二に、インフラを形成する産業かどうかである。社会のインフラを形成する産業には、エネルギー、通信、交通などがある。
ライフラインを担う産業は、ガス・上下水道・電気などである。これらは、本来公共事業、準公共事業の特性を持っていた。そして、市場の形態にも独特の形態を持っているものが多い。
その他に、交通インフラを担う産業には、鉄道、道路、港湾、空港などがある。
金融インフラを形成する産業には、金融(銀行、証券、ノンバンク、保険)、財政(金融におけるダム)などがある。 衣食住。必需品。産業の 産業の米と言われる素材産業には、鉄鋼、非鉄金属、素材、原材料などがある。
このほかに、インフラを形成する産業には、情報、通信産業がある。
第三に、労働集約型か、資本集約型か、設備集約型か、知識集約型かによって産業の形態や構造は変わってくる。
第四に、公共企業であるか、否かも問題である。
公共企業が競争力において民間企業より絶対的に優位にあるとは言えない。
第五に、いわゆる一次産業、二次産業、三次産業で在るか否かでも産業構造は変わってくる。
経済の諸問題は、経済機構の構造的歪みから生じている。いずれにせよ、産業は、その成立過程やその機能によって構造化されている。故に、産業を再構築する場合は、成立過程と機能の両面から検討する必要がある。その構造的歪みを是正し、経済本来の目的と機能を取り戻すのが構造経済の目的である。