近代産業の発展は、産業基盤の整備から始まった。産業革命は、産業革命単独で起こったわけではなく。産業を支えるあらゆる分野で同時に起こった変革、例えば、科学技術革新、農業革命、エネルギー革命、航海路の開拓、交通革命、会計制度、軍事革命、市民革命等といった変革に支えられている。

 産業のインフラストラクチャーには、ソフト面とハード面の両面があ理、その両面の発達が同時に進行したのが、産業革命なのである。

 インフラストラクチャーの整備が、産業の育成の前段階に行われる。その成否が、その後の国家経済の方向性を決める。また、インフラストラクチャーに対する初期投資は、拡大再生産を導き、投資乗数効果が高い。それが、潜在購買力を刺激して成長経済を軌道に乗せるのである。しかし、一度、インフラストラクチャーが整備されると、その乗数効果は逓減し、成熟期には、その成果は、あまり望めなくなる。

 将棋や麻雀には、序盤、中盤、終盤の別があるように、産業の成長、発展にもその段階がある。日本の産業は、ある種の偶然にも助けられて、この段階を切り抜け、離陸することに成功したのであるが、この展開を乗り切れずに失策し、産業の礎が築けなかった国も多くあるのである。
 また、序盤といえる時期を過ぎると市場に質的な変化が起こる。その質的な変化に併せて政策も変化させる必要がある。

 近代日本というのは、その成立過程において独占資本主義とも言える体制であり、純粋の資本主義体制とは異質である。ただ、どの時代においてもその創生期の混乱に乗じて富や権力を手に入れる者はいる。その弊害をいかに取り除くかは、その国の国民の力に依るのである。

 日本の経済政策は、当初、構造的とも言える展開をした。それが、戦後の高度成長を導いたのである。しかし、経済が成熟期に入っても、その路線を踏襲しようとしたために、バブルを引き起こし大きく破綻したのである。

 インフラストラクチャーの効果には、第一に、インフラストラクチャーに対する投資効果がある。第二に、インフラストラクチャーによる直接的、生産的な効果の二つがある。

 インフラストラクチャーの整備は、産業や経済を構築させるための前提条件である。故に、先ずインフラストラクチャーを構成する要素を明らかにしておく必要がある。

 インフラストラクチャーには、二つの次元がある。一つは、社会制度的なインフラストラクチャー、今、一つは、産業の経済活動の根幹に関わるインフラストラクチャーである。

 先ず交通革命があり、次に市民革命がある。そして、軍事革命が続くのである。交通革命とは、アメリカ大陸の発見に端を発する大航海時代である。更に、市民革命によって私的所有権が確立され、そして、ナポレオンによる軍事革命が起こる。軍事革命は、技術革新と交通手段、交通路の整備、エネルギー革命をもたらす。これらが、社会的基盤を整備するのである。重化学工業に果たした軍事産業の影響を見落としてはならない。

 産業革命というと、ハード面に目を奪われて、ソフト面の変革が忘れられがちであるが、実際には、ハード面以上にソフト面の変革は、重要である。特に、市民革命と、資本主義革命(近代商法、近代税法等の確立。資本市場の確立。)、生産方式の変革や近代会計制度の確立、近代教育制度の確立、宗教改革は、後の科学技術革命の下地作りを準備した点において忘れてはならないことである。

 インフラストラクチャーは、国家経済、及びに、産業の土台、基礎である。その在り方によってその上に築かれる経済や産業は制約される。

ハード面におけるインフラストラクチャーの基礎となるのは、生命線・ライフラインである。先ずライフラインの確保が先決である。ライフラインというのは、人間や産業が生存するために最低必要な事項である。

 ライフラインの基本は、水である。即ち、水利である。オアシスではないが、かつて文明は、水を中心にして栄えた。水利の他は、火力である。つまり、ライフラインは、水利と燃料の素である。そして、それらは、地の利に左右された。

 更に、社会的分業の深化に従って、この水利に交通が加わったのである。それは、市場の発達に伴っている。交通の要所とは、港湾、道路の交差点をさし、かつては、この交通の要所に文明は栄えた。現代では、これに空港が加わっている。そして今日、ハブ空港の建設に各国がしのぎを削っている。

 即ち、産業のインフラストラクチャーの基本は、第一に、ライフライン。第二に、交通の要所である、港湾、道路、交差点。そして、第三に、市場、物資の集積、貯蔵、流通場所。第四に、労働力の供給拠点。即ち、人口の密集地。第五に、消費地の基盤を指して言う。第六に、第九に、近年進行している情報、通信革命。第七に、金融市場、資本市場の確立。第八に、商取引に対する法的裏付けよる信用経済の成立。そして、市場経済と会計制度の確立である。人口の密集地と消費は、多分に重なる部分であり、今日では大都市がその典型である。しかし、交通手段の発達は、必ずしも人口の密集地と消費地とを一体的に捉える必要をなくした。いずれにしても、これらの要素を成立させる事が、産業の基盤の形成に不可欠なことである。

電気・ガス・水道と言われるように、今日のライフラインは、この水利に加えて、燃料、即ち、エネルギーが重要な要素として加わった。電気・ガスと言った化石燃料が開拓される以前は、燃料は、基本的に薪炭であった。

 現代社会における水道というのは、上下水道をさしている。即ち、産業が大規模化するに従ってゴミも含めた廃棄物の処理が不可欠な要素として加わってきたのである。これらの廃棄物の処理は、人口の増加に伴って都市問題、公害問題、環境問題として近年急速に浮上してきた。

 インフラストラクチャーのハード面に、新たに、情報、通信の発達が、加わってきた。 現在進行中の情報革命は、産業の新たなインフラストラクチャーとなりつつある。情報通信革命は、産業の在り方を根本から再構築する必要性を生み出しつつある。

 この様に、インフラストラクチャーと産業の相乗的作用によってインフラストラクチャーも産業も発展整備したのである。この事は、産業の発展や経済成長を考える上で重要な要素である。

 このライフラインや交通網が大規模な工事を必要としたのである。それが大規模な組織や機構を生み出した。その大規模な組織や機構が産業へと発展したのである。

 これらが産業を成立させるためのハード面のインフラストラクチャーである。されに、産業が成立するためには、ソフト面でのインフラストラクチャーが必要前提となる。

 更にこれらに、金融制度の確立と発展がある。金融市場と資本市場によって巨額の資金が調達することが可能となり、近代社会の基礎が形成されることになる。
 また、貨幣経済の発展は、金融革命に支えられている。発券銀行である中央銀行の機能が確立されることにより、貨幣経済の心臓部が成立され、貨幣経済の構造的基礎が構築された。これによって紙幣の流通と流通の制御が可能となったのである。市場経済においては、通貨は、血液である。中央銀行制度の確立によって通貨の流通が円滑に行われるようになり、貨幣制度の礎(いしずえ)が確立された。その上で、資本市場によって巨額の資金を調達することが可能となり、今日の経済構造の基礎が固まったのである。

 この様なインフラストラクチャーの構造は、脳の構造によく似ている。ライフラインを形成する部分は、古い脳の部分に相当する。それに対し、金融、資本市場、そして、情報、通信に相当する部分は、新しい脳に相当する。

 この様なインフラストラクチャーは、産業のフロー部分と言うよりもストック部分を形成している。それは、投資の回収にインフラストラクチャーは、長期間を必要とするためである。その為に、当初は、公共投資的な色彩が強い事業となり性格を持っている。むろん、英国のように、最初から民間主導で事業を推し進める場合もある。しかし、その場合でも、何等かの公共機関の支援は不可欠である。それだけ、インフラストラクチャーの整備には、巨額の資金を必要としている。

 社会的分業が深化したら、共産主義的生産方式は、成立しにくい。なぜならば、社会分業は、個体差を前提としておりしかもその分業は、大規模なものだからである。
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基礎構造(制度的インフラストラクチャー)