松坂大輔が130億円を超える金額でレッドソックスへ移籍することが決まった。近年、メジャーリーグの年俸は、バブルでふくれあがっていると言われている。

 松坂が高額の契約金でメジャーリーグに移籍している反面、メジャーリーグ各球団の台所は、火の車である。
 メジャーリーグの球団で黒字なのは、30球団中5球団に過ぎず、25球団は、税引き前利益ですら赤字である。ロサンゼルスと言う巨大市場を控えるドジャーズも大赤字である。その赤字の原因は、一目瞭然、80パーセントを占める人件費である。(週刊メジャーリーグ 2006年12月10日号 特集 http://neko89.site.ne.jp/tokjml.htm)

 この様なアメリカのメジャーリーグと比べて、日本のプロ野球リーグの現状はどうかと言えば、更に悲惨である。日本のプロ野球球団の多くが赤字で球団経営が成り立たずに、近鉄がオリックスに統合され、その穴を埋めるために、楽天が新規球団として参入した。2005年各球団の最終損益は、セ・リーグ、阪神タイガース2億5千万円。中日ドラゴンズ▲3億5千万円。横浜ベイスターズ▲4億円。ヤクルトスワローズ▲4億円。読売ジャイアンツ17億5千7百万円。広島東洋カープ6千677万円。パ・リーグ、福岡ソフトバンク▲10億円。千葉ロッテマリーンズ▲37億4千万円。西武ライオンズ▲20億円。北海道日本ハムファイターズ▲17億千200万円。12球団中、黒字なのは、セ・リーグの3球団だけである。

 これら一連の日本のプロ野球の話は、今の日本の経済を象徴している。単純に日本のプロ野球だけの話では片付けられない。100億円という気の遠くなるような所得を取る選手がいる一方でチームは、破産状態に陥っている。また、無給にちかい状態で、メジャーを目指しているマイナーな選手もいる。極端な格差が存在する。それがプロスポーツの世界だと言えばそれまでである。このままでプロ野球そのものが本当に成り立っていくのであろうか。また、産業としてみた時、健全な在り方といえるであろうか。それが根本的な問題なのである。

 一国のプロ野球を産業として見立てるとその市場規模には、一定の限界がある。個々の選手の年俸は、その市場規模の範囲内での配分の問題に還元できる。
 特定の一部の選手に取り分を集中させるのか、それとも、広く配分することによって野球人口の育成を計るのかの選択の問題である。我々は、一部の華やかな選手の話題に目を奪われがちであるが、実は、その背後にはいろいろな問題が隠されている。

 大体、一野球選手に100億円を投資する金がある一方で、赤字で苦しんでいる企業や自治体が多くある。夕張市が、財政破綻をし、360億円の累積負債を返済する為に再建途上なのがよい例である。

 資本主義の根本は、功利主義的である。人間は、合理的な選好によって行動すれば、神の見えざる手によって経済は、自然に調和をするという考え方である。しかし、プロ野球に関しては、この予定調和が成り立たない。と言うよりも、市場の需要と供給に任せていれば、自然の均衡するという考え方自体が楽観的に過ぎるのである。
 球団の経営が成り立たなくなれば、リーグも破綻し、選手達の活躍場所を奪われることになる。選手個人個人が自己の利益を限りなく追求すれば、全体の利益、公共の利益が調和するというのは幻想である。プロ化した選手にチームへの帰属意識や忠誠心を要求しえないし、したとしても自ずと限界がある。試合の勝敗よりも選手生命を優先するのは必然的である。名よりも実を取るようになる。しかし、それによって試合は、面白くなくなる。ショー化され、華やかであっても勝負の醍醐味は薄れる。それは、野球界全体にとっては命取りになる。
 個人の欲望に、全てを委ねてしまうと市場は均衡するどころか、破綻してしまう。それをプロ野球の世界が証明しているのに過ぎないのである。

 所得とは、財の分配を受け取る権利なのである。財の総量は決まっているのである。所得というのは、限られたパイの配分の問題である。選ばれた一部の限られた選手が財を独占すれば、それだけ、産業の規模は縮小せざるを得なくなる。

 市場規模以上に所得の総量を増やせば、球団経営が成り立たなくなる。球団経営が成り立つためには、市場規模の中で、各々の球団に球団経営を維持できるだけの所得を配分する必要がある。だから、選手の年俸の上限をメジャーリーグのコミッショナーは、設定しようとするのである。弱小球団は、淘汰されればいいという発想では、強力球団も成り立たないのである。野球は対戦相手がいなければ、成り立たないのである。市場を独占した時、ゲーム・オーバーになってしまう。

 それ故に、プロ野球というのは規制の多い産業である。というより、プロ野球ほど規制の多い産業は、他にあまりない。プロスポーツというのは、必然的に規制をしなければ成り立たないのである。

 経済は、分配である。分配を考える上で重要なのは、水準と幅である。一定の幅の中で配分されなければならない。問題はその幅なのである。

 幅をなくすというのは、均等で均質な分配をすることを意味する。しかし、均質で、均等な分配は、物理的にも、技術的にも不可能である。第一、個人の嗜好が皆違うと言う事である。第二に、まったく同じ物を生産すると言う事が技術的に難しいという事である。、また、環境が違えば、要求とされる物、必要とされる物も違ってくる。生産面においても、消費面においても、均質、均等の分配は、不可能であり、無意味である。要は、平等というのは、実質であり、実体的でなければならない。
 均質、均等な分配が不可能である以上、適正な評価が必要となる。その適正な評価と基準が重要になるのである。この際の基準が公正と言う事である。プロ野球における公正というのは、その働きに応じると言う事である。更に、相対的に考えると、公正とは、配分が、どの様に分布しているかの問題である。

 ある程度の格差は、選手の励みになる。つまり、インセンティブとして有効である。高額の年俸につられて多くの優秀な人材を一時的には、惹き付けるであろう。しかし、あまりにも格差が広がりすぎると特定の者にだけ、所得が集中することになると不公平感の方が強くなる。また、全ての選手を養うだけの資源が枯渇してしまう。末端まで資源を配分することが不可能になる。結果的に、選手の層を浅くしてしまう。さらに、プロを底辺で支えるアマチュアの質や量にも影響を及ぼす。結局、産業全体としての底を浅くし、質を低下させてしまうのである。だから、ある一定の範囲内に、経営者は年俸の幅を抑えようとする。そうしないと、球団の経営が成り立たなくなり、球団が淘汰されてしまい。プロ野球の選手人口が減ることになる。

 高額な年俸を支払えるチームに優秀な選手が集中し、チームは強化される。チームが強化されれば必然的な好成績をあげられるようになる。そして、好成績は、高業績に結びつき、選手の年俸を引き上げることに繋がる。そして、優秀な選手の誘因となる。それが結果的にチーム間の格差を拡げ、好成績、高業績なチームと万年下位で万年赤字のチームに二極化してしまう。それが、プロ野球界全体の衰退を招く。現実に、アメリカではヤンキース現象、日本では、巨人現象として顕著に現れる。それが、ドラフト制度やトレード制度をと言った野球界の独特の規制を作り出してきたのである。

 年俸の高騰を抑制する為の日本の制度も、日本の野球界が閉ざされていれば有効だが、国際市場に日本のプロ野球界が開かれ、巨額の年俸が保証されるようになると有効に機能しなくなる。制度自体の維持が困難になってしまう。制度どころかリーグそのものを維持することができなくなる。

 ところが今や日本のプロ野球界は、否も応なく国際競争を強いられることになってしまったのである。日本のプロ野球も、メジャーの年俸の影響をもろに受けることになる。メジャーの年俸の水準に合わせることができなければ、優秀な選手の流出に歯止めがかけられなくなる。高騰している年俸の前に、イチロー、松井秀喜をはじめとして多くの優秀な日本の野球選手が日本のプロ野球界を後にしてアメリカへ渡っているのである。アメリカのプロ野球界と日本のプロ野球界とでは、年俸の基準の水準が違う。それは、単純に年俸の水準だけではなく。経済の水準、即ち、為替相場の水準、物価の水準も違うのである。また、税制度も違う。それをただ、金額だけで換算しても一概に比較できなるものではない。しかし、それでも年俸の格差は歴然としている。必然的に、年俸の高いアメリカに優秀な選手は引き抜かれることになる。それが現状である。

 日本の選手がメジャーで通用することが野茂によって証明されたことによって、日米の障壁が取り除かれ、日本のプロ野球界は岐路に立たされることになったのである。つまり、日本のプロ野球界は、メジャーリーグの二軍化されることになってきたのである。それを国際市場との統合と見なすべきなのか、植民地化と見なすべきなのかは、微妙なところである。ただ、国際市場との統合というならば、日本を本拠地とするメジャーなチームが必要とされるのが本意であろう。日本を本拠地とするメジャーなチームがなく。また、リーグとして対等な地位が与えられていなければ、それは隷属に過ぎない。

 チームに入団すると言う事は、以前は、ある種の結社、共同体に入団する事、また、地域コミュニティーを代表する事を意味していた。しかし、現代は、プロチーム自体が機関化し、選手は、ただ雇われた関係だけになってしまった。そして、プロチームを支えているのは、地域コミュニティーではなく、ファンに取って代わられてしまった。そして、選手には、成績や働きだけが求められるようになり、チーム、共同体や地域コミュニティーに対する忠誠心は求められなくなった。だからこそ、高額な報酬を要求するのは、当然の権利だとなるのである。それが、今の経済で言うところのプロ化である。つまり、金と働きだけの関係が全てに優先するのである。それが、球団経営を追いつめ、野球という産業を枯らしてしまう。

 共同体や地域コミュニティーを代表して戦うというのは、高校野球や都市対抗野球が、その継投を引き継いでいる。しかし、現代の高校野球や都市対抗野球は、プロ野球の存在を前提として成り立っていることも忘れてはならない。
 功利主義的な市場経済では、現在のプロ野球界を救済することはできない。ではどうすればいいのか。それを考えながら、新しい経済体制、構造経済の在り方を考えていきたい。

 野球のメジャーリーグ(MBL)に対し、プロフットボール(NFL)は、ほとんどのチームが黒字である。ここに産業の構造化の一つの手本が見られる。


【ボストン=ギレスピー・カズミ】レッドソックスと入団交渉を続けていた西武の松坂大輔投手(26)は13日(日本時間14日)、交渉先のロサンゼルスから同球団の本拠地ボストンに移動して健康診断を受け、契約を結んだ。14日(同15日)、当地で正式発表される。契約期間は6年間で、年俸総額は5200万ドル(約60億8400万円)。最高800万ドル(約9億3600万円)の出来高もつく。Rソックスが西武に支払う落札金を含めれば最高で約1億1111万ドル(約130億円)が動く、世紀の大型移籍となった。(金額は推定)(2006年12月15日 中日スポーツ)

[夕張市再建] 市民との連携が必要だ     
 解消しなければならない赤字総額は、第3セクターによる観光事業整理に伴う損失補償を含め約360億円に上る。公共施設の使用料を50%値上げ、下水道使用料も引き上げ、ごみ処理も有料化する。歳出削減と歳入増加を図り、20年程度かけて再建を目指すとしている。( 南日本新聞2006年11月25日 )

参考文献「メジャー野球の経営学」大坪正則著 集英社新書

 NFLはアメリカの4大スポーツリーグで最も健全な運営を行うリーグであり、アメリカの経済誌フォーブス2004年に発表したアメリカメジャースポーツの各クラブチームの資産価値の格付けランキングでは、16位のニューヨーク・ヤンキースメジャーリーグ)以外は上位33位までをすべてNFLの32チームが占めている。1位のワシントン・レッドスキンズは11億400万ドル、33位のアリゾナ・カーディナルスでも5億5200万ドルの価値と算定されている。そのため、NFLは、ほとんどのチームが黒字である。(2005年度はニューオリンズ・セインツが唯一の赤字経営球団となったが、これはハリケーン・カトリーナの影響を受け、ホームスタジアムが使えず、サン・アントニオなどで公式戦を行ったからである。)(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)


【YomiuriWeekly2004.9.19】奥田秀樹(スポーツライター)/我々の戦う相手は、映画や音楽産業だ 好況「アメフト」が導入した「社会主義」/

アメフトが導入した社会主義
NFLは1993年以降、サラリーキャップ制度が徹底している。今季だと、全球団がサラリー総額を8060万j以下に抑えねばならない。アメリカンフットボールは約50人の大所帯、激しく身体と身体を衝突させ合う格闘技だ。小さなけがなら毎試合、ほとんど全員がするし、しばしば大きなけがで戦線離脱となる。

 だが、制度上、MLBの野球のニューヨーク・ヤンキースのように公式戦途中に大物選手を2人も3人も補強してくることは不可能。それゆえ、シーズンに入って、けが人続出のチームは苦しい立場になるし、逆に前評判が芳しくなかったチームでも、うまくまとまり、けがが少なく乗り切れれば、調子に乗って快進撃ということも起こり得る。絶対的に強いチームもなければ、絶対的に弱いチームもないのである。
 過去5年のスーパーボウルの結果が顕著だった。99年の優勝チーム、ラムズ、00年のレーベンズ、01年のペイトリオッツは誰も優勝候補に挙げていなかった。去年の準優勝チーム、パンサーズも、01年1勝15敗、02年7勝9敗からいきなり公式戦11勝5敗で、プレーオフを勝ち進み、スーパーボウルに出場したのである。
 全米のNFLファンが、今年こそ自分の贔屓球団がシンデレラチームになる、と期待している。おかげで、どの球場でも満員売り切れ、TV視聴率も高いのである。(中略)
 32球団のオーナーたちは、「われわれは32人の資本主義者の集まりだが、リーグ運営に関しては社会主義に賛成している」と言う。
 選手組合の代表ジーン・アップショウは、「我々は、オーナーたちを敵とは見ていない。ビジネスパートナーだ。我々の戦う相手は、他の娯楽産業で、映画や音楽産業に負けないよう、いかにプロフットボールを魅力ある商品として消費者に提供していくか知恵を絞っている」と話す。
 93年にサラリーキャップが導入されたとき、選手の間ではサラリー額の抑制につながると反対の声があった。だが、この10年間で観客動員数は増え、TV放映権料が上がることで、キャップの上限は初年度の3100万jから8060万jと、2・5倍以上になっている。NFLでは、TV放映権料、チケット売り上げなどによる収益の65%から70%が選手のサラリーに充てられることに決まっているからだ。そして、この期間に四つの新設球団が参加し、チーム数は28から32に膨れ上がっている。


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