経済の現状

日本経済の現状について

石油・石炭


はじめに


石油・石炭業界を分析し、語る前に、エネルギーとは何か。エネルギー産業か、人類や国家に果たすべき役割について明らかにしておく必要がある。
なぜならば、それが石油・石炭に代表されるエネルギー産業の存在意義、目的だからである。それを明確にせずにエネルギー産業について語る事はできない。

近代の歴史は、エネルギーの争奪戦の歴史でもあった。エネルギーを制するものが国を制し、世界を制してきたのである。そして、それは、経済的支配をも意味していた。エネルギーの重要性は、国家権力、そして、軍事力の裏付けとしても働いたのである。

二十世紀は石油の時代と言われるように、国際情勢は、石油をめぐって動いたと言える。二十世紀の戦争の陰には、石油利権があった。
石油は、政略物資と言われ、戦略物資と言われた。石油利権の陰には、政治力や軍事力が見え隠れしてきたのである。
それ故に、石油は、純粋に経済的問題と言うよりも政治的、軍事的問題だと一般に認識されている。

事実、エネルギー、食糧、情報は、アメリカの三大戦略産業だと位置づけられている。
それが石油産業に闇の勢力や権謀、陰謀と言った負の印象を与えている。

ま、石油産業の特質、商品差別がつけにくく、連産品であり、大資本を必要とする装置産業、産油国が一定の地域に限られていてると事によって石油産業は、寡占独占体制に陥り易いという傾向がある。それがまた、石油に対する負の印象を増幅する。

ただそれらは、石油と言う資源の重要性の裏返しに過ぎない。石油は、人類に多くの恩恵をもたらしてきたのである。石油にまつわり諸々の悪は、石油がもたらしたのではなく。人間がもたらしたものである。

温暖化問題、環境問題、資源問題これらは、人類が恒久的な幸せ豊かさを保つために避けて通れない課題である。

経済は、生きるための活動である。
経済の目的は、人々に生き甲斐、生きる目的を与え自己実現をさせる事である。
その為に、国家、国民を豊かで幸せにする事である。

国家、国民を豊かで幸せにする事は、他の国や民族の犠牲の上に成り立つ事ではない。
なぜなら、特定の国や民族、勢力が資源を独占しようとすれば必ず争いとなり、凄惨な状態を世界にもたらしてきたからである。
人々が助け合い、分かち合う事でしか実現できない。それが神の意志である。
人々は、冷徹な目をもって現実を受け入れそして万民の幸せを願わない限り、人間の犯す罪に対する罰から逃れる事はできないのである。
神の力を手に入れたとしても神になれるわけではない。力を制御するのは、正義である。自分の感情や欲望をを抑える事のできない者は、神の力を制御する事はできない。
神の力を制御する強い心を鍛えなければ、神の力はそれを持つ者に対してを災難もたらし、やがては破滅させてしまう。
信仰心、神に対する恐れを持たぬ者が神の力を手に入れる事がどれ程危険な事か人類は、肝に銘じるべきなのである。
そして、石油にせよ、原子力にせよ、エネルギーは、人々を豊かにも、平和にもする。しかし、一つ間違うとエネルギーは、人類を滅亡へとも導くのである。神を怖れね者が原子力等を手に入れる事はその者のみならず人類に大いなる惨禍をもたらす。

エネルギー産業に携わる者は、よくよくエネルギーの働きと役割、危険性を自覚し高い志と使命感を堅持しなければならない。努々(ゆめゆめ)、浮利を追ってはならない。

この事を前提として石油・石炭業界の在り様を分析する。


石油・石炭業界の特徴


石油業界とは、原油を開発・生産し、石油を精製・加工、販売する事をによって成り立っている産業である。石油元売り会社は石油を輸入し精製、販売する会社である。

また、石油を精製し、加工して生産される製品は、単に燃料として使用されるだけでなく。原材料しても広範囲に使われる。石油業界を理解する上では、何に加工され、誰に販売されるかも重要となる。燃料以外の石油製品としては、プラスチック、合成ゴム、アスファルト、パラフィン、食品、化粧品、洗剤、液化石油ガスなどがある。

石油業界の特徴を知るためには、石油という商品の持つ特性を明らかにしておく必要がある。
石油は、第一に消耗品である。第二に、必需品である。第三に、日用品である。石油製品は、典型的コモディティ商品である。第四に、差別化が難しい。第五に、装置産業であり、連産品である。第六に、液体、あるいは気体である。第七に、長期保存ができる。第八に、原料となる原油を我が国は大半を輸入に頼っている。第九に、石油の用途は、産業用原材料、電力、交通燃料、民生用燃料、軍用と多岐にわたり、生活の隅々にまで用いられている。第十に、産油国が限られており、しかも、王国、イスラム教国、旧社会主義国、資本主義国と多岐にわたり、政情不安な国も多く存在する。第十一に、強力な生産カルテルがある。第十二に、需要は景気の動向に左右される。第十三に、価格の動向は、国内景気を左右する。第十四に、原油価格や為替の変化の影響を受けやすい。第十五に、戦略物資である。

もう一つ注意しなければならないのは、石油という商品特性とは、直接、関りはないが、石油の先物市場の規模が、他の株式市場や金融市場に比べて小さいと言う点である。その為に、他の市場に比べて少ない資金で価格を操作する事が出来るために、投機筋によって市場が介入されやすいと言う点である。その為に、実需とは関係のないところで価格が乱高下する傾向がある。

石油業界を考える上で重要な鍵を握っているのが、石油製品の特性である。
コモディティ商品で差別化がしにくく、なおかつ、消耗で、必需品である石油製品は、過当競争になると乱売合戦に陥りやすい。この様な産業が適正価格を維持するためには、カルテルを結ぶか、規制によって過剰な競争を抑制するか、寡占独占状態にするかしか手立てがない。無原則に規制を緩和する事を促す者が競争を原理とするのは、本末転倒である。実状を知らずに規制を緩和すれば競争の原理は働かなくなるからである。規制すべきところでないところを規制せずに、規制すべきところを規制していなければ意味がない。
石油業界の実情や性格を無視して無原則に規制を緩和し、競争を放置すれば、寡占独占状態にならざるをえない。石油は、現在の経済では不可欠な資源なのである。
石油業界も「特石法」を廃止し、競争を放置した結果、石油業界も寡占独占状態に向かった。2016年現在、石油業界は、かつて13社あった石油元売りも三つのグループに収斂しようとしている。これは、何も石油業界に関わらず、あらゆる業界で進行している。それが顕著なのは、金融業界である。
気を付けなければならないのは、寡占独占状態は市場経済の死を意味するという事である。

石油は、常時一定量の消費がある。日用品でもある。つまり、最低限度の販売量の予測ができる。売り出してみないとどれくらい売れるかわからないという製品ではない。
また、生活になくてはならない物である。つまり、必需品である。必需品であるから急に売れなくなるという心配をする必要がある。景気に左右されずに、一定の必要量は確実に売れる商品である。流行り廃りに左右されることがない。

それに、備蓄ができる。備蓄ができるから、ある程度買い置きができる。貯蔵が可能なのである。

石油は工業製品だと言う点。農産物や海産物のように天候や作柄に左右されない。その代わり、投資に見合う操業を維持しなければ、すぐに行き詰ってしまう。天然の産物ではないが環境には重大な影響を与える。

石油製品は、商品格差がない。ガソリンや、灯油と言っても味があったり、色が違うといった性能やデザインに大きな違いがあるわけではない。あったとしても消費者にとって決定的な差になるわけではない。結局、価格だけが消費者にとって決定的な要因となる。
商品格差がないから、争点が価格に特定される。価格だけに競争が特定されれば安売り合戦に陥り、過当競争になりやすい。
しかも、装置産業である石油業界は、利益が追加費用に絞られていく危険性がある。こうなると投資資金の回収が難しくなる。

更に、石油製品は連産品であるから一つの製品だけに特化する事が出来ない。一定量のガソリンを確保しようとしたら、それに随伴して灯油も重油も製造されてしまう。しかも、それぞれ異なった市場で需給もマチマチだという事である。
また、消費に季節変動がある製品と季節に需要が左右されない製品もある。季節変動がある製品は、消費の季節変動によって需要も変化するために、価格にも季節変動が生じる。故に、季節変動によって不足気味の製品と過剰に生産される製品とが混在する事になる。

石油業界と言うと街のガソリンスタンドが製油所を思い浮かべるかもしれないが、しかし、ガソリンスタンドや製油所は、石油業界全体から見ると一部である。石油業界は、石油開発、精製、貯蔵、輸送、販売といったいくつかの要素が組みあっわさって形成されている。そして、それぞれ産業形態や規模に差があるのである。

ガソリン、重油、灯油、アスファルト、随伴ガスと各々、製品毎に製造特性と消費特性に差がある。しかも、価格や取扱、市場、税政すら違ってくる。産業としての枠組みがある程度決められていないと適正価格も定まらなくなる。

石油は、形のある物、液体や気体である。形があるという事は無形ではないという事である。無形ではない物は、場所をとる。しかも、液体や気体の場合、それを納める器や活用するための装置を必要としている。
石油は装置産業であり、大規模な初期投資を必要としている。一度投資をしたらその投資に制約される。
しかも、生産者だけでなく流通部分、消費者にも、ある程度の設備投資が必要とされる。

また、石油は、原材料を輸入に頼っている。輸入に頼っているという事は、原材料の高騰や為替の変動の影響を受けやすい事を意味する。

石油商品は、当たり前に原油価格の動向に左右される。石油製品は、輸入商品であるから、必然的に為替の変化の影響を直接的に影響を受ける。また、石油は、全てのエネルギー源であるからあらゆる産業のみならず、消費の局面にも浸透している。また、エネルギー源と言うだけでなく、石油を原材料としている製品は多岐にわたっている。故に、国内景気の影響を受けるし、あらゆる国内景気の局面に影響を与えている。

もう一つ忘れてはならないのは、戦後長い間、日本は消費地精製主義をとってきた点である。消費地精製主義だから、海外での出来事を日本国内の市場でしか消化せざるをえなかったのである。
消費地精製主義は、原油を輸入して消費地で精製するという考え方で、原油で仕入れるために、仕入額を低く抑えられ、また、季節変動や需要の変動に柔軟に対応できる利点があるとされた。
しかし、石油は連産品である事を忘れてはならない。連産品である石油製品の製造割合は、原油の特性と得率との関係で決まる。製品は、差別化がむずしいが、製品の製造割合は、原油の性格と得率で決まる。それでありながら、価格や製品にかかる税金は、製品ごとに違う。
しかも、精製の過程で生じた製品を消費地ですべて消化することを原則としていた。石油製品の売上は精製された石油製品をすべて集計したものとなるのに。石油価格は、恣意的に決められる事になる。原油の性質も軽質油と重質油ではかなりの差が出る。この様な点を鑑みて消費地精製主義にこだわる事は、見直されつつある。
この様な石油製品を何の規制もない自由市場に放置すれば、弱肉強食で自ずと淘汰され独占寡占状態に陥る。国際石油業界で常に問題とされるのは、寡占独占問題であり、かつて独占禁止法が標的としたのは、国際石油メジャーだったことは広く知られている。この点をよくよく考えなければ規制をどの様にするかは解決しない。肝心なのは、エネルギー戦略、国家戦略、政策の中に石油をどう位置づけるかである。何の構想もなく石油政策を決めるのは国家を破滅させる事にもつながる事を忘れてはならない。

石油は、戦略物資である。石油は、軍部と深く関わり合っている。それは、軍事兵器が石油を大量に消費する構造を持っているからである。石油を確保する事は、軍事的な意味において国家の死活問題なのである。

日本が太平洋戦争に踏み込んだのは、石油の輸入を禁じられた事が原因の一つである。また、20世紀初頭に軍艦の燃料を石炭から石油へと転換された。それ以来、産油国の動静は、主要国の国家戦略を制する事になる。
また、今日では、温暖化問題が喫緊の課題として重視されるようになり、環境問題によって石化燃料の抑制も1997年「京都議定書」で決議されている。「京都議定書」その後の「パリ協定」にたいして、先進国と進攻角の間、特に、中国との間に温度差があり、また、アメリカが異を唱えたりと、環境問題は、新たな南北問題として紛争の火種になってきている。
ことほど左様に石油は、国防に深くかかわっているのである。

何かあると石油は問題点ばかりが指摘される。しかし、石油業界は、あくどい事がしたくても価格も仕入れもオープンなのである。
石油業界が何かと問題にされるのは、石油が国家戦略氏と深くかかわっている上に国民の生活に欠かす事の出来ない資源だという事に由来している。第一次大戦以来、石油の動向は、国家の存亡にかかわると同時に、人々の生活をも左右してきたのである。

エネルギー政策は、国家戦略に直接的に結びついている。
戦後日本は、経済政策と国防戦略とを分けて考えるように仕向けられてきた。それは、日本が戦争に負けたからである。戦争に負けた事で日本は、国家戦略と経済政策とを結び付けて検討する事は禁忌とされてきた。しかし、現実には、石油業界は、国際情勢や政治に振り回され続けてきたのである。

石油業界の特質は、多分にも石油という商品に負うところが大きい。
元々、市場経済において収益というのは不安定なのである。商品は、売れるかどうかはっきりとしていない。それが市場経済の最大の不安定条件である。つまり、売れるかどうかは不確かな事なのである。
その点、石油は、消耗品であり、必需品である。備蓄、保存もできる。大体腐る事がないし、鮮度も関係ない。陳腐化する事もない。しかも、用途は多岐にわたり、埋蔵量も無尽蔵にある。
石油業界にとってこれが強みでもあり、弱みにもなる。


石油・石炭業界を動かす要因


何が石油・石炭業界を動かしてきたか。

石油業界を変化させる直接的なキッカケは、一つは業界の再編、第二に、規制緩和、第三に原油価格の動向、第四に、為替の変動、そして、第五の石油会社の収益の悪化である。収益の悪化は、景気に左右される。
この様な直接的なキッカケに対してどのような要因が働いていたのかが重要となる。

何を前提としてオイルショックは起きたのか。まずそれを確認する必要がある。なぜなら、オイルショックこそ最も石油業界に衝撃を与えた一大事だからである。当時日本は、消費地生成主義をとり原油を輸入して日本で精製していた。これが第一の前提である。
オイルショックが起きた前提は、次にいえるのは、石油が戦略物資、軍事物資だった事である。第三に、日常生活や産業に不可欠なエネルギーだと言う点。第四に、石油の産油国が限られており、地域も集中していたと言う点、第五に、産油国の多くが王国や独裁国で、政情が不安定だったと言う点、第六に、石油消費国は、全世界に広がっいて、一つにまとめることは不可能だと言う点、第七に、日本は、自国で石油が産出できず、原油のほとんどを中東からの輸入に頼っていたと言う点、第八に、石油は、限られた大企業に支配されていたという事、第九に、石油が不当に安い価格で取引されていたと言う点、第十に、基軸通貨がアメリカドルだったと言う点、第十一に、東西冷戦時代だったと言う点、第十二に、モータリゼーションの到来とともに石油の需要は上昇していたという点、第十三に、当時はだれも予測しておらず意表を突かれたという点、第十四に、備蓄もされておらず、長引けば、在庫が底をつくのが時間の問題だった事などである。
オイルショックは、いくつもの要素が複雑に絡みあって起きたのである。そして、それは、石油業界の未来を暗示していたのである。

もう一つ留意すべき点は、オイルショックは、第四次中東戦争の副次的事象だったという事である。いつの間にか第四次中東戦争の意義が薄れ、オイルショックの記憶だけが残っている。しかし、根本にあるのは、政治的動機である。オイルショックは当初から純粋に経済的事象とはいいがたかったのである。

石油・石炭業界は、政治や国際情勢に振り回されてきた。石油も石炭も戦略物資なのである。その点を、十分理解しておかないと石油業界の動向を理解することはできない。
石油・石炭業界は、国家戦略に基づいて構築されている。少なくとも国家のエネルギー政策と密接に結びついている。それは、石油業界だけで業界の施策を決められないという事を示唆しているのである。

石油価格を動かす要因の中で忘れてはならないのは、政治的要因と国防的要因である。エネルギー事情、エネルギーの歴史に精通していないと石油価格を動かしている真の要因を見極める事はできない。
表に現れる現象の背後には、世界を動かしている大国や勢力の思惑が蠢いているのである。
石油情勢を表面的な事ばかり見ていたら大局を誤る事になる。
その意味では、軍事的要件も忘れてはならない。


経済の効率化とは何を意味するのであろうか。



経済成長には、物的成長、人的成長、金銭的成長がある。物的成長は、生産の拡大によって支えられ、人的成長は、消費によって促され、金銭的拡大は、所得に基づいている。そして、これらの成長は、市場経済では、市場の拡大が原動力となっている。

ただ経済成長は、一般に、自由主義経済では、貨幣の動きとして認識される。故に、経済成長というと貨幣価値、即ち、金銭上の事象として錯覚しやすい。
その為に、物や人と言った経済の実態がどのように動いていのかを、正確に掌握し制御する事が難しくなってしまっている。貨幣が表しているのは名目的な事であって、実体は、人や物にある事を忘れてはならない。

現在の経済が均衡して見えるのは、会計上、つまり、「お金」の世界の上で均衡しているのであり、人や物の経済が均衡しているわけではない。人や物の経済は、不均衡なのである。
現在の経済は、「お金」の世界に合わせて無理やり均衡させようとしているのであって人や物の経済に「お金」の仕組みを合わせない限り、実体的経済の仕組みは、円滑に機能しない。本来、人や物の経済を均衡させることが経済の仕組みの目的だからである。

名目的価値、即ち、「お金」に振り回されている典型は、石油業界である。
第一次石油危機、第二次石油危機による石油価格の高騰や円高、円安と言った為替の動向、あるいは、経済政策による金利の動向などに石油業界は、振り回され続け、石油会社や経営者の方針や考えだけでは、何も決められないという事態に何度も追い込まれたのである。

それでいてその結果に対する責任を問われ続けてきた。我々は、もっと根本にある石油、ひいては、エネルギーに対しどう向き合っていくのか、付き合っていくのかを明確にする必要がある。それが国家戦略であり、エネルギー戦略の根本なのである。エネルギー政策なくして、今日、国家は成り立たなくなっているのである。

現在、経済の効率化というと規制を緩和する事で競争を促し、価格を低下させ、企業を淘汰する事のように考えられている。しかし、それは、収益を悪化させることで、事業者数を減らし、結果的に雇用を減らす事になる。また、寡占・独占を促す事にもなる。この様な事を考えると何をもって経済の効率の指標とするのか、疑問に思わざるを得ない。
単純に競争力だけが経済効率を測る尺度ではないはずである。

経済効率というのは、生産という局面だけで測られるものではない。分配や消費という点からも経済効率は測られるべきなのである。

ただ、価格を低下させる事のみによって経済効率、あるいは、生産効率を測って低価格を実現したとしても、安売り合戦や過当競争によって市場の荒廃を招き、ひいては、収益力の低下や雇用が失われたら元も子もないのである。

その好例が石油業界である。
忘れてはならないのは、エネルギーはライフラインだという事である。
安定供給は、石油業界に与えられた使命でもある。その点を抜きにして規制緩和は語れない。
規制が単純にいいとは言うつもりはない。時流に合わなくなり、企業の健全な成長を妨げるような規制は排除すべきである。
しかし、それでも規制緩和さえすれば何でも解決するというのは短絡的すぎる。石油業界の実情に合った規制は必要なのである。

石油業界に対する政策を考えるとき、根本に国家してのエネルギー戦略がなければならない。
かつて、国際紛争や戦争は、エネルギー資源の調達が直接的な原因で起こった事がしばしばある。特に、我が国は、エネルギーの自給率が低く、エネルギー資源を海外から調達しなければならない。オイルショックの例を引くまでもなく、エネルギーをめぐる国際紛争は、我が国の経済に多大な影響を与え続けてきたのである。
単に市場の原理だけで経済政策を考えているわけにはいかないのである。

経済効率というのは、企業や産業の社会貢献の上で測られるべき事である。
企業の役割は金儲けだけにあるわけではない。むしろ、金儲けは手段に過ぎないのである。
経済効率は、価格だけで判断すべき事ではない。雇用の問題、消費の観点からも経済効率は、測られるべきなのである。
ただ、規制を緩和すれば何でもかんでも解決すると考えるのは暴論である。


石油業界の構造


国際的な石油業界の構造は、基本的に上流部分と下流部分に分かれている。

上流部分は、原油の探鉱、開発、生産段階からなる。
下流部分は、石油製品の精製、加工、販売、輸送の段階を言う。
ただし、精製、加工部分を中流とする場合もある。
日本では、上流にかかわる企業は少なく、一般に石油業界というと中流以降を言う。

また、中流段階と下流段階では、産業の在り様が違い、別の産業とみなしてもいい。

日本の石油業界の構造は、資本金10億円を超える大手元売り会社を頂点として、ピーク時には、6万店を超える個人、零細業者の販売事業者によって構成される二極構造になっている。

2010年には、1SSしか持たない販売事業者の占める割合は、73.6%とされる。(「よくわかる石油業界」垣見祐司著 日本実業出版社 石油製品販売業経営実態調査)

中流を形成する精製元売りの産業規模は、会社数16社(2014年3月末)、資本金総額5,630億円(3013年3月末)、年間売上25兆8,705億円(2012年度)、従業員数19,200人(2012年末)、原油・石油製品輸入総額16兆1,940円(2012年度)。(「よくわかる石油業界」垣見祐司著 日本実業出版社)

現在石油業界は、大きな分岐点に立たされている。かつて、6万件を数えた販売業者も現在は3万件と半減し、80年代に16社を数えた元売りも3つのグループに集約されようとしている。

1976年に6万7千人を数えた社員数も2013年には、3万人にまで減少した。



石油業界は、労働装備率が他の業界に比べて異常に高い業界である。つまり、それだけ資本集約的産業だと言える。
労働装備率は、製造業平均に比して多い時は、10倍以上の隔たりがある。


企業法人統計
労働装備率=有形固定資産(建設仮勘定を除く)(期首・期末平均)÷従業員数

プラザ合意後に労働装備率が上昇した原因は、主として社員数の減少にあると思われる。


法人企業統計における石油業界


日本標準産業分類では、石油業界は、上流部分は、E製造業の17石油製品・石炭製品製造業に分類されている。

石油を精製する事業所,購入した原料を混合加工して潤滑油,グリースを製造する事業所,コークス炉による石炭の乾留を行う事業所,石炭を主原料として練炭,豆炭を製造する事業所,舗装材料を製造する事業所が分類される。
また,石油コークス,膨潤炭など他に分類されない石油製品,石炭製品を製造する事業所も本分類に含まれる。
ただし,ガスを製造し,導管により一般の需要者に供給する事業所は大分類F-電気・ガス・熱供給・水道業[341]に分類される。(経済産業省)

内訳は、170石油製品・石炭製品の管理、補助的経済活動を行う事業所。171石油精製業。172潤滑油・グリース製造業。(石油精製業によらないもの)。173コークス製造業。174、舗装材料製造業。179その他石油製品・石炭製品製造業である。

ガソリンスタンド等の石油小売業、特約店等の卸売業は、604燃料小売業、533石油・鉱物卸売業に分類される。

石油製品・石炭製品製造業の母集合は、全規模で1985年頃か800件から900件前後で変わらない。資本金一億円以上の規模は企業は、統計を取り始めた1975年から60件前後を横ばいしている。

 
法人企業統計

石油業界は、2014年6月現在石油連盟に加盟している企業は、精製・元売り会社5社、元売り・販売兼業1社、精製・元売り。販売兼業が1社、精製専業が7社、販売専業が1社となっている。
うち資本金が10億円以上は、わかっているだけで12社ある。


石油産業の動向


1985年1月、昭和石油とシェル石油が合併し昭和シェル石油となる。1986年4月丸善石油と大協石油が合併し、コスモ石油となる。1992年12月、共同石油と日本鉱業が合併しジャパンエナジーとなる。1999年4月日本石油と三菱石油が合併し日石三菱、日石三菱は、2007年、新日本石油に名前を変更。2000年7月東燃とゼネラル石油が合併して東燃ゼネラル石油になり、2002年6月エッソ石油とモービル石油が合併し、エクソンモービルに、2008年10月には、新日本石油に九州石油が合併し、2010年7月には、新日本石油とジャパンエナジーが合併し、JX日鉱日石エネルギーとなった。2012年1月東燃ゼネラルがエッソモービルから事業を譲り受けた。
そして、最終段階に入った再編は、2016年~2017年4月出光と昭和シェルが、2017年4月を目処にJXホールディングと東燃ゼネラルが統合に向けて動き出している。


「よくわかる石油業界」 垣見裕司著 日本実業出版社


過去において石油業界の分岐点となった出来事は、オイルショック、ニクソンショック、プラザ合意による円高、バブル崩壊、温暖化、規制緩和、会計基準の変更、リーマンショック、エネルギー供給高度化法、シェールガス革命等である。これらの出来事が、業界再編の底辺で働いている。

石油業界の再編には、三つの段階があったと考えられる。第一段階は、オイルショックによる需要の減退と、原油価格の乱高下による統合で、1985年の昭和シェル、1986年のコスモ石油などである。第二段階は、1996年の特石法の廃止、2001年の石油業法の廃止などによる規制緩和の流れ、第三段階は、「エネルギー供給高度化法」による設備の集約化である。

さらに、原油価格は、21世紀に入ると激しく乱高下する事になる。
2000年、年初からじわじわと値を上げてきた原油価格は、2007年から2008年にかけて急激に値を上げ、2008年7月3日には、WTI先物価格が145.29ドルと史上最高値を記録した後、一転して急速に値を下げ、12月には、33.87ドルを記録した。その後急速に値を戻し、2009年から2014年末まで100ドル前後を揉みあった後、急速に値を下げ2016年1月21日には、アジア市場の原油価格指標である中東産ドバイ原油価格は1バレル当たり23ドルまで落ち込み、約12年ぶりの安値を記録した。

この様な原油価格の乱高下の背景には、シェールガス革命が背景となっている。

原油価格の下落に伴い元売り5社全てが、2期連続の大幅赤字となり。
その結果、JXホールディングスと東燃ゼネラル、出光興産と昭和シェルが統合する事となり、1980年代はじめには、16社あった元売りもコスモ石油と合わせて3つのグループに集約されることとなった。

この背景に会計基準の変更が隠されている。単純に利益だけを見るのではなく背景に何が隠されているかを注意する必要がある。



Economagic.com


石油業界の収益構造。


石油業界の最大の問題点は、収益力の低さである。収益力の低さは、日本の産業全般に言われているが、中でも石油業界の収益力の低さはたびたび指摘されている。
収益性の低さとともに問題となるのは、収益の不安定さである。

石油業界は、石油製品の販売によって収益を得ている。
故に、石油業界の構造は、石油製品の性格を基礎として形成されている。

石油業界の収益は、全業種、製造業と比較しても不安定な動きをしている。

ただ石油業界は、売上高利益率も、総資本回転率も、自己資本比率、他の業界に比べてかなり見劣りする。
利益率に至っては、1970年5.5%で4位、1980年12.2%でワースト7位、2000年18.5%でワースト10である。
巨大な割に体質は脆弱だと言っていい。
これは、石油業界の付加価値率が低い事にも起因していいると思われる。


法人業統計

石油業界の付加価値は、全業種と比較しても低い方だが、製造業と比較するとその異常さが歴然とする。石油業界の付加価値率は、卸小売業よりも低く、しかも90年代に入ると更に縮小する傾向すら見られるのである。
石油業界は、付加価値だけを見ていると製造業より卸小売業に近い体質を持っているとさえ言えそうである。
ただ製造業の付加価値率は、90年代以降石油業界の付加価値の低下に連動するよう低下している点にも注目しておく必要がある。
これは、90年代以降、即ち、バブル崩壊後、石油業界だけでなく製造業全般に付加価値率の低下がみられることを意味している。

石油産業の特徴は、第一に装置産業だという点である。第二に、連産品産業と言う事である。第三に、輸入産業だという点。つまり、為替の変動の影響下にある。第四に、石油は、相場商品だという点である。第五に、石油産業は、規制に守られてきたし、規制する必要があったという点にある。第六に、石油は一定量備蓄が義務付けられている。第七に、石油は戦略物資だと言う事である。石油は、歴史的に見て国家戦略に深く関わってきた。第八に、石油は、原産地が政治的に不安定な地域に限られていていると言う点である。つまり、石油産業は、地政学的産業である。

業界の特徴からみて、石油業界に影響を与える要素は、第一に、原油価格。第二に、金利。第三に、為替レート、第四に、備蓄日数。第五に市場価格の動向である。

商品特性としては、第一に、商品に商品格差がなく、差別化が難しい。第二に、一度、設備投資すると固定費は変わらない。第三に、電気製品や機械製品のように、製造過程でコストダウンを計ることが難しい。第四に、極端な技術革新が計れない。第五に、連産品であるがゆえに、操業度に比例して市場の需要とは関係なく一定の割合で一連の製品が製造されてしまうという事である。例えば、ガソリンと重油は、市場の需要と関係なく、石油の得率に従って製造されてしまうのである。収益性の高いガソリンだけがほしいと言ってもそういう訳にはいかず、灯油や重油が随伴して製造されてしまうのである。

商品格差がなく、固定費の割合が高い石油の製品特性は、一度価格競争に陥ると収拾がつかなくなる。
また、特定の油種によって利益を確保したくても随伴的に出る製品も、赤字覚悟で処分しなければならない。
この様な石油業界は、規制がある時は、一体の収益が見込めるが、規制がなくなると収益の悪化に歯止めがかからなくなる傾向がある。
そのために、利益率の水準は全業種、製造業を通じて低い。生産用機械や建設業と比べても低く。リーマンショック時にはマイナスにまで落ち込んでいる。

石油業界を特徴づける要因の一つに連産品だと言う点も逃してはならない。
2003年の原子力発電の停止、2007年、新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の停止、2011年の東日本第三における福島第一原子力発電所事故とその後の原子力発電所の稼働停止等によってC重油の需給が逼迫した事でC重油を大量に生産した。それに伴ってガソリンやナフサが過剰に生産され市況が影響を受けた。石油製品の生産量は、電力事情にも左右されるのである。(TOCOM)

また、連産品である石油製品の中でガソリンが「唯一の採算油種」だと言われる。その為に、元売りは、ガソリンの得率を高めようとする傾向がある。ただ、ガソリンの販売量をガソリン以外の製品の価格にも影響が出る。

石油は、元々、連産品であると同時に、各製品ごとに価格も税も違っている。石油危機以降厳しくガソリンスタンドの数が制限されることによってガソリンの販売シェアは制約を受ける事となる。元来、元売りと特約店は系列化されていたことから元売り毎の販売数量は、必然的に制限されることになる。ところが製造設備は、販売数量を基に建設されたものではないから生産量、即ち、供給量と販売量との間に差が生じる事になる。
その事から業者間転売という闇市場が派生し、その業転物が市場に流れる事で、どこの系列にも属さない無印という安売り業者の横行を許す事になる。連産品である石油製品は、一定の比率で製品が製造される。しかも製品ごとに価格も市場も異なり、中でもガソリンの利益率が高いために、放置すると無原則な競争に陥る危険性がある。現実に2001年に「石油業法」が廃止されると過当競争に陥り、その結果、業界再編が進み、2017年現在で大手にグループ・プラス・1の3グループに収斂されてしまった。独禁法なんてどこ吹く風である。

 
法人企業統計

売上高営業利益率は、第二次石油ショック後急激に上昇したかと思うと直ぐに下落し、プラザ合意後飛躍的に改善し後、バブル崩壊によって暴落している。真に激しく上下している。2000年代に入って改善の兆しが見えたかと思うとリーマンショックによってマイナスにまで落ち込むのである。

石油ショック以後石油は、安定供給を国策とし、厳しい統制のもとに置かれた。石油元売りは、半ば国策会社とまで言える状態に置かれた。石油業界はもともと軍事物資であり、国家のエネルギー戦略の担い手の一つとされていた。それが、第四次中東戦争による石油危機によって経済がパニック状態に陥ると石油の持つ重要性、戦略性が再確認され。備蓄も石油は国家管理の下に置かれるようになった。
そこから派生したのが製販ギャブである。



石油・石炭業界の売上高


石油業界の売上高は、原油価格の変動に最も影響を受けている。
一般に原油価格の高騰ばかりに目がいきがちだが、1985年に起こった逆オイルショックに関してはあまり語られない。
しかし、プラザ合意による円高と原油価格の急落は、日本の経済に大きな影響を与えた。
また、異次元の金融緩和の際には、原油の急落によって物価の上昇が抑制された。



石油業界全体の売り上げ、売上原価、粗利益の変遷を見ていると石油業界の特異性がよくわかる。


法人企業統計 財務省

売上と売上原価の相関関係は一見強く見えるが。売上と売り上げの差額である粗利益と比較すると、必ずしも相関関係がとれているとは言えない。なぜならば、あらゆる利益の原点は粗利益だからである。

売上、売上原価、粗利益の相関関係
売上高(当期末) 売上原価(当期末) 粗利益
売上高(当期末) 1
売上原価(当期末) 1 1
粗利益 -0.18 -0.26 1


石油の売り上げの推移をみると二つの山がある事が見て取れる。
この二つの山は、石油業界の動向を象徴している。
この二つの山は、価格、数量ともに現れている。


資源エネルギー庁


第一の山は、オイルショックである。
第二の山は、逆オイルショックによって数量が回復してきたことによると考えられる。
これが一つのトレンドである。

二つの山の谷間にあたる80年代後半から2000年にかけては、原油安、円高、低金利、規制が収益の安定に寄与していたと考えられる。

オイルショック後、中東への依存度を下げてきたが、近年また、中東への依存度が高くなってきている。


出所 JXエネルギー 資源エネルギー庁


油断という言葉示すように、オイルショックは、社会のあらゆる方面に甚大な影響を及ぼした。
オイルショック後は、省エネ化が急速に浸透した。
又、近年では、温暖化問題によって石油離れが進んでいる。石油の需要は持ち直したと言ってもいずれは、消費量の減少に向かわざるをえないと考えられている。

エネルギー価格の高騰、温暖化問題、資源問題、人口問題等、諸々の問題を考えるとエネルギーの効率的使用、省エネルギー化は、必須の問題となることは間違いない。省エネルギー化を実現するためには、何らかの規制が必要となる。第一に言えるのは、消費量が減るのであれば、単価を上げて利益を確保せざるを得なくなるからである。

収益は、売上によって成立する。
売上は、販売数量と単価の積である。単価は物価を構成する。
売上の変化は、販売数量の変化と単価の変化を掛け合わせたものである。


法人企業統計


石油製品の価格は、激しく乱高下をするが物価指数総合から一方的に乖離する事はない。
巷間で言われているほど原油の高騰が物価に影響を与えているようには見えない。
石油ショックは、物価に対する影響を一時的に及ぼすかもしれないが、長い目で見て決定的な影響を与えるとは考えにくい。


法人企業統計


売り上げを構成するのは、数量と価格である。
石油価格は、石油本体の価格と為替から構成する。

すなわち、石油業界の売上は、数量要因、原油要因、為替要因の3つからなり、そのいずれもが政治的な動きをしている。それが石油業界を不安定にしている。数量は、資源問題、温暖化問題を、原油は地政学的、世界経済の動きを反映している。

石油の売り上げは、数量要因、価格要因、為替要因の3つから読み解く必要があり、しかも、それが密接に絡み合っているから厄介なのである。

数量的要因を考える場合、石油の原材料の百パーセント近くを輸入に依存しているという点と連産品であるという2点がカギを握っている事を理解しておく必要がある。
数量要因を考える場合、何が、輸入量、生産量、出荷量、在庫量に対して、どの様な影響を与えるかが重要になる。

また、連産品である石油は、製品ごとに生産量、在庫量、販売量が違い、製品ごとの流通や貯蔵手段も違ってくる。

価格は、単純に原油価格だけではなく、為替、船賃、保険料などの動向も計算しなければならない。

市場価格を考察する際は、石油は、装置産業だという事、連産品だという事を忘れてはならない。それが原価計算を複雑にしている。
連産品である石油製品は、個別の明確な製品原価が求められない。

石油業製品の売上高に決定的な影響を与えるのは、原油価格であることは明らかである。
しかし、原油価格の乱高下に目を奪われて数量の持つ意味を見落としてはならない。
石油価格を最終的に決めるのは、石油の需給関係であり、その需給を決定づけるのは、価格ではなく、数量要因だという事である。
経済の実体を反映しているのは数量なのである。



注意すべきは、2004年の原油価格の上昇は急なのに、2004年時点では、価格にはほとんど反映していない事である。
石油業界は、巨額な投資を必要とする装置産業でありながら収益が外的要因によって激しく乱高下する。この様な産業を野放しにすれば、やがては寡占独占状態に陥る。現に、石油業界は、メジャーと言われる石油カルテルが長く君臨してきた。

何でもかんでも規制してしまえというのも暴論だが、規制は悪だからだ失くしてしまえというのもまた無謀である。
規制で雁字搦めにすることは、健全な経済の成長を阻害するが、規制を無原則に緩和する事は、市場の規律を失わせることである。無原則な規制緩和は、乱売、安売り合戦を誘い、市場を荒廃させ、収益構造を劣化させ、寡占、独占を招く。それは、健全な競争を阻害し、自由市場を否定する事にもつながる。

法があるから犯罪が成立するという論法を言う者がいる。法がなければ、犯罪は成立しないというのである。だから、法をなくせというのは、乱暴である。

規制というのは元々合目的的な事なのである。意味のない規制はない。何のために、何の目的で、何を、どのように規制するのかが、肝心なのであり、規制が本来の目的を果たせなくなった、使命を終えた、かえって弊害になっている場合は、見直し、改善し、また廃止すべきなのである。有名無実化した規制は確かに、弊害でしかない。しかし、無目的に規制は悪だと何が何でも規制をなくせというのは、法を否定しているのと同じである。

1970年度には2億KL(345万バレル/日)を突破、1973年度に2億88百万KL(497万バレル/日)のピークをつけた
1973年に勃発した第一次石油危機による供給の一部途絶と、経済停滞及びその後の代替エネルギーへの転換や省エネルギーの促進等により、1986年度まで輸入量は減少を続けたが、その後の国内経済の復活を背景に石油需要は再び増加を始め、原油輸入量も1994年(平成6)年度には第一次石油危機前に迫る2億74百万KL(472万バレル/日)を記録した。(JXエネルギー)

石油・石炭業の利益構造


石油業界は、政治に翻弄されてきた。その時代その時代の国際情勢や政治的判断によって利益は、大きく振れてきたのである。
例えば、オイルショックが起きると数々の規制がかけられ、行動に制約を受ける事となった。逆に、バブルが崩壊すると規制緩和が声高に叫ばれるようになって規制緩和が促進され、その結果安売り競争が激化し、多くの販売事業者が淘汰された。

石油業界のこのような歴史は、営業利益と経常利益、そして、キャッシュフローの関係に現れている。

石油業の利益は、原油の上昇局面と下降局面においてブレる傾向がある。
この様なブレが生じる原因は、一つは、在庫の問題がある。もう一つは、輸送期間と決済期間の問題がある。さらに、為替の問題が加わる。それが石油を投機の対象にしてしまっているのである。

会計とは、何か。会計の目的は何か。利益は何のために算出されるのか。
会計の真の目的は、利益をなぜ、何の目的で算出するのかを理解しないとわからない。
そのヒントとなるのが、期間損益と現金主義の違いである。
期間損益を目的を象徴しているのが利益だからである。

売り買いと貸し借り、授け受けの関係がフローとストックに仕分けられることで、単位期間内の「お金」と物との関係が関連付けられることによって「お金」の働きが明らかになる。その操作が複式簿記であり。目安が損益である。損益は、利益と損失からなる。「お金」と物との関係が貨幣価値を定めるのである。

粗利益だけ見ると第二次オイルショックの1兆5千億円よりも、バブルの時の1993年の1兆6千億円が上回りピークとなっている。
粗利益が悪化した時に、業界再編が進んでいる様に見える。



粗利益がこれほど乱高下したら、一定の利益を確保する事は難しい。粗利益は、費用、即ち、付加価値の資源であり、分配のための指標の分母となる。石油業界は、外部の環境に極めて感受性が高い産業と言える。

しかも、石油業界は、原油の輸入段階から最終製品の消費まで多段階に特有の税金が課せられている。
また、連産品であるのに、製品ごとに賭けられる税金も違う。きわめて複雑な税金体系を強いられている。
課税所得と期間損益上の収益とは必ずしも一致していない。ゆえに、現金収支を納税額は反映したものではない。石油業界は、キャッシュフローが悪化している時も多額の納税を強いられていたきらいがある。

納税額をみるとバブル崩壊後、急速に納税額が減少し、1999年に底をうつとまた、2005年ピークを迎えるまで急速に伸ばし2,030億円を記録してまた、急速に下げている。



営業利益、経常利益を見ると85年のプラザ合意後から、円高、原油安、低金利を受けて順調に改善しているように見える。
しかし、営業キャッシュフローと照らしてみると必ずしも改善されたとは言い切れない。
営業利益と経常利益を引き比べて目を引くのは、第二次石油ショック後の動きは、必ずしも連動していないと言う点である。81年には、営業利益は、大幅に黒字なのに、経常利益は、赤字を記録している。
また、営業純益と経常利益を比較してみると83年、85年は、経常利益は、1474億円、984億円の黒字だが、営業利益から支払利息を引いた営業純益は、各々、856億円、3378億円の赤字である。

 

石油業界は、オイルショック以降、悪役のイメージが定着した感がある。それは、オイルショック時のどさくさに紛れてぼろもうけをしたように考えられていることが一因しているように思える。しかし、実際は、少なくとも石油元売りは、経常利益を見る限り荒稼ぎをしたようには見えない。つまり、莫大な利息を払っていたことがわかるからである。
実際にオイルショックで利益を上げたのは金融機関であって石油業界ではないのが見て取れる。


費用構造


費用は、支出であり、所得を形成する。
費用は生産に結び付き、支出は消費を生み、所得は分配を援ける。

費用は分配を司っている。故に、費用は付加価値の本となる。

費用にも性格がある。費用の性格付けをするのは、付加価値の性格である。
付加価値の主たる要素は、減価償却費、人件費、経費、金利、地代家賃である。
減価償却費は、投資を基とし、人件費は賃金、給与を基とし、経費は、物価を基とし、金利は、負債を基とし、地代、家賃は、資産価値、地価を基としている。
投資や賃金、給与を基にする減価償却費や人件費は、下方硬直的な性格を持ち。固定費を形成する。

粗利益は、91年湾岸戦争、バブル崩壊後1993年に頂点に達しててから減少傾向となり、リーマンショック後は激しく乱高下している。この動きが元売りの集約化、再編成を後押ししたと考えられる。

   


問題は、個々の費用が何に連動して動くかである。つまり、費用を構成する内的要因と外的要因が何と結びついているかである。
特に、人件費は所得に結び付いているから十分に注意する必要がある。
人件費の基本公式は、人数×給与単価である。この二つの要素が利益にどのような影響を与えるかそれによって費用対効果が計測されるべきなのである。
市場の拡大期には、給与単価は下方硬直的に上昇し続ける性格があると言う点である。これは、費用の押し上げ効果の原因となる。この様に費用には固有の性格があり、その性格が利益に対してその時々で、どのような影響を及ぼしているのかを見極める事が肝心である。

費用を構成しているのは、人件費、減価償却費、金利、地代家賃、その他経費である。
販売費、および一般管理費は、取引関係費、人件費、不動産関係費、事務費、減価償却費、租税公課及び貸倒引当金繰入額からなる。
まずこれらの変化を見てみる。



費用は、付加価値を形成する。

石油業界の費用構造と言っても根本は、原価構造である。
石油業界を特徴づける要因の一つが低い付加価値率である。
裏返してみるとそれだけ売上に対して仕入原価が高いという事である。しかも90年代に入るさらに縮小してきている。
付加価値率が低い上に激しく乱高下している。この点は、非常に経営の先行きが見にくい業界だと言える。


法人企業統計

付加価値率が低い石油・石炭業界は、必然的に外部環境の変化に利益が敏感に反応する傾向が高くなる。しかも、原材料となる石油をほぼ百%輸入に頼っている事から海外の動向に大きく揺さぶられる事になる。しかも、原油は、戦略、政略物資であるからなおさらのことである。

石油業界では、民間備蓄として原油50%、製品50%の構成で、70日分の備蓄が義務付けられており、在庫の評価によって資産の構成比率が変動する。この様な大量の備蓄が義務付けられている石油業界にとって在庫の評価基準は死活問題である。

石油業界の特殊性は、異常に高い一人当たり付加価値からも見て取れる。しかも、激しく乱高下している点である。
異常に高い付加価値は、労働装備率と相まって石油業界の性格を形作っている。


法人企業統計 単位百万円

石油業界の付加価値額の動きは、複雑怪奇である。

付加価値の公式は、以下のとおりである。
付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産賃貸料+租税公課
従業員1人当たり付加価値額(労働生産性)=付加価値額÷従業員
人件費が極端な動きをしないならば、その他の要因、支払利息、営業純益の変動が激しい事を意味する。

人件費は、支出であり、所得を形成する象徴的要素である。

  

費用の推移を見て顕著な性格を表しているのは、支払利息の推移である。
第二次オイルショックの際、支払利息は、人件費の3倍強、減価償却費に至っては、4倍を超えている。
80年代後半から90年代にかけて急速に縮小している。

規模別に人件費の差を見てみる。



規模によって人件費に差がある事が窺える。
次に付加価値の構成比を見てみる。



注目してほしいのは、付加価値に占める支払利息の割合である。
支払利息の占める割合は、環境の変化によって大きく変動している。

第二次オイルショックの時、石油業界は、支払利息が人件費や減価償却の4倍にまで達していたのである。
支払利息だけを見れば、オイルショックで利益を上げたのは、石油業界ではなく、金融機関であるように思える。
支払利息を誰に支払ったかが問題なのである。金融機関と言ってもいろいろある。



オイルショック時は、14%の金利を支払っていた事になる。
ゼロ金利、マイナス金利などと言われている2015年現在からみると隔世の感がある。
ただ、注意しなければならないのは、これだけの金利を支払っていても当時の経済は成り立っていたし、成り立つだけの要因があったという事である。
必然性がなければ経済は成り立たないのである。
単に生産性だけから見たらこのことは説明がつかない。なぜならは、経済は、生産と分配と消費の均衡の上に成り立っているからである。この均衡が破れた時、経済は、新たな均衡に向かって変化し始めるのである。


法人企業統計

費用の中で販売費、および一般管理費の動きは、営業活動や管理活動を反映している。
市場が成熟してくると営業費や管理費は削減される傾向がある。

  


付加価値は、経済が成長している段階では、拡大圧力がかかっていた市場も成熟するのに伴い、縮小圧力がかかってくる。それは、価格の上昇速度と費用の上昇速度との間に乖離が生じるからである。費用には、仕入原価のように相場に左右されるものと人件費や減価償却費のように名目的価値、時間価値によって定められたものとがある。その為に、費用は一意的に制御する事が出来ない。それに対して、売上は、数量、価格とも不確実な要素があり、変動的である。この収益と費用の性格の差にも影響され、付加価値は、市場が成熟されるのに伴って縮小圧力がかかるようになる。

付加価値を構成する要素は、減価償却費、人件費、人件費を除く経費、金利、地代家賃、利益、租税公課などであるが、各々その本となるものによって性格に違いがある。人件費や減価償却費などは下方硬直的であるが、経費等は、物価に連動して変動的である。また、利息はその時の金利の動向に左右され、現在の様にゼロ金利な状態では、金利負担はそれほど負担にならない。

また、資金面から見ても収益が頭打ちなのに、借金の元本が目に見えないところで作用したり、不良資産を処分しても残債が処理しきれないなどの問題が起こり、表面的には、利益が出ているのに、負債が増えるなどの様な事が起こる。

減価償却費は、会計上費用として損益に計上される。減価償却費は資金的な裏付けないとされている。これは間違った認識である。
確かに、減価償却費は、設備の修繕、改修、更新といった再投資のための予備費と言う性格を持っている。しかし、減価償却は、当初から資金的な発想はなかったと考えられる。ところが実際は、償却資産の借入金の元本返済資金と言う性格もあるのである。減価償却と資金計画とを関連付けてみないと実際の現金収支と期間損益の整合性が取れなくなる。資金収支と期間損益との不整合は、黒字倒産の隠れた要因の一つとなる。

総合的に見ると減価償却費と支払金利がその時々の局面において決定的な働きをしているのがわかる。

石油業界は、ピーク時から見れば期中平均従業員数は半数以下、一般管理費は、三分の一程度まで圧縮している。




金銭面だけで見ても実態は見えてこない。人や物の数量と言う点からも検証する必要がある。

収益を下げ、所得を上げ、休みを増やし、生産性を低下させるような政策をとられたら企業経営は持たない。
これも商業蔑視、労働蔑視の表れである。
市場が拡大している時は単価も数量も増加する。市場が飽和状態になると総量の増加も鈍化し、取引も競争からシェア争いへと変質する。
費用の上昇は、下方硬直的で簡単には削減できない。中間職を解雇する事で帳尻を合わせてきたのである。それは石油業界も御多分に漏れない。


損益分岐点


固定費は、付加価値から営業純益を差し引いた値を使う事とし、変動費は、売上原価を用いる。
損益分岐点比率は、リーマンショック前後に激しく揺らいでいる。損益分岐点比率が百%を越えるという事は、損失を出している事を意味する。




石油業界の粗利益率が低いのがわかる。粗利益が激しく揺れ動くというのは、売上原価が不安定で、激しく変動している事を表している。
固定費が、第二次石油危機の時よりもリーマンショック後の振幅が大きい事が問題である。100%を越える事も問題ではあるが、それよりも振幅が大きい事の方が問題である。大きく振幅する事で産業そのものの基盤を毀損してしまう危険性が高いからである。





固定的な要素の中で何がどこに影響をしているかを読み取る事は、産業の性格を知る上で重要である。
固定費と固定負債の振幅は、同じ動きをしているわけではない。
固定費の指標は、左に表され、有形固定資産と固定負債の指標は右に表されている。




固定資産が総資産に占める割合は、大きな変動はない。大きく揺れ動くのは、固定費である。
負債は、その時々の経済情勢に影響されて動いているのがわかる。
ただ、これだけ大きく固定費が変化したら、経営の安定はなかなか保てない。かじ取りが大変である。
また、負債や為替に関する高度な技術も要求される。

リーマンショック時における固定費が粗利益に占める比率の乱高下は、第二次石油ショックの時よりもひどい。むしろ深刻な問題が隠されているように思える。

  

有効固定資産は、バブル崩壊後製造業全般は、下降傾向にはいたのに対して、石油業界が下降傾向を示すのは、リーマンショック以後の事である。

2009年「エネルギー供給高度化法」が施行された。
経済産業省は10年7月、高度化法に基づき、石油元売り各社に対して、比較的廉価な重質油をガソリンなど付加価値の高い製品に精製する「重質油分解装置」の装備率について、14年3月末を期限とした目標値を設定した(1次告示)。1次告示を受け、各社は設備の破棄を進めた結果、原油処理能力は高度化法が施行された09年8月の日量約486万バレルから14年4月には約20%減の同約395万バレルにまで低下。製油所数も28カ所から23カ所に減少した。(「週刊エコノミスト」2016年10月18日号)



リーマンショック前後において著しく減価償却費が伸びているのがわかる。人件費や支払いに大きな変化はない。




第二次石油危機当時と比較するとその差が歴然とする。いかに、石油ショックの時に金利が異常だったかがわかる。



石油業界の資産構造



石油業界は、化学工業に属し、装置産業である。また、連産品である。

バブル崩壊後、日本の産業の問題点は、3つの過剰、過剰設備、過剰負債、過剰人員と言われてきた。
石油業界もご多分に漏れず、長い間、過剰設備に悩まされてきた。

石油産業は、固定資産が大きく、それだけ、ストックの部分、固定資産、固定負債の層が厚い事を意味している。固定資産、固定負債が厚いのに、相対的に比率が大きく感じないのは、固定資産の厚さ以上に在庫の比率が大きいからである。
いずれにしても固定資産、固定負債が大きい事は、レパレッジが働きやすく、為替や金利等の影響を受けやすい事を意味している。

石油業界は、常に過剰設備に悩まされてきた。
過剰設備は、製販ギャブ問題の背景でもあった。

また、低い自己資本率で借入金に依存してきたため、オイルショック時には、過大な支払利息に悩まされることになる。
過剰な設備を削減する事は、業界全体のためになることはわかっていても個々の企業にしてみれば死活問題にかかわる事でもある。

固定資産は、バブル崩壊後もしばらく上昇がすすんだ後、段階的に減少し、1997年を境に急速に減少し、リーマンショック時に一時高騰した後、急落し以後減少傾向を強めている。

2009年8月「エネルギー供給高度化法」が制定された。同法は、2014年3月を期限に石油精製会社に重質油分解装置の装備率の向上を義務付けている。
装備率を向上させる手段には、分母となるトッパーの能力削減か分子となる分解装置の能力の増強があるが、国内の需要が減退している状況では、設備の削減する方向にしか選択肢はなく。
2011年9月には、昭和シェル石油が京浜製油所正親町工場、13年7月にコスモ石油が坂出製油所、14年3月末には、JXホールディングスが室蘭製油所、出光興産が徳山製油所を停止する。

石油業界は、ピーク時、4兆1千億円あった固定資産を半分の2兆円にまで削減している。
特に、「エネルギー供給高度化法」制定された2009年を境にして急速に固定資産を減らしている。
そして、「エネルギー供給高度化法」が業界再編を誘発したとも言える。

  

1997年3月末に44ヶ所、精製能力が日量527万バレルあった製油所が2012年には、26ケ所、日量447万バレルまで削減された。


石油業界の貸借構造



第二次オイルショックの際は、流動負債の比率が80%近くまで上昇している。現時点では60%代まで回復し、オイルショック時には、10%を切っていた純資産も20パーセント以上を回復した。
流動資産も流動負債と同じような動きを見せている。

ただ、流動比率を見てみると全業種、製造業、卸小売りと比べてみても低い。


法人企業統計


流動資産と流動負債は、ある程度連動しているように見える。その為に、流動比率は目立った変動は表面的にはしていない。
ただ、流動比率はどちらかというと低い。流動比率は、流動比率=流動資産÷流動負債×100によって導き出されるから、流動比率が低いという事は、流動資産に対して流動負債の比率が高い事を意味している。
流動比率が低い業種は一般に現金商売つまり、掛け売りや信用取引をしない業種であり、石油業のように高額な工業製品は珍しいと言える。
商品格差がなく、日用品で、必需品、保存がきき、消耗品だという石油の商品特性によるのが一因と思われる。

流動比率には、誤解があって百%以上あれば安全だとか、百パーセント以下だと支払能力に問題があると一般に信じられている。しかし、流動比率は、業種業態によって差がある。単純に見せかけの流動比率を高めようと思ったら、売掛金や受取手形を増やして、買掛金や支払手形を減らせばいい。また、現金も実態を把握するのは難しく破綻直前企業でも帳簿上増加する傾向がある。
ただそれでも、石油業界の様な産業で流動比率が百%を切るのは、かなり資金繰りが逼迫していると言える。収益の向上を計る必要がある。

 

全般的に流動資産も流動負債の高い。流動資産の変化は、主として在庫に係る部分で
これは、在庫価格と短期借入金が何らかの形で連動していることがうかがえる。

総資産の構成は大きく変化している割に総資産そのものは横ばい状態である。
それは、全体として総資産は、伸び悩んでいるのに対して、内部構造の変動が激しい事を意味している。




総資産回転率は、バブル崩壊後高くなっている。
原油価格によって支配されている石油業界は、原油価格によって資産の構造も変化するのである。

 
法人企業統計

石油・石炭業界の固定資産の動きは、全業種の動きと比べてみると特殊である事がわかる。償却資産の上昇も急ならば、下落も急である。要するに極端から極端に走っている。

  
法人企業統計

流動資産は、在庫に振り回されているのがわかる。在庫に合わせて売上債権も動いている。
それに対して現金・預金も金融資産も縮小傾向にあるのが見て取れる。
比りを見ただけでは実態は掴めない。ただ絶対数だけでも働きを見て取ることはできない。いずれにしても外的要因が石油業界では決定的要因として働いている。経営努力だけではどうにもならないのである。

  
法人企業統計


売り上げと売上原価、在庫の関係は要注意である。



石油業界では、資産に占める在庫の割合が重要な働きをしている。
原油価格が高騰すると在庫の量が変わらなくても在庫の金額は変わる。それが資産全体の金額を押し上げるために、在庫の資産に占める割合が変化する。
在庫の占める割合によって固定資産の占める割合も変化する。これらを鑑みながら固定資産の回転率は考察する必要がある。

有形固定資産回転率は、価格高騰による売上高の上昇によって変化する。
やはり目に付くのは、リーマンショックの時の落ち込みである。いかに、リーマンショックが経済に与えた影響が大きかったかを示している。


法人企業統計 財務省

総資産回転率が上昇した原因は、売上高の変化にある。
売上高の変化の原因は、原油価格と為替の変動、市場価格、売上数量に求められる。
78年に総資産回転率が上昇するのは、第二次石油ショックによる原油価格の高騰が原因している。
逆に、総資産回転率が85年に急落するのは、プラザ合意に基づく円高による。
この様に、石油業界は、原油価格や為替の変動という外的要因によって損益ばかりでなく資金構造まで揺り動かされる体質を持っている。



法人企業統計 財務省


石油自体が戦略物資であり、国際情勢や政策の影響を受けやすい。

また、原材料の99.6%を海外からの輸入に頼っており、為替の変動の影響を受けやすい。

在庫は、売上同様、数量要因、原油要因、為替要因をそれぞれ反映している。

売り上げと売上原価、在庫の関係は要注意である。原価計算の仕方によっても利益は変化する。
たとえば、個別原価計算方式では、基本的に個々の製品にかかる固定費は変わらないのに対して、総合原価計算方式では、製品を大量に作ればそれだけ個々の製品にかかる固定費の率は下がり、単位製品あたりの原価を下げる事ができる。
また、直接原価計算か、全部原価計算かによっても売り上げと原価、在庫の関係は変わってくる。
短期利益を株主や融資先から求められる経営者は粉飾とは言わないが、長い目で見た時、企業経営の足枷になることは解っていても不景気なのに、大量生産を行って在庫を積み増しすることで原価を下げる利益を上げる選択をすることが多々ある。
更に、在庫の貨幣価値は、数量だけでなく、評価基準の変更することによっても変える事ができる。
この様な売り上げと原価、在庫の関係を検証するためには、生産数量と仕入れ数量と会計上計上されている棚卸し資産の額とを照合してみる必要がある。

石油製品の付加価値生産額指数は、70年後半から80年代にかけて低調である。それに対して、会計上の在庫額は、78年145億円、79年304億円、80年375億円、81年370億円と急上昇している。

業種別季節調整済指数 付加価値額生産(平成22年=100.0)
1978年から2012年まで



棚卸資産も第二次オイルショックが引き金になって急上昇している。回転日数も原油価格の暴騰に伴って上がっているがプラザ合意後は、かえって全業種平均よりも下回るようになっている。




石油業界は在庫の評価がカギを握っている。


国際会計基準に合わせて日本の会計基準の見直しが始まっている。
そのいくつかは、石油業界に重大な影響を与える事が予測されている。
特に、棚卸に関する見直しは、石油業界に決定的な影響を与える事が予想されている。
棚卸に関する重大な基準は、二つある。その一つが、「低価法」の強制的適用が義務付けられる点と、「後入れ先出し法」の採用の廃止である。

2010年4月から棚卸資産の原価配分方法の1つである「後入先出法」が会計の国際共通化の流れを受けて廃止された。「後入先出法」は一部の石油会社に許されてきた会計基準であるが、今後は、石油会社も「総平均法」や「先入先出法」などの会計基準への変更が迫られることになる。

石油業界は、1987年から1988年にかけて、在庫の評価基準を一斉に「後入先出法」に変更した。
利益操作に使われるとして、IFRSでは後入先出法が認められておらず、「後入先出法」は、単価が安いときに買った昔の在庫が残っていれば、石油価格の上昇局面において、棚卸資産に含み益が残ってしまう。逆に価格が下落局面にあれば、棚卸資産に含み損が生じることになる。オイルショック時に原油価格の高騰に悲鳴を上げた石油元売り各社がそれまでの会計基準を変更して採用したといういわくつきの基準である。

なぜ、石油業界は、「後入れ先出し法」を採用せざるをえなかったのか。その事情を理解しないで会計基準の是非を論じるのは、片手落ちである。
まず第一に言えるのは、オイルショック以来、石油は政治的に利用され、極端な価格の乱高下を繰り返してきたという点である。
第二に、その価格の乱高下に石油業界は振り回され続けてきた。この様な名目的損益とキャッシュフローのかい離が大きく。キャッシュフローにおいて石油業界は過大な負担を担ってきたのである。

第二次オイルショックの際、見かけ上の過大な利益が計上されるが、逆に、石油の暴落時には、過大な損失が計上された。
しかも、原油価格の上昇時の原油上昇による利益を除くと売上総利益率は、下降しているのである。

「後入先出法」が採用される以前は、「平均法」「先入先出法」が石油業界でも一般的だった。
「平均法」「先入先出法」だと原油が急騰した場合は、莫大な利益が会計上あがってしまい、逆に、急落すると莫大な損失が出てしまいキャッシュフローが追いつかなくなる。オイルショックの際、その弊害が強く出たので、多くの石油元売り会社が「後入後出法」に会計基準を変更した。

第一次、第二次オイルショックの際は、在庫の評価は、「平均法」や「先入先出法」だったと考えられる。

「後入先出法」では、石油価格の上昇局面において、単価が安いときに買った昔の在庫が残っていれば、棚卸資産に含み益が残ってしまうことになるし、一方で価格が下落局面にあれば、棚卸資産に含み損が生じることになってしまう事になる。

国際会計基準統合化の流れに従って昭和シェル石油は、1998年に、コスモ石油は、2000年に「後入先出法」から「総平均法」へと在庫の評価基準を変更した。それに対して、出光興産は、2009年、東燃ゼネラル石油は、2011年に「後入先出法」から「総平均法」へと変更。JXホールディングスは、2011年に「総平均法に基づく低価法」に統合した。

会計基準の変更における効果は、価格が高いか低いかと言ったポジションではなく、上昇局面にあるか、下降局面にあるかという変動によるものであり、効果の程度は、変動幅(ボラティリティ)と速度によって定まる。

「後入先出法」から「総平均法」へ会計基準を変更すると価格の上昇局面では、売上原価を押し下げ、その分利益を押し上げる。下降局面では売上原価を押し上げる、その分利益を圧迫する働きがある。原料価格の変動幅が大きく、大量の備蓄が義務付けられている石油製品は、「先入先出法」のように、相場の変動を価格に転嫁するの時間がかかる処理法だと利益に原材料の変動させることが困難になる。


原油価格は、2015年初頭から大幅に下落し、翌2016年も続落し2017年になってようやく安定した。
原油価格が急落したから石油元売りは、大幅に利益を上げたかと思うと、事はそう単純ではない。業界最大手の旧JXHDは、2014年度決算で1070億円の純利益を上げた翌期には、2772億円の純損失を出し、翌々期も、2785憶円の純損失を出している。


  
世界経済ネタ帳


週刊ダイヤモンド 2017.9.9

原材料費である原油価格が急落しているのに、元売りは大赤字を計上している。原油価格が安定している時に元売りは利益を上げ、原油価格が下がると赤字を計上しているのである。そのなぞは、在庫にある。石油元売り会社は原油70日分の備蓄を義務付けられている。
石油元売り各社の在庫評価は「総平均法」に基づいている。期末にかけて原油価格が下がると売り上げ単価も下がる。その結果売上高全体も下がる。そうなると売上原価率が上がり、減益要因となる。逆に期末にかけて原油価格が上がると増益要因となる。在庫の影響が強ければ、本来、在庫を減らせばいいのだが、70日間の在庫が義務付けられているためにおいそれと在庫は減らせない。在庫の備蓄を義務付けられている分、利益は数千億円という単位で乱高下するのである。(週刊ダイヤモンド 2017.9.9)




石油業界は、収益力が低い事もあり、原油価格の変動に利益を合わせ様として、在庫の評価の仕方や減価償却の計算式を変えたりと四苦八苦しているのが実態である。しかし、このような無理が石油業界の健全な発展を促しているかが問題なのである。この問題を解決するためには、一企業の努力だけでは限界がある事は明らかである。適正な収益があげられる環境を構築することが先決なのである。

石油業界は、何かと悪役にされがちである。
オイルショックが起きた際、元売りの対応のまずさにも問題があったが、それでも、戦略物資として、政治戦略や国際紛争に振り回され、価格の乱高下によって安定した収益を上げる事が難しいという事実に目を瞑っていいとは言えない。
石油は、ライフラインを担い。国家の存亡をも左右する大事である事を忘れるべきではない。

会計基準の変更が経済や景気に決定的、あるいは、深刻な影響を与える事がある事を十分に為政者は留意しておく必要がある。

会計の目的とは何か。会計が御都合主義に堕するのも困るが、かといって角を矯めて牛を殺す類になっても困る。


石油・石炭業界の負債・資本構造


石油業界は、全業種、製造業平均と比べて自己資本比率が低い。建設業や生産用機械業界と比べても低い。
これは、石油業界の財務体質の脆弱さを意味している。
自己資本比率の低さは、負債の比率が高いことを意味し、金利の動向に利益が左右されやすい体質を持っている。

 
法人企業統計


産業通産省の調べでは、1999年の長期資金調達額は、1,132億円、1998年が2,268億円だから前年の50.1%減となっている。資金の内部調達の構成比は95年77.1%、96年100.3%、97年130.6%、98年91.6%と内部資金が占めている。リーマンショックの時一時的に外部資金が上昇するが傾向としては、資金調達が外部調達主体から内部調達へ移行しているのがわかる。



内部留保は、第二次オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック時に大きく毀損していることがわかる。



内部留保についておかしな誤解がある。内部留保がたまっているから、内部留保を取り崩して投資や給与に向けるべきだという考え方である。これは、資本金に対する錯覚に相通じる。
内部留保も資本金も資金の調達手段を意味する。資本金は、出資に基づいて調達された資金という事であり、預金のような実態があるわけではない。いわば、資金の性格を表しているのに過ぎない。借金をして得た資金は、金利がかかるし、返済をしなければならないという性格がある。それに対して内部留保とか、資本金というのは、金利や返済義務のない資金という意味である。
じゃあ資本金という実体があるかというと資本金に実績はあっても実体はない。
資本金というのは、二百万円の家を頭金の二百万円を親に出してもらって後の千八百万円は、ローンで支払って購入したというような事である。親に出してもらった二百万円は返す必要はないが、後の千八百万円は返さなければならないという事を表示しているのに過ぎない。じゃあ頭金の二百万円は返す必要がないんだから貸してくれとか、税金をかけると言われてももう使ってしまったお金を貸してくれとか税金をかけると言われても理不尽な話なのである。
仮に、現金という形で資金が余っていたとしてもそれを給与として支払えばそれは費用として計上されることとなり、利益を減額する事になるのである。赤字な時に、内部留保補取り崩して給料を支払えというのは、さらに赤字幅を大きくしろと要求する事なのである。投資に内部留保を回せというのも同じことなのである。

故に、社内留保を考える場合、社内留保が減額しているという事は、何らかの形で資産が取り崩されていると考える必要がある。



石油業界は、収益率が低く、自己資本比率も低い。更に粗利益率も低い。この主要指標の低さが石油業界の抱える問題の根の深さを表している。

石油業界のキャッシュフロー


石油業界にとってオイルショックがいかに大きな傷になっているかは、キャッシュフローを見ると一目瞭然である。
第二次石油ショック直後の営業キャッシュフローのマイナスは、4兆8千憶円に上るのである。
営業キャッシュフローはこれだけ大幅にマイナスしているというのに、営業利益は、9千5百6十億円の黒字である。
その為に、石油業界は、8百3十億円、法人税を納税しているのである。

営業キャッシュフローや財務キャッシュフローの振れ幅から比べれば投資キャッシュフローなんて微々たるものである。

 

利益は、キャッシュフローに常に貢献するとは限らない。
その典型が税との関係である。

オイルショックの背後で何が起こっていたのか。
何が真実で、何に問題があったのかは、表面に現れた数字ばかりを見ていても理解できない。

石油業界は、第二次オイルショック時、急速にキャッシュフローが悪化し、1979年、営業キャッシュフローが4兆8千億円のマイナス、1980年、1兆円強のマイナスを記録した時、1979年830億円、1980年1573億円の税金を納めているのである。
また、1983年、8千3百億円、1984年、1兆円営業キャッシュフローがマイナスした時も、1983年、870億円強、1984年、1,264億円。
2005年には1兆円、営業キャッシュフローがマイナスした年に、2千億円強の税金を支払っている。



営業キャッシュフローがマイナスしても損失になるとは限らず、納税は発生しているのである。
石油業界では、利益と営業キャシュフローとは必ずしも連動していない事が見て取れる。

手元流動性も、石油業界は、全産業、製造業と比べて見劣りがする。
とくに、85年のプラザ合意後一時上昇するが、89年バブル崩壊以降、際立って悪化している。



手元流動性と業界再編は互いに影響しあっているように見える。
手持ち流動性は、資金繰りの状態を表す指標の一つであるが、手元流動性の改善がみられた時に丸善と大協が合併してコスモ石油が発足し、昭和石油とシェル石油が合併して昭和シェル石油となった。更に、手持ち流動性が悪化していくのに合わせるかのように、ジャパンエナジー、新日本石油、エクソンモービルが発足したように見える。




キャッシュフローから見た石油業界の現状


キャッシュフローは、業界の状態を正直に反映していると言える。

重大な点は、石油業界は、営業キャッシュフローを生み出せないほど追い詰められているという事である。
損益だけを見ていたらこの点を見落としてしまう。
石油業界のキャッシュフローの基本的な形は、営業キャッシュフローが「-」で、財務キャッシュフローと投資キャッシュフローが「-」の形になっている。この形は、衰退期を表す形である。
少なくとも2000年から2013年に至るまでの間で、営業キャッシュフローがプラスになったのは、2001年、2006年、2008年の三度だけである。これは、ずっと資金流出が続いている事を意味する。つまり、過去の遺産を食いつぶしている状態である。
そして、この間、合理化や業界再編を繰り返して今日に至っている。

この状態をどの様に考えるかが重要なのである。
石油戦略や構想が欠けている事が一番問題なのであるが、それは一企業で策定できる事ではない。
やらなければならない事は、石油産業を我が国の国家構想においてどのように位置づけるかの明確にする事なのである。
石油業界をこのまま衰退させていいのかのその点が肝心な事なのである。

単位10億円
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
営業CF ▲ 1269 286 ▲ 841 ▲ 22 ▲ 833 ▲ 987 869 ▲ 1099 1934 ▲ 1416 ▲ 470 ▲ 903 ▲ 49 ▲ 392
投資CF 241 168 191 194 477 507 371 250 ▲ 213 ▲ 2 305 523 152 201
財務CF 207 193 169 174 456 506 438 297 ▲ 149 27 334 552 136 219

営業キャッシュフローが悪化する要因の一つとして石油商品の遅効性がある考えられる。
石油製品の遅効性とは、例えば、原油価格が値上がりしてもそれが実際の市場に反映されるのに時間がかかるという事である。

石油業界は、百%近くの原油を輸入し、精製し販売する事で成り立っている。原油の輸入に頼っている事で原油の動向だけでなく。為替の影響も避けられない運命にある。
為替は、換算によって成り立っている。換算とは、ある対象の値を他の単位に変えて計算しなおす事を意味する。
そして、換算で重要なのは、換算する日時、時点である。換算するタイミングには、取引が成立した時(契約時)、決算時、決済時がある。これらの時点が同時に起これば問題ないのであるが、交易においては、一般に、時間的なズレが生じる。

石油は、中東から原油を運んでそれを精製したうえで販売ルートに乗せる。中東から日本まで約20日くらいかかり、更に、義務付けられている備蓄70日を加えて、その上に、精製に二週間程度かかり、それに生産計画の策定などを考えると販売計画から出荷まで三か月程度かかると言われている。
即ち、契約時、決算時、決済時に大きな時間的な差が生じやすい事を意味する。

その間に価格の乱高下や為替の変動があるとその分、キャッシュフローに反映する。利益は、在庫の評価基準や売上基準、減価償却費などを使えば、ある程度調整する事はできるが、キャッシュフローはそういう訳にはいかない。
そして、価格の乱高下を引き起こす要因は、経済的事由、石油の需給関係だけとは限らず、むしろ、大きな変動を引き起こす要因は、政治的理由や戦争などが引き金になる場合が多々ある。

また、石油先物市場は、市場としての規模が小さいために、投機筋が介入しやすいという性格もある。

この様な為替リスクを石油業界は、常時負担している。この為替リスクを軽減する目的からヘッジ会計が派生し、金融派生商品が発達したと言われている。

期間損益と現金の動きに乖離が生じると確実に企業の体力を奪っていくことになる。
営業キャッシュフローを悪化させる要因の一つに原油価格の動向を先取りした乱売合戦がある。
装置産業で製品格差がつけられない石油産業は、一度安売り合戦が始まると収拾がつかなくなる。

この様な産業では何を競わせ、何を守らせるのかが重要となる。それが明確でないと販売量を確保しようとして際限のない安売り競争になるか、逆に既得権益を守ろうとして闇カルテルを結ばざるを得なくなる。いずれにしても市場経済を破綻させる原因となる。

石油業界のキャッシュフローは、悪化の一途をたどっている。その結果、現預金は、長期的に減少傾向にある。
また、流動性も低下し続けている。

石油危機や為替の変動と言った一企業の力では対応できない事が石油業界には多い。
だからと言って政治的な活動ばかりに精力を注ぐわけにもいかない。
行政がやるべき事と、企業が担うべきところを明確にし、役割分担をすることが肝要なのである。
行政が教条主義的になると状況への適合性を欠くことになる。

規制を緩和すべきかどうかが問題なのではなく。個々の規制が状況に適合しているかどうかが問題なのである。


石油業界の営業キャッシュフロー



第二次オイルショックの際、営業CFは激しく悪化している。つまり、価格は上昇しているのに、現金収入は、減少しているのである。

プラザ合意に基づく円高は、石油会社の営業キャッシュフロー改善したが長くは続かなかった。
営業キャシュフローを構成する要素は、税引き前利益、運転資本、減価償却費、支払金利、租税公課である。
運転資本を構成するのは、在庫、売上債権、仕入債務である。

このうち、石油業界は、運転資本と支払金利は外部要因である。即ち、自分の力では対処できない要因であり、更に、租税公課も結果的に外部要因にならざるを得なくなる。それは付加価値率の低さにも現れている。

中でも運転資本は、石油危機時に決定的な働きをしており、それが要因となって不当とも思えるような利息を支払わされている。
この点を考慮しないと石油元売り会社の経営実態は見えてこない。

1975年からのデータに基づくため、1973年に起きた第一次石油危機の時の動きは、見えてこないが1979年に起きた第二次石油危機の時の異常な在庫の伸びは、見て取れる。そして、それに連動するように売上債権と買掛債務(仕入債務)の伸びも顕著であり、それから一年遅れて支払利息の負担が1980年、81年、83年と掛かっているのがわかる。
これらの負荷は、内部留保、即ち、純資産(資本)を棄損させている。

また、現実の資金事情と異なる基準によって支払利息や課税所得が設定され、現実には、営業キャッシュフローがマイナスなのに多額の税金が徴収されている場合すら見受けられる。

 

営業キャッシュフロー上、棚卸、売上債権、買掛債務等は、損益に計上されない。また、借入金の増減も損益上は計上されない。この事は、石油危機や為替の変動において利益に重要な影響を及ぼす科目が損益上、計上されていない。その為には、表面的には、支払利息と現償却費だけが利益に影響を与えているかのように見える。

運転資本は、短期資金によって対応するのが一般である。
第二次オイルショックの際、営業利益は、大きく出ていたのに、実体は、営業キャッシュフローの大幅なマイナスである。
そして、その赤字の原因は、棚卸と売上債権、支払利息である。棚卸資産の増加に伴う資金負担は、損益上表に現れないため、損益計算では、営業利益が計上されたと考えられる。
第二次オイルショック時の営業CFの悪化によって、運転資本も悪化し、それを短期借入金によって補ったことが見て取れる。
そして、短期借入金によって対応した事で支払利息の負担が80年、81年と過大になったと思われる。
1981年時の決算で営業利益が黒字なのに、経常利益が赤字になった要因がそこにあると思われる。



法人企業統計 財務省   単位10億円


営業利益、経常利益と営業キャッシュフローとを比較してみるとと利益とキャッシュフローのかい離が激しい事がわかる。
見かけ上の利益は上げているが、営業キャッシュフローは改善されていない。この様な傾向が業界再編の背景にあると思われる。

この点が石油業界の難しさでもある。見かけ上は利益を上げているように見えても内実は火の車だったり、業績が悪化しているように見えても資金的には潤沢だったりする。
いずれにしても経営者にとってはやりにくい業界である事は間違いない。



営業利益と営業キャッシュフローは、運転資本と減価償却費の分だけ捻じれる。
この捩れが利益と資金収支の関係を難しくし、黒字倒産の原因ともなる。

運転資本は、在庫と与信、受信によって構成されている。

運転資本で一番大きな動きをしているのは、在庫投資である。



与信超、受信超は、在庫の動きに連動しているというより振り回されているようにすら見える。
与信は売上債権、受信は、仕入債務を言うが、いずれも仕入れや売上も在庫に連動しているのは明白である。
注意しなければならないのは、受与信の変動は、主として価格的要因によるものであって数量的要因によるものではないとい点と、売上債権は、売上に相関し、在庫と仕入債務は、原価に相関していると言う点である。


法人企業統計


運転資本は、売上債権と在庫を足したものから仕入債務を引いたものであり、一般に短期借入金によって対応している。
それは、第二次石油ショック時に端的に石油業界に表れている。そして、それが後々、金利負担となって石油業界の資金繰りを圧迫するのである。

支払利息は、短期借入金に対応しており、短期借入金は、在庫と減価に対応している。在庫のサイトが長くなれば、分子に比して実質的な分母の割合が小さくなるから、見かけ上の利率は上昇すると思われる。


法人企業統計

石油業界は、付加価値に比してこの運転資本が大きいのである。それは資産や負債からくる負担が大きい事も意味する。資産からくる負担は、減価償却費であり、負債からくる負担は、金利と元本の返済である。特に、減価償却費と元本の返済資金は、固定費と潜在的支出として収益と資金両面に対し恒常的な負担となる。
付加価値に占める運転資本の働きを考えると運転資金というのは、企業経営の中枢を担っているのがよくわかる。




全産業の付加価値率と比べてみて石油業界がいかに付加価値率が低いかがわかる。また、低いだけでなく、変動が激しく、しかも、2000年以降は、更に、全産業が上昇傾向にあるのに、石油業界は、低下傾向にある。

運転資本の流れを回転期間、見てみる。
まず、運転資本の構成の推移をグラフにしてみる。



売上と仕入れの回転期間の差を見てみる。
売上債権の回転日数は、売上債権(受取手形+割引手形残高+売掛金)÷売上×365
在庫債権の回転日数は、棚卸債権÷売上原価×365
仕入債務の回転日数は、仕入債務(支払手形+買掛金)÷売上原価×365

  
法人企業統計

運転資金を常に在庫が圧迫し、資金不足が常態化しているのがわかる。
皮肉な事にリーマンショックの時に運転資本が圧縮され、営業キャッシュフローも改善している。
石油業界が資金繰りに苦慮しているのが読み取れる。


注目すべきなのは、石油ショック当時、長かった「運転資金要調達期間」、即ち、CCCがプラザ合意後徐々に圧縮されてきた点である。




  


石油業界の財務キャッシュフロー


財務キャッシュフローを見ると第二次石油危機が資金的にも大きな影響を石油業界に与えた事が読み取れる。
実際、第二次石油危機後の財務の動きが小幅に感じるほど、第二次石油危機が激震であったことがわかる。



財務キャッシュフローを分析する際、資金をどこから調達し、何に運用したかがカギとなる。
なぜならば、資金の調達源は、外部とは限らないからである。

日本の企業は、2000年から外部資金ではなく、内部資金に求めるようになった。
つまり、日本の企業は、資金余剰主体となったのである。
石油業界もバブル崩壊後は、内部資金に頼るような傾向が読み取れる。


法人企業統計 財務省


石油ショック時に石油業界は、短期借入金に依存していたことがわかる。そして、また、石油ショックがいかに異常で、一般に考えられている以上に、石油業界に負荷がかかっていた事が窺える。石油ショックは、我が国にとって未曽有の危機であったが、石油業界にとっても存亡の危機であり、その痛手は今日まで尾を引いていると思われる。

  


第二次石油危機の時に流動負債が異常に上昇した後、その後、急速に流動負債を減らし、80年代に入って一旦踊り場を形成したがプラザ合意後、さらに下落し、1991年には、長期借入金と短期借入金の残高が入れ替わった。

第二次石油危機の際に急騰した金融機関から短期借入金は、段階的に減少すると同時に、プラザ合意後急速に減少した。プラザ合意後、バブルが崩壊するまでの間、短期借入金を長期借入金へ借り換えた傾向が読み取れる。バブル崩壊後も借入金相対は減少せずに、借入金の減少傾向が顕著になるのは、1996年の特石法が廃止された後からである。リーマンショック時に長期借入金が増加するが以後は、借入金は減少傾向にある。

石油危機後の負債の増加は、石油危機後にも影響を与えている。石油危機後の石油業界の体質や構造を変えてしまうほどと考えてもいい。
支払利息が第二次石油危機から二年後の1981年に異常な暴騰を見せた後、暴落している。このような大きな変化は、負債構造を歪めてしまった。

  
法人企業統計

固定負債の残高は、比較的緩やかに変動しているのに対して、短期借入金は、石油危機時に激しく揺れ動いている。
それが総負債全体に対する比率を見ると逆に固定負債の動きが激しく見えるのである。

2000年以降、資金の調達は、外部調達から、内部調達へと移行した。その原資の多くは、減価償却費に負っていることが読み取れる。
石油業界は、付加価値比率が低い事からもわかるように、巨額の設備投資の上に成り立っている。故に、固定資産会計の重要性なのである。減価償却をどの様に処理するかは、在庫をどう処理するかと同じくらい、経営の成否を分ける事だともいえる。
また、為替の処理をどうするかも相まって会計処理がいかに重要かも石油産業の特徴である。

 

第二次オイルショックで運転資本が著しく不足し、それを借入金によってしのいだと思われる。
運転資本は、営業キャッシュフローである。財務キャッシュフローには属していない。
しかし、運転資本は、財務キャッシュフローと深いかかわりがある。
運転資本が不足した時、短期借入金に頼るか、長期借入金に頼るかは、資金計画の根幹にかかわる問題だからである。



79年のオイルショック時は、短期資金に頼った資金繰りをしていたことがうかがえる。
オイルショック時に増大したのは、在庫であるから短期借入金は運転資金に対するものであった事が窺われる。



第一次石油危機後、大幅な増資をしているのが見て取れる。それ以後、1985年のプラザ合意まで目立った増資や社債による資金調達はされていない。第二次石油危機後からプラザ合意までの間は、短期資金に頼っていたのがよくわかる。プラザ合意後、円高になるにしたがって増資や社債、そして、長期借入金等、長期資金による資金調達が目立ってくる。


法人企業統計 財務省

支払利息と相関関係


第二次石油ショックにおいては、支払利息の負担がかなり大きかった。その為に、1981年には、営業利益は、大きく黒字なのに、経常利益は赤字になっている。

2017年現在ではゼロ金利、マイナス金利だから助かっているが、金利の上昇局面では、また、大きな負荷がかかることが予想される。
支払利息に対して何が一番影響を与えているかを明らかにしておく必要がある。
気になる点は、金利の上昇局面で比較的高めの利率になる事である。それは、リーマンショック直前のミニバブルと言われた時にも認められる。

支払利息も第二次石油危機から2年後の81年に異常な高騰を見せた後、暴落している。その後、87年に底をつき再度上昇してはいるが、89年末、株価が3万8915円で天井をついた翌年をピークに減少している。

支払利息には、手形割引による支払利息割引料が含まれている事を留意する必要がある。2015年現在、手形割引料は、手形売却損で処理されている。



支払利息は、何と相関関係が強いのかを見てみる。
相関関係は、時代によって変化している。その変化の要因が石油業界の鍵を握っている。

支払利息に一番影響力を持つのは、当然、金利の動向である。1994年に金利が自由化されるまで、もっぱら公定歩合によって金利は、調節されてきた。ゼロ金利、マイナス金利が定着した2017年現在では、金利が果たす役割と言うのはかなり限定的なものになってしまった。しかし、ゼロ金利から脱し、金利の上昇局面に入ったら金利の影響がどのように発揮されるか予断できないから十分に注意する必要がある。
金利を見る場合、支払利息に対してその分母になる部分が何かが決定的な意味を持つ。

まず、支払利息と為替、原油価格、物価の関係を見てみよう。1975年から2006年まで通期で見てみると、支払利息との相関関係は、中程度に見える。

1975~2006
支払利息 原油価格CIF ドル・円  石油製品物価指数
支払利息 1
原価格CIF 0.67 1
ドル・円  0.72 0.52 1
石油製品物価指数 0.60 0.80 0.21 1

しかし、それを1975~1985年、1985年~1995年、1995年~2013年に分けてみてみる。
第一次オイルショック、第二次オイルショックがあった1975年から1985年までは、支払金利に対して原油価格や製品価格が強い相関関係があり、ドル・円相場は逆相関関係にあった事がわかる。

1975年~1985年
支払利息 原油価格CIF ドル・円  石油製品物価指数
支払利息 1
原油価格CIF 0.85 1
ドル・円  -0.40 -0.42 1
石油製品物価指数 0.73 0.96 -0.42 1

1985年のプラザ合意、円高不況、バブル形成、バブル崩壊という過程で徐々に薄れ、石油製品との相関関係は、2000年代に入ると逆相関関係にまで変質している。また、原油価格も90年代までは、ある程度の相関関係を守っていたものの2000年代に入る逆添え間関係の様相を示すようになる。
それに対してドル・円相場は、プラザ合意から1996年までは、強い相関関係を示すようになったが、2000年代に入ると一転して逆相関関係を示すようになる。

1985年~1996年
支払利息 原油価格CIF ドル・円  石油製品物価指数
支払利息 1
原油価格CIF 0.65 1
ドル・円  0.75 0.58 1
石油製品物価指数 0.39 0.05 0.27 1

1997年から2000年の間に市場の性格を変えてしまうような変動を起きていたことを示している。
1997年は、バブル崩壊後、大きく金融市場や資産市場が変質し、企業が資金を外部調達から内部調達へと切り替えていった時代である。
原油市場も徐々に売り手市場から買い手市場へと変化していった。それを決定的としたのがシェール革命である。市場の変化に伴って為替の動向も原油が高騰するとドル高・円安という図式が崩れ、逆に石油が高騰している時にドル安という局面を迎えたりもした。それまでの原則や方程式が通用しなくなったのである。それが今日まで尾を引いている。

1996年~2006年
支払利息 原油価格CIF ドル・円  石油製品物価指数
支払利息 1
原油価格CIF -0.36 1
ドル・円  -0.28 -0.04 1
石油製品物価指数 -0.03 0.92 -0.17 1

支払利息と原材料、貯蔵品、買掛金、短期借入金、長期借入金、減価償却費、棚卸資産との相関関係を調べてみると1975年から2013年までの通期で見てみると原材料、貯蔵品と短期借入金には強い相関関係、棚卸にも中程度の相関関係が認められるが他の科目との相関関係は認められない。それが1975年~85年に絞ってみると減価償却費を除くすべての科目に強い、あるいは中程度の相関関係が認められる。

1975年~2013年
支払利息等 原材料・貯蔵品 買掛金 金融機関短期借入金 金融機関長期借入金 減価償却費計 棚卸資産
支払利息等 1
原材料・貯蔵品 0.73 1
買掛金 0.28 0.82 1
金融機関短期借入金 0.97 0.71 0.27 1
金融機関長期借入金 0.3 -0.12 -0.29 0.3 1
減価償却費計 -0.1 -0.31 -0.27 -0.06 0.73 1
棚卸資産 0.69 0.99 0.85 0.68 -0.13 -0.28 1

いずれにしても短期借入金、原材料・貯蔵品、棚卸資産の順で決定的な影響を与えていることは間違いない。資産や借入金と言ったストック部分の絶対量が大きい事が、レパレッジを利かせている事が考えられる。

1975年~1985年
支払利息等 原材料・貯蔵品 買掛金 金融機関短期借入金 金融機関長期借入金 減価償却費計 棚卸資産
支払利息等 1
原材料・貯蔵品 0.89 1
買掛金 0.76 0.92 1
金融機関短期借入金 0.9 0.93 0.91 1
金融機関長期借入金 0.64 0.4 0.21 0.36 1
減価償却費計 0.29 0.26 0.25 0.22 0.35 1
棚卸資産 0.89 0.98 0.95 0.97 0.33 0.29 1


更に、1975年~1985年までの四半期のデータを見てみると短期借入金、原材料、棚卸資産、流動資産とは強い、受け取り手形、売掛金とは、やや強い相関関係が認められる。

1975~1985
支払利息等 受取手形・
売掛金
原材料・
貯蔵品
金融機関
短期借入金
金融機関
長期借入金
減価償却費
合計
棚卸資産計 流動資産計
支払利息等 1
受取手形・売掛金 0.76 1
原材料・貯蔵品 0.96 0.86 1
金融機関
短期借入金
0.90 0.92 0.96 1
金融機関
長期借入金
0.58 0.44 0.57 0.54 1
減価償却費合計 0.39 0.54 0.46 0.49 0.41 1
棚卸資産計 0.92 0.88 0.99 0.98 0.56 0.48 1
流動資産計 0.86 0.95 0.95 0.99 0.55 0.52 0.98 1

2003年~2013年までを四半期で見てみると支払利息と売上、売上原価、営業利益、有形固定資産との間では相関関係はあまり認められないが、1975年~1985年で見てみるとある程度の相関関係が認められる。

2003年から2013年
支払利息等 売上高 売上原価 営業利益 有形固定資産
支払利息等 1
売上高 0.46 1
売上原価 0.44 0.99 1
営業利益 0.17 0.26 0.15 1
有形固定資産 0.19 0.12 0.13 -0.05 1

石油危機当時は、支払利息は売上原価、即ち、原油価格の動向と相関関係があったと認められる。

1975年~1985年
支払利息等 売上高 売上原価 営業利益 有形固定資産
支払利息等 1
売上高 0.74 1
売上原価 0.74 1 1
営業利益 0.5 0.53 0.46 1
有形固定資産 -0.12 -0.19 -0.19 -0.13 1


なによりも石油業界の原価率は異常に高い。低い時でも85%を越えている。しかも、変動幅が大きく激しく変動している。
原価率が高いという事がいろいろな問題を引き起こしていると考えられる。原価は、一般に変動費としてみなされる。即ち、原価率が高いというのは、変動費が大きい事を意味しているが、備蓄を義務付けられている石油業界では、原価の変動の影響下にある在庫の評価が直接的に利益に反映する。しかも、原価は、原油価格と為替の動向に直接的な影響を受ける。原油価格も為替も外部要因である。その為に、石油業界の場合、外部環境の変化に敏感に反応する事にもなる。




石油業界の投資キャッシュフロー


投資キャッシュフローをみると投資にも大きな波がある事が見て取れる。
石油危機の際は、投資はむしろ低調であり、プラザ合意後の伸びの方が象徴的である。


法人企業統計 財務省

実物投資は、設備投資と在庫投資の和である。投資キャッシュフローと比べてみると石油・石炭業界がいかに、在庫投資の占める割合が大きいかがわかる。



設備投資と投資キャッシュフローはリンクして動いているように見える。
投資キャッシュフローと設備投資を大枠において一致した動きを見せている。
バブル形成期における投資が大きかったことがわかる。設備投資のピークは、バブル崩壊後である。



昭和シェル石油が先物為替予約で1600億円の損失を出した1993年には、石油、石炭業界全体で3000億円の特別損失を出し、それに対して1600億円の特別利益を出している。
また、注意すべきなのは、1999年に1,572億円の特別損失を出している点である。



オイルショック時において資金調達を外部に依存していたことがわかる。
オイルショック時に急増しているのが短期借入金である。つまり、資金調達を短期で忙しく回したことになる。そのつけが翌年に回って経常収支は赤字となる。投資にかかる資金は、内部資金に頼っているようにも見える。


法人企業統計 財務省


現預金は、81年をピークに減少傾向にある。手持ち流動性に縮小に結びついていると思われる。
リーマンショックの時、急激に現預金を積み上げている。この背景が気になるところである。

 
法人企業統計

2013年には、先にも述べたように現預金は、1981年のピーク時から見ると大幅に減らしている。石油業界のキャッシュフローの悪化を象徴していると思われる。


表に現れてこない長期資金の働き


借入金の返済、設備投資に対する資金需給、つまり、貸借の動きは損益上には現れてこない。しかし、長期資金の動きとしては、資金繰りに重大な働きをしている。
長期資金の需給に対して減価償却費がどのように対応しているかは、資金の状態を推し量る上で重要な意味がある。




過剰設備



今の経済は、三つの過剰が問題だと言われている。
即ち、過剰設備、過剰負債、過剰雇用だと言われている。
これらの事は、全て、投資に係る事である。つまり、過剰と言うのは過剰投資を指して言っている。

石油業界も過剰設備が問題となりいわば強制的に設備の削減を強いられた面がある。
しかし、過剰、過剰と言うが何がどう過剰で、そのためにどの様な弊害が生じているのか明らかにしていなければ、本当に不必要な設備なのか、それとも削減してはならない設備なのかの見極めがつかない。闇雲に削減してしまったら取り返しのつかない事態になってしまう事さえある。
先ず、設備過剰な事によってどんな弊害が生じているのかを明らかにする必要がある。
過剰設備で真っ先に言われるのが競争力がなくなるという事である。しかし、競争力がなくなっているとは言うが、競争とは何か、競争相手は何か、なぜ、競争力をつける必要があるのか、明確にしないで、ただ規制を緩和すればいいと感情的になっているようにさえ見える。
また、設備を削減する事がどのような費用対効果をもたらすのか。その点も明らかにする必要がある。

その為にも、まず、何が過剰で、何が拙いのかを明らかにするためには、なぜ過剰とは何を意味するのかを定義する必要がある。
過剰と言うからは、その設備を削減したその影響が収益にどの様な影響を与えるのか、生産、供給力にどのような影響が出るのか、市場に対してどのような影響が出るのかを検証する必要がある。
それが即ち、過剰投資の定義につながる。

過剰であるかないかの基準は適正価格である。
では何が適正化という事であり、それは、安ければいいという単純な事ではない。
価格が適正であるかないかは、価格が果たしている社会的な役割、意義などが重要な要素となる。

まず収益、即ち、会計上に現れるのは、有形資産の増減、、長期借入金の増減、減価償却費の増減、人件費の増減、改修費の増減、特別損益、投資キャッシュフローとして現れる。
生産、即ち、物理的影響としては、原油処理能力の増減、稼働率・操業度の増減、人員数の増減、設備、施設の増減、石油の埋蔵量、原油の輸入量、備蓄能力などに現れる。
市場、需要と言う面では、人口の増減、消費の増減、価格(消費者物価等)への影響等を検討する必要がある。

資金需給 2000~2014年 四半期

法人企業統計

金融機関長期借入金と固定資産、除投資その他の資産との動きは対称的である。ただ、設備を削減した効果として借入金が極端に減ったという兆候を2000年から2014年の間では見て取れない。
石油は安定供給が至上命令であり、それは今も基本的には変わりはない。石油危機の教訓もあり、非常時、緊急時に備えておく必要もある。
原油を備蓄しておけばいいという訳にもいかない。
高度化法が施行される以前に固定資産の多くが削減されている事がわかる。

原油処理能力と長期借入金との間には緩やかな相関関係があるように見える。



法人企業統計



なぜ、設備は過剰になりやすいのか。それは、投資全般に言える事だが、投資は、先行と言う性格を持っている。つまり、どんな投資も本来先行投資であり、事前に予測や予定を立てても予測や予定通りに実現するという保証はどこにもないという事である。むしろ、予測や予定通りにならない事の方が多い。その為に、計画と実体とが乖離する。予定した通りの性能が出なかったり、売上が上がらないのが一般であり、逆に、計画以上の実績が上がった場合も過剰投資を呼びやすいという事である。

投資には、初期投資と運転投資がある。仮に設備の廃棄をした場合、運転費用は、削減できても初期投資は回収できない。また、それは、損益上計上できない部分も含まれるのである。しかも、それは表面に現れない。表面的には利益が上がっているように見える時さえある。しかし、資金繰り上深刻な事態が進行していて黒字倒産などという事を引き起こすのである。資金の流れと損益は一致していないという事を忘れてはならない。

石油プラントの様な大型の投資は、初期投資(イニシャル)は、その産業の固定費を長期によって制約する。また、ランニングコストも馬鹿にならない。故に、投資対効果を測る場合、初期投資にどれくらい投じられたか、また、運転資金(ランニングコスト)にどれくらいかかっているかを明らかにする必要がある。運転費用には、法によって定められた点検や設備更新も含まれる。
投資計画が前提となるから、投資した資金がどの程度回収されているかを知らなければ、最終損益を明らかにできない。最終損益に基づいて設備の改廃を決める為には、初期投資の際に立てられた資金計画が重要な意味を持つ。当初の計画に照らして設備の削減効果を測る必要がある。

初期投資がどれくらいかかっているのか、その償却がどの程度進んでいるのか。また、設備を廃棄するためには、どれくらいの費用が掛かるのか、設備を廃棄した後の空き地の利用をどするのかと言った多くの問題があり、民間企業はそれを自己責任で解決しなければならなくなるのである。一つ間違えば経営責任を問われかねない。

減価償却費は、設備の修繕、改修、更新といった再投資のための予備費と言う性格を持っている。しかし、資金的な発想はなかったと考えられる。そのために、減価償却費と資金計画、利益、更に税との整合性が取れなくなる場合が生じる。この点が見落とされている場合が多い。特に、過剰設備を廃棄する時には、これらの点を慎重に検討しないと資金的に行き詰る危険性がある。

設備投資の中には、タンカーなども含めなければならない。

単純に設備が余っているから削減しろと言うのは乱暴な話である。資産としての設備は処理できても設備は投資である。資産は償却できても借金は残る。しかも、この借金の処理が難しいのである。借金の元本の返済部分は、損益上に表れてこない。負債の増減として現れるが、対極の資産の増減がない。つまり、財源にが明らかにされないのである。財源は、基本的に利益処分の範囲内でされなければならないが、借入金の返済に対応する科目がないのである。特別損益で処理しようにもそれに見合う収益が見込めなければならない。

  
法人企業統計

何が余剰で何が不足しているかは、国策の根源にある。その点を明らかにしないで過剰だ、不足だというのは国を誤る原因となる。
何に投資するかは、企業や国家の将来を定める大事なのである。

石油に対する需要が減少したからと言ってまだまだ、当分の間、エネルギーの中核を石油が握る事は容易に想像がつく。

設備が過剰であるかないかの物的基準は設備の稼働率から測られる。
設備の稼働率は、市場規模、市場の成熟度、商品のライフサイクル、産業の発展過程、その時点での供給力、設備の状態、設備の性能によって導き出される。市場規模は、消費人口などから導き出される。
問題は、市場規模をどの様に見積もり、商品のライフサイクルや産業の発展段階をどの様に想定するかである。その見積もりが初期投資を決定する。

石油業界は、経済成長、市場の拡大に先立って設備投資を行った事が窺われる。

経済成長と原油処理能力の推移についてみてみる。

 


原油処理能力は、高度成長時代60年代にGDPに先立って1975年頂点を迎え1982年まで維持された。それに対して稼働率は、1969年に頂点に達し、1970年のニクソンショックを境に減少に転じる。

ニクソンショックより以前に市場は飽和状態に入りつつあったと思われる。我々は、表に現れた事件に目を奪われがちだが、大きな変動は、それを引き起こす状況や環境が表面の裏側で形成されているのが通例である。ニクソンショックが引き金を引いた形で稼働率が減少をはじめ、オイルショックが後押しをしたと考えられる。

原油処理能力は、ニクソンショック、オイルショックの後も拡大を続け、その結果、稼働率は低下し続けたものと考える。それが設備の過剰感を生み、設備の整理が始まった1982年頃に底を打ったと考えられる。




設備の原油処理能力や稼働率から見ると2005年以降原油処理能力は維持されているのに、稼働率は低下している。
生産面から設備の過剰性を測る基準としては、設備の稼働率は、要となる尺度である。


経済産業省「資源・エネルギー統計年報」 
石油連盟


石油の処理能力がピークに達した時は、稼働率も低下、低いレベルにある事が読み取れる。
稼働率は、2007年「エネルギー構造高度化法」が制定されたころから2013年ぐらいまで低下傾向にある。

市場面から見るとこれからの石油需要予測はどうなっているのか。海外市場に進出する可能性はあるのか。温暖化、環境保護などから脱炭素、脱化石といった問題は将来どのような方向に向かうのか。省エネや電化はどうなるのか、人口の減少はどう影響するのかと言った問題を解決する必要がある。
また、用途別の需要予測も必要となる。

今後、人口の減少や環境問題、省エネ技術の進歩等を考えると需給バランスは、供給過多になる可能性が高い。

石油の様な経済のインフラストラクチャー関わる設備は、単に、経済的合理性だけでは推し量れない部分がある。国家備蓄の例を引くまでもなく。長期にわたるエネルギー戦略や構想に基づいて官民が共同で取り組まなければならない事業なのである。

石油ショック後、過剰設備は規制と絡まって精販ギャップを生じさせ、それが業転取引と言う石油業界特有の取引を生み出す。この業転取引が、無印や安売り業者を生み出し、後々、石油元売りを苦しめる事になる。

過剰設備の削減、過剰雇用の解消は、流通分野まで及んだ。規制をなくすことで、スタンドの数を削減したのである。ガソリンスタンド数は1994年度60421件をピークに減少しはじめ2016年現在、31467件まで至った。
本来、適正価格は、需給関係だけで決まるわけではない。適正価格の基礎となるのは、費用対効果と需給バランスにある。
価格は、費用が基礎になければならない。費用は、支出の本源であり、分配の手段でもある。適正な費用が維持されなければ、支出も分配も公正さを保てない。そして、支出は所得であり、分配は、消費の本でもある。

サービススタンドが、地域の雇用を創出してきたという事実を無視したら、経済の働きは理解できない。
また、スタンドがない地域すら生じ始めている。平成29年3月末時点でSS過疎地市町村数は302市町村に達しいている。

装置産業であり、商品格差の少ない石油製品は、安売り合戦に陥り易く、一度安売り合戦が始まると歯止めがなくなり、収拾つかなくなる傾向がある。投資と売上の関係から損益分岐点を越えると利益が確保されるから、どうしても一定の数量を確保しようとする動機が働く。それが、薄利多売傾向となり、過剰設備の要因の一つともなるのである。

過剰であるかないかの基準は、適正な価格であるかないかが、鍵を握っている。
では適正な価格とは何か。高度成長が成熟するに従って市場は、量から質への転換が計られなければならなかった。ところがいつの間にか、それが廉価と言う思想に取って代わられた。価格破壊、安売りは正義みたいにいつの間にか倫理観のようなものにまで経済的合理性がすり替わってしまった。これは、最近では、規制緩和、競争は善で、規制や話し合いは悪だという思想にも合い通じる。

一昔前までは、独占禁止法に触れる事は、最大の御法度で、石油に携わる者は、ピリピリとしていた。それがいつの間にか独占禁止法なんてどこ吹く風、規制緩和、規制緩和と囃し立てて過当競争、安売り合戦を煽り、独占、寡占状態を実現させてしまった。何が競争は原理だというのだろうか。競争は原理だ、競争は原理だと言っていたものが寡占独占状態を作り出したのである。これは石油業界だけに限らない。

商品格差が少ない石油業界に無原則な競争を仕掛けさせれば、寡占独占状態に陥るのは自然の成り行きである。石油業界が健全さを保つためには、適正な価格を維持できる環境を整える事なのである。
将来、人口が減少し、また市場の成熟に従って需要が減少する事が予測され、また、環境保護、資源保護の観点からも省エネ、消費の抑制を計らなければならないのならば、数量より、利益率を重視した経営に舵とれるようにする事が肝心なのである。それを薄利多売を善だとする思想を強引に押し付けようとするれば、業界が成り立たなくなってしまうのである。

2016年の電力の自由化を皮切りにエネルギーの自由化が始まった。これまで地域独占だった都市ガスや電力の境を取り除き、実質、自由な取引を実現しようという試みである。
問題なのは、エネルギーを自由化する事で何を期待し、どの様なエネルギー市場を構築しようとしているのか、その着地点が見えてこない事である。
規制緩和、自由化の錦の御旗の下にとにかく規制を取り外してしまえば、自由な市場が実現するのではといった安易な考え方に基づいているようにしか見えない。要するに、最終的構想、展望がないのである。構想や展望、明確な論理がないままに市場を無原則に開放したら、あるのは、混沌だけである。無政府主義的発想である。市場は、自然になるものでなく人工的に作り出される場である事を忘れてはならない。

経済は、光の当たる面もあれば、影の面もある。光が当たる面ばかりを強調するのもおかしいが、逆に影ばかりを問題にするのも間違いである。
石油業界は、なにかと負の面ばかりが強調されるきらいがある。環境問題にせよ、雇用問題にせよ、プラスに作用した面も沢山ある。
石油がなければ、燃料用として森林が伐採され日本の山は丸坊主にされただろうという話もある。また、地方の雇用の創出にガソリンスタンドが果たしてきた役割を無視することはできない。
ただ価格だけに経済的合理性を求めるのは間違いである。経済はそれほど単純な問題ではない。
生産、所得、雇用、環境保護、資源、国防などいくつもの問題が複雑に絡み合って経済構造は成り立っているのである。




石油業界のフリーキャッシュフロー


フリーキャッシュフローの動きを見ているとフリーキャッシュフローが収束、と言うより、枯渇してきているのが読み取れる。投資の幅が狭まっていると言える。

石油業界のフリーキャッシュフローの特徴は、やはり、第二次オイルショック時に在庫の評価が大きくマイナスしている点である。在庫の評価損は営業利益をも大きく凌いでフリーキャッシュフローをマイナスに押遣っている。
フリーキャッシュフローの増減に在庫が強く影響しているのがわかる。また、租税公課の影響も無視できない。フリーキャッシュフローがマイナスしている時でも租税による資金流出があった事を示している。

 
法人企業統計

総資産の長期的な波は、固定資産が、石油ショック時の様な短期的な波は、棚卸資産によって作られているのがわかる。
固定資産は、基本的に内的な要因に選っって左右され、棚卸は、原油価格や為替といった外的要因に左右される。これが石油元売り会社に大きな影を落としているのである。


法人企業統計

投資と減価償却と長期借入金の関係


第二次石油ショック前に旺盛な設備投資をしていたのがわかる。
また、バブル期においても設備投資を活発化していたがバブル崩壊後急速に設備投資を控えるようになった。



設備投資と長期借入金の傾向は、基本的には一致している。設備投資が増えれば基本的には長期借入金が増えるが、第二次オイルショックの時は、短期借入金で資金を回しているように見える。



1981年に長期借入金を減価償却費と当期純利益で割った値が極端に高くなったのは、1981年の純利益が2150億円マイナスしたからである。
1979年に起こった第二次石油ショックで急騰した反動によると思われる。

 

いずれにしても、借入金の増減は、支払金利に反映される。

簡易な借入金限度額の計算方法として長期金融借入金を減価償却費と純利益で割って、減価償却費と純利益を原資とした場合、返済に何年かかるかの概算をする手段がある。

それによると1981年は、387年かかる事になる。むろん、それは純利益が赤字だった関係もある。
しかし、それが事実だとしても異常な数値である。

  




石油と税金


石油業界にかかる税には、企業に掛る税金と商品に掛る税の二種類がある。
石油業界を検討する場合、企業に掛る税金ばかりを問題とし、商品にかかる税を蔑ろにする。
しかし、実際には、商品にかかる税が石油業界に決定的な働きをしている局面がある事は否定できない。

石油製品は、ある意味で税金の塊である。ガソリン税は、価格の49.1%を占め。軽油税税は、価格の35.5%を占めている。しかも、製品ごとに課税額も違ってくる。連産品なのにである。
税と石油とのからくりを見ないと石油価格の本質は見えてこない。



上の図は、石油価格にかかる税金の構成比を示したものだが、更に、原油輸入時の関税が加わる事となる。

<ガソリン販売価格の内訳>
(ガソリン本体価格+ガソリン税 +石油税+原油関税)×消費税 

まず、なぜ、石油はこれほど高率の税金が掛けられる必要があるのかである。
石油税は、商品に賭けられる税、つまり、物品税の一種である。
物品に税をかけるという思想は、贅沢品とか、非必需品に対して課税するという発想である。
その好例が、酒税であり、たばこ税である。確かに、酒やたばこがなくても生きていける。
確かに、自動車が普及する以前は、自動車は、贅沢品、嗜好品の一種としてみなす事が出来る。
しかし、自動車が交通機関の手段として普及した今日、石油や自動車は、贅沢品であり、非必需品だと言えるであろうか。
石油価格が高止まりし、環境問題、温暖化が問題となっている現在、石油に対する認識を改める必要がある。
それは、石油に対する根本的な考え、構想を再構築する必要があることを示唆している。

石油税は、国税である。そして、間接税であり、目的税、そして、重量税である。
重量税だから価格の乱高下に関係なく一定の収入を確保できたし、逆に、価格が高騰した時、石油会社の収入を圧迫しないでも済んだ。ただ、価格に占める税の比率は、利益に対する負荷をかけ続けたことは疑いがない。考えようによっては、税による足枷があったから省エネにもなったともいえる。

石油が重量税である事で、ガソリン価格や軽油は、常に、下駄をはかされている状態に置かれている。しかもかなりの高下駄だが、消費者は、税を支払わされているという意識は希薄である。



国税庁  法人企業統計

石油税は、道路などに使われる。目的税であるために、石油税は、既得権のように働いてもいる。
石油は当初従価税だったのが、施行翌年には、重量税に改正されている。



石油連盟 平成22年度予算


戦後の石油税の歩みを時系列に並べてみる。(Wikipedia)
1949年(昭和24年)5月、揮発油税復活。当時代用燃料車がガソリン車に比し割高であったのでそれとの均衡及び財源の確保等の見地から復活。従価税。
1951年(昭和26年)1月、従量税に(税率11,000円/キロリットル)
道路特定財源となって以降1954年(昭和29年)4月、道路特定財源となる。税率13,000円/キロリットルに引き上げ
この間幾度かの税率引き上げあり1955年(昭和30年)8月、ガソリンに揮発油税のほかに、地方道路税が課せられるようになった。
1964年(昭和39年)4月、24,300円/キロリットルに引き上げ
この間、他の道路関係税創設、自然増収等により大きな制度改定なし1974年(昭和49年)4月、第7次道路整備五箇年計画の財源確保のため「暫定的」に29,200円/キロリットルに引き上げ
1976年(昭和51年)7月、36,500円/キロリットルに引き上げ
1979年(昭和54年)6月、45,600円/キロリットルに引き上げ
1984年(昭和59年)12月、代替ガソリンにもガソリン税が課税開始(租税特別措置法改正)
1993年(平成5年)12月、48,600円/キロリットルに引き上げ(2007年(平成19年)度末までの暫定措置)
2008年(平成20年) 4月、24,300円/キロリットルに引き下げ(暫定税率の期限切れ)
5月、48,600円/キロリットルに引き上げ(暫定税率を復活)




石油連盟

●OECD諸国のガソリン価格及び課税状況(2003年7月~9月)

出典:IEA「エネルギー価格と税」
日本のデータについては、(財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センターより
税部分=個別物品税+付加価値税(我が国は、揮発油税・地方道路税+消費税。
なお、石油石炭税、関税を含めた場合の税負担額は61.2円となる。)
当時の為替レート(118.7円/ドル等)を使用

●OECD諸国の軽油価格及び課税状況(2003年7月~9月)


出典:IEA「エネルギー価格と税」
日本のデータについては、(財)日本エネルギー経済研究所 石油情報センターより
税部分=個別物品税+付加価値税(我が国は、揮発油税・地方道路税+消費税。
なお、石油石炭税、関税を含めた場合の税負担額は61.2円となる。)
当時の為替レート(118.7円/ドル等)を使用

なぜ、石油に高額な税がかけられるようになったのか。確かに、当初は、贅沢品だったかもしれない。今は、必需品で、生活に欠く事のできない物である。また、現在では、脱石油、脱炭素など環境や資源保護の観点から省エネ、消費を抑制しようという動機があるが、それは後付けの理屈である。
石油に税がかけられたのは歴史的な要因がある。

1904年、日露戦争の軍事費を賄うため非常特別税法が施行された。地租や所得税、酒税などが増徴されたほか、織物消費税や石油消費税などの新税が創設されました。それが石油税の嚆矢である。

石油税がかけられた背景として第一に挙げられるのは、固体燃料から液体燃料へのエネルギー革命である。
固体燃料、即ち、石炭から液体燃料、即ち、石油への転換は、軍からの強い要請があった。
日露戦争、日本海海戦の折は、軍艦を動かすのに大量の石炭を必要とした。石炭は、場所をとるうえに、重い。その為に、軍艦の活動範囲や性能にもおのずと限界があった。それを解決する手段として石油が脚光を浴びたのである。以来、石油は、主要な軍事目標となった。エネルギー革命が起こってからの戦争は、何らかの形で石油が関わっていると言われる。この事は、現代でも変わらない。大きな戦争の原因の一つとして石油がある。その為に、国策として石炭から石油への転換がはかられた。
固体燃料から液体燃料への転換は、それまで主要な産業だった石炭業界がとっては大きな痛手となる。石炭産業は、石油にとって代わられる事で斜陽化していった。その石炭業界を補償する目的で石油税が課せられたとされる。

規制緩和は言われるが税の見直しは、余り叫ばれない。一度制定された税は、余程の事がない限り基本は、変更されない。石油関連税も然りであり、しかも、石油税は、道路整備などに特定された目的税である。

温暖化や環境問題、資源問題などが課題とされている今日、税の在り方そのものを見直す必要がある。
石油業界には、安定供給、備蓄が義務付けられている。
石油業界にとっても省エネや脱石化、脱炭素にむけて前向きに取り組む必要があり、前向きに取り組める体制を整備すべきなのである。そのためにこそ、石油税は活用されるべきなのである。

税は、特に石油製品にとって価格の半分を占めるような要素であり、しかも、重量税という特徴もある。この税が石油製品に対してどのような影響を与えているか、また、社会や消費者に対してどのような影響を持っているのかを常に、あるいは、定期的に検証し続け目必要がある。石油税は、時代とともにその本質を変えてきたのである。しかし、その変化を製造者も行政も消費者も認識していないという事が一番の問題である。


石油は戦略物資である


石油が戦略物資だというのは、石油が軍事に深く関わっているからである。

国際メジャーの存在、それに対抗する目的で結成された国際カルテルOPEC、第一次オイルショック、第二次オイルショック。中東戦争。オイルショック対策のために安定供給を目的とした規制。そして、自由化に伴う規制緩和、近年では、温暖化問題と石油業界は、政治に振り回され続けてきた。それだけに、その時代その時代の時代背景の影響を正面から受けてきた。

1941年夏、アメリカが対日石油禁輸処置に踏み切った事で日本はアメリカとの開戦を決断したと言われる。ことほど国防と石油は、深いかかわりがある。
現在でも中東産油国の動向は、石油価格に即反映され、我々の生活を直撃している。

石油は戦略物資である。
石油は、政治や軍事戦略上、欠かす事のできない物資である。
人類は、石油を巡って戦争をし、また、石油を利用して政治戦略を成就しようとした。
石油は、太平洋戦争の引き金を中東戦争では武器として使われた。
それが、オイルショックを引き起こし世界を混乱させたのである。

そのために石油価格は、単に市場によって決められるではなく、政治に大きく左右されてきたのである。

エネルギーと食料は、国家戦略の土台を構成する要素である。
石油を国家戦略上、どこに位置付けるか、すべてはそこから始まるのである。
シーレーン防衛というのは、主として石油の海上輸送路の確保を意味している。

石油業界ほど政治に翻弄された産業はない。それは、石油は国際的戦略物資だからである。日本のみでなく、世界中の国が石油の争奪戦に明け暮れてきたと言える。

エネルギーは、国家戦略の重要な要素の一つであることを忘れてはならない。そして、石油は、エネルギー戦略の中枢をこれまで形成してきたのである。石油は、国家の生命線だと言われてきたのである。

固定燃料である石炭を燃料とするディーゼルエンジンに比べ、液体燃料である重油を使う重油エンジンは、軽量で取り扱いしやすく、なおかつ場所をとらない。また、補給もしやすい。同一重量の石油に比べて石炭は、6割程度の発熱量しかない。
この軍事的要請は、固体燃料から液体燃料へのエネルギー転換を促した。そして、海軍は、石炭から石油へと燃料を転換していく。

海軍の艦船のエネルギーが石炭から石油に変わった時から、石油は、軍事戦略に深くかかわってきた。
さらに、戦闘機の出現によって石油の軍事上の重要性がますます増した。石油を制するものが軍事を制するようになってきたのである。
太平洋戦争の折も、日本軍は、真っ先に南方油田の確保に動いたのである。

石油を制した者が戦略上圧倒的に有利な立場に立てるのがハッキリしてきた。
石油がなければ、戦闘機も、軍艦も、戦車もただの箱に過ぎなくなるのである。

そして、戦後のモータリゼーションの発達は、軍事と言うだけでなく、国民生活からも戦略物資とならざるを得なくなったのである。

この様な石油の性格を十分考慮に入れたうえで、石油業界を考える必要がある。
石油会社がかつて民族系か、外資系かと色分けされたのも石油行政が国策と直結していたからである。
石油を単なる経済的合理性だけで判断できない理由は、石油が戦略物資であり、軍事にも、人々の生活にも欠かせない資源だからである。

戦略物資だからこそ、石油は、市場の原理に無条件に任せてはならないのである。単に経済的合理性のみを求めて石油業界を野放図にしていたら国家の存亡にかかわる自体を引き起こしかねないのである。



オイルショック


オイルショックとはいったい何だったのか。

まずそれを知るために、何が異常だったのかを知る必要がある。

石油業界に対して、また、日本経済に対してどの様な影響を与え、その影響によって何が変わったのか、それを検証する事がこれからの石油業界、エネルギー業界にとって避けて通れない道である。

石油業界の歴史は激動の歴史である。
石油価格は、原油価格の変動と為替の変動が複合された表れてくる。

70年代は、1971年8月ニクソンショック。1973年10月、第一次石油危機。1979年6月、第二次石油危機と立て続けにその後の世界を揺るがすような大事件が起こった。
石油業界は、その都度大きな衝撃を受けた。中でも、オイルショックが与えた衝撃は、石油業界の根幹をも揺るがすほど大きなものであった。
それは、営業キャッシュフローに端的に表れている。

当時の石油業界にとって何が異常な数字だったのか。
それは勘定科目のどこにどのように現れているかである。

それを調べるためには、何がどのよう変化したかを知る必要がある。
まず第一に数量的な変化、そして、第二に、為替の変化である。そして、第三に、価格の変化である。

数量的な変化は、輸入量、生産量、出荷量、在庫量、消費量などとして現れる。
為替の変化は、為替相場の変化を見ればわかる。
価格の変化は、原油価格からわかる。

はっきりしている事は、オイルショックは原油価格の急激な変化が根底にあるという事である。この点を見落としてはならない。

オイルショックの時に、異常な数値を示しているのは、在庫、売上債権、仕入れ債務、支払利息に借入金、特に短期借入金である。
また、営業キャッシュフローが異常に不足していて、それに連動して財務キャッシュフローが上昇している。

1973年10月6日に、第四次中東戦争が勃発。石油輸出国機構OPECは、原油価格の大幅な引き上げを断行。この結果、1バーレル当たり2ドル台だった公示価格が、1974年1月から一気に11ドル台にまで達した。これが第一次石油危機である。
さらに1979年には、イランの政変をきっかけに、石油需要が逼迫し原油価格は暴騰した。
1979年6月には販売価格が18ドルに、同年の11月には24ドル、1980年1月に26ドル、4月に28ドル、そして8月にはついに30ドルの大台を超えた。これが第二次石油危機である。

オイルショックは、石油業界の動向をし左右する三つの要因の数量要因、為替要因、価格要因のうちの価格要因によって引き起こされている。

注意しなければならないのは、時間差である。原油価格が上昇しても一斉に価格が上昇するわけではなく。
原油取引が成立し、原油価格が決定されてから、精製所に送られ、それから製品になり、市場に届けられるまで時間がかかるのである。そして、どの時点の価格が市場に反映されるかは、一律に決められない。
その過程を抜きにして経済効果は測れないのである。

だからこそ、数字が、どの段階の会計のどこに計上されるかが重要となる。また、会計基準にあり方も重要となるのである。

石油危機時の石油製品、ガソリンの消費者物価指数と原油価格を比べてみる。消費者物価指数は、2015=100とする。
原油価格のピークは、1980年なのに対してガソリンや石油製品のピークは1982年なのである。
また、原油価格の上昇幅に比べて製品の上昇は低い。また、下げ幅も狭い。



企業法人統計

オイルショックの時、誰が一番得をしたのか。
つまり、誰が一番利を得たのかがカギを握っている。

誰れもオイルショックで一番儲けたのは、石油業界だと思ってもおかしくはない。
それは石油業界の人間にもそう思われても仕方がないような言動があった。
そして、粗利益や営業利益だけを見るとそれを裏付けている。
しかし、経常利益を見るとそうとも言えない事情が見えてくる。

 

確かに、粗利益、営業利益段階を見てみると石油業界は、78年5,354億円だった粗利益が79年1兆482億円と三倍近くまで急増している。営業利益も78年597億円が9,563億円とそれこそ桁違いに上昇しているが、経常利益は、78年、354億円から79年1,931億円と営業利益程の上昇はなく、81年には、-3,585億円まで落ち込んでいる。

この様な違いはどこから生じるのか、そこを明らかにしないとオイルショックの本質は見えてこない。
まず考えてみなければならないのは、営業利益と経常利益の違いである。
営業利益は、粗利益から諸経費を差し引いた値である。
それに対して、経常利益は、営業利益に対して営業外損益を加算した値である。
営業外損益は、金融損益を意味する。
その点を検証する必要がある。



石油業界の借入金利子率がオイルショック時異常に高かったのがわかる。
特に、81年に、14%とまで達しピークを迎えている。

グラフを見比べてわかるのは、粗利益と営業利益の動きには相関性がみられるという事である。
余談ではあるが、81年~85年にかけて粗利益、営業利益ともに段階的な下降し、その下降のピークの85年に昭和石油とシェル石油が合併し、昭和シェル石油が誕生し、翌年に丸善石油と大協石油が合併してコスモ石油が誕生している。


法人企業統計

販管費や人件費は、それほど大きな変化は見られない。
要するに、販管費や人件費は、原油の価格に連動している科目ではないのである。
逆に、これらの経費は、固定費とし、粗利益が激しく変動する石油業界の収益を圧迫していると考えられる。

仮にオイルショックを引き起こした主たる要因が原油価格なら、原油価格に対して何が連動したのかがカギを握っているのである。

原油価格が上昇したのに伴い在庫金額が大幅に増加している。
在庫量は果たして原油価格に連動して変化したか。

キャッシュフロー上、資金の需給上、在庫の増加は、マイナス要因として働く。
棚卸資産が78年から80年にかけて急激に上昇し、これが、営業キャッシュフローのマイナス要因に働いている。

1977年に1兆8千億円、78年に1兆4千億円だった石油・石炭業界の在庫が、79年、3兆円、80年、3兆7千億円と急騰したかと思うと84年には、2兆3千億円、86年には、1兆3千億円と荒っぽい展開になっている。

 
法人企業統計 財務省

それに対して在庫量の増減は、少なくとも78年~79年にかけては見られない。
78年~79年にかけての棚卸金額の増加は、価格要因による部分が大きい事が推測される。

この事が意味するのは、オイルショックの影響は、価格によるところが大だという事である。
物の過不足、需給といった経済の実体ではなく、価格に経済が振り回されたのである。
この事が第二次オイルショック後の石油需要の減退に結び付いているという点を見落としてはならない。

業種別季節調整済指数 付加価値額生産(平成22年=100.0)
1978年から1985年まで

経済産業省

石油製品の在庫指数も在庫率も、78年~79年にかけて下がってはいる。しかし、下落幅にしても下落率にしても、決定的に在庫が不足していると思えるほどではない。むしろ、83年~85年にかけての在庫指数や在庫率よりも高いくらいである。

業種別季節調整済指数 在庫(平成22年=100.0)
1978年から1985年まで

経済産業省

業種別季節調整済指数 在庫率(平成22年=100.0)
1978年から1985年まで

経済産業省

価格要因が、利益とキャッシュフローそして、在庫にどのような影響を与えたかを見ていきたい。
オイルショックによって営業キャッシュフローが大幅に減少している。


法人企業統計 財務省

売上債権の増加は、キャッシュフロー上支出要因で、逆に、仕入れ債務の増加は、収入要因であり、在庫は、支出要因とした。
オイルショック時、営業利益は、計上できたが、それ以上に在庫投資が大きく支払利息に利益のほとんどが食われてしまっている。オイルショック時、石油業界はほとんど儲かっていないのである。
80年から84年にかけて経常利益と与信超は、同じ動きを見せている。
営業純益は、営業利益から支払利息は、引いた値である。支払利息がオイルショック時に、石油会社の経営にいかに大きく影響したかがわかる。

 
法人企業統計 財務省

異様に見えるのは、営業利益と経常利益の乖離である。そして、営業純益に対して経常利益の動きがほぼ一年のずれが生じている事である。
営業利益に影響を与える要件としては、会計基準の変更、売上債権の回転期間と仕入サイトの仕入債務の回転期間のズレ、石油の輸送期間等である。
ただ、営業利益に影響を与えたからと言って経常利益に直接影響を与えるとは限らない。なぜならば、営業利益と経常利益に決定的な違いを生じさせているのは、支払利息だからである。
80年から84年にかけて与受信超の変化と経常利益は相関している。営業純益は、営業利益から支払利息を引いた値であるから、支払利息の影響が経常利益より1年早く反映されたと考えられる。

もう一つ注意しなければならないのは、在庫投資が79年に大きく減少している事である。個の減少した分、資金不足が生じているはずであるから必然的に金利負担が生じてもおかしくない。いずれにしても上辺だけの利益を負っても石油業界の実態は掴めない。

在庫の評価を先入後出し法にしている場合、価格の上昇局面では、営業利益は、上昇する傾向がある。それは、売上が市場の動向を反映するのに対して安い時に仕入れた原材料を原価とするからである。この事は、値下げ局面は逆になる。原油価格は、高騰時ばかりが問題とされるが、下落した時は、石油業界に大きな負担となる。その為に、石油元売り会社は、度々、会計基準を見直し、変更している。しかし、キャッシュフローで見るとこの様な会計上の処理は是正される。

1978年の7-9月から1983年1-3月までの営業キャッシュフローを構成する主要な要素と短期、長期借入金の資金需給関係をグラフにしてみる。
キャッシュフローを従って資金需給を基礎としているから売上債権と在庫が増加すると負の値をとり、減少すると正の値をとる。
在庫と仕入債務の和が増加するとそれに四半期遅れて支払利息が上昇している。在庫と支払債務は資金流出であるから短期借入金によって補填する事になる。しかし、損益上に計上されるのは、支払利息のみである。それが営業利益と経常利益が乖離している原因である。



更に、仕入債務、売上債権、在庫、支払利息に絞ってみてみる。


法人企業統計  単位十億円

オイルショックによって営業キャッシュフローが大幅に減少したのに伴って運転資金も継続的に不足したのが読み取れる。
ただ、現預金の動きを見てみると運転資金の増減が原予期の増減に大きく影響しているようには見えない。



売り上げ債務と、仕入れ債権も急速に増えている。反対に85年のプラザ合意後の円高によって急速にオイルショック以前の水準まで回復している。


企業法人統計  単位1兆円


企業法人統計  単位1兆円

社内留保への影響は、78年~79年には現れずに81年になって現れる事になる。
この点は、経常利益にも、特別損益にも同様の傾向がみられる。
そして、それは、借入金利子率と密接な関係がみられる。

 

この様な動きが後々業界の再編に影響している事が考えられる。

オイルショックは物価にどのような影響を与えたか


石油価格の動向がどの程度物価に影響を与えるかは、異論が多くある。
第一次オイルショック、第二次オイルショックの際は、石油価格の高騰に振り回されたが、今日では、原油価格の高騰の影響は限定的なものだと考えられている。むしろ、価格高騰後の反動による値下がりの方が深刻だととらえせれるようになってきた。

激しく乱高下を繰り返す石油関連商品に比べて消費者物価指数総合を見てみると緩やかな上昇栓を描き大きな影響を受けたようには見えない。
原油価格の高騰は、長い目で見て物価全体に与える影響は世間で考えられているより相対的に軽いと考えられる。


総務省統計局

しかしそうはいっても、石油価格の上昇が、物価指数全体にも影響を及ぼしている事は否定できない。
第一次オイルショックが起こった時、企業物価指数は、前年同期比で32%まで跳ね上がり、その後沈静化したが、第二次オイルショックには、18%迄再び上がったのである。


三井住友信託銀行

日本は、原油のほぼ全量を海外からの輸入に頼っている。しかも、主として中東地域や南米といった政治的に不安定な特定の地域に産油国が限られている。
しかも、原油は代表的な戦略物資であり、国際政治の影響を受けやすい資源である。
また、石油は、戦後長期間に亘ってエネルギーの中核を担ってきた。二十世紀は、石油の時代と言っても過言ではない。

この様な石油業界は、原油価格の高騰や為替の変動の影響を直接受けてきた。



総務省統計局



石油業界は規制産業だった



原油は、経済の中核を担うと同時に国際経済の影響を受けやすいため、戦後長期に亘って石油業界は、規制が掛けられてきた。

石油業界は、貿易の自由化に際し、国内の産業を保護する目的で1962年に石油業法が制定され、1973年に緊急時二法などが制定され規制が強化された。更に、1973年に起こった第四次中東戦争に端を発する石油危機、ホメイニ革命による第二次石油危機に対して同年、緊急時石油二法と呼ばれる「石油需給適正化法」と「国民生活安定緊急措置法」が制定された。更に、1976年、緊急時石油二法と呼ばれる「石油需給適正化法」と「国民生活安定緊急措置法」が制定され、また、同年、サービスステーション(SS)の登録や品質確保義務等について定めた「揮発油販売業法」、1985年、ガソリン、灯油、軽油の三油種の輸入を精製業者に限定した「特定石油製品輸入暫定措置法(以下特石法)」が定められた。
当時、サービスステーションの多くは元売りによって系列化されていたので、サービスステーションが登録制にされたために販売量が制限される事になり、各メーカーの精製量と販売量が一致しなくなる。所謂、精販ギャップが生じたのである。

1996年に特石法が廃止された。「特石法」の廃止に基づく規制が緩和される事によってSS間の過当競争が激化し、SSは、激減した。

第一次規制緩和の流れは、1687年5月、給油所の取扱商品や販売施設に関する規制の緩和。同年7月87年二次精製設備許可の運用弾力化。1989年3月、ガソリンPQ(メーカー別生産割当)制度の廃止。同年9月、灯油の在庫確保指導の撤廃。1990年3月、給油所に係わる建設指導及び転籍ルールの廃止。1991年6月、一次精製設備許可の運用弾力化。1992年3月原油処理枠規制の廃止となる。これだけ多くの規制によって守られていたのが、1996年の「特石法」の開始によっていよいよ自由競争時代に突入したのである。

ガソリンスタンドの件数は、1996年4月に「特石法」が廃止されたことを契機とし、1994年60421件をピークにして減少し続けて2014年には、33510件とピーク時の55%まで落ち込んでいる。


経済産業省 資源エネルギー庁


規制を緩和した結果、石油業界で何が起こったか。
販売業者の急速な減少、民間投資と雇用の減少、収益の悪化、市場の寡占、独占。これらが、規制緩和が引き起こした結果である。
これらの事象は、バブル崩壊後の経済状態を暗示している。

なぜ、何の目的で規制を緩和する必要があるのか。
規制緩和をする目的と期待する効果を明らかにしないで、規制緩和の是非を問うのは愚かである。

石油・石炭業従業員の推移

法人企業統計

規制を緩和し、競争を煽る事は、収益を圧迫する事であり、経営を合理化し、経費を削減する事は所得を縮小する事である。
これらの政策は、デフレ政策である事を忘れてはならない。
名目的GDPは、バブル崩壊後20年以上も横ばい状態を続けている。
そして何が政策的に変わったかというと規制緩和が声高に叫ばれ始めたのと軌を同じくしているという事である。
その先端を走らされたのは、石油業界である。

規制を一律に語ることはできない。なぜならば、市場の全体は、いくつかの市場が、重なり合い、組み合わさって構成されているからである。個々の市場を構成する産業は一様ではない。
成熟した産業もあれば、生成段階にある市場もある。拡大成長期の市場もあれば、縮小衰退期の市場もある。
規制を緩和して成長発展を促すべき産業もあるが、過度の競争を抑制し、収益性を保たなければならない産業もあるのである。
経済は生産性のみで成り立っているわけではない。分配や消費という側面もあるのである。
また、電気機械のように生産工程を工夫すれば効率化できる産業もあれば、一度設備投資したらたやすく生産工程を変える事の出来ない産業もある。
デザインや性能によって差別化する事ができる産業もあれば、石油やガスのように商品を差別化する事が難しい産業もある。
単純に規制を緩和し、競争をさせれば万事うまくいくと考えるのは、短絡的すぎる。
料理のような商品は、工場生産が適しているとは限らない。
経済は、無駄な部分も必要なのである。なぜなら、経済は、生産のみならず、分配や消費からも成り立っているからである。
ただ生産的な効率性ばかりを追求したら、分配や消費の効率性は失われてしまう。
手間暇かけてやるからこそ分配の効率性が計られる部分もある。

十人で一億円を設ける事が効率的か千人で一億円の利益を上げる事が効率的か、後者は、千人の雇用を作ってなおかつ一億円の利益を上げたとも言えるのである。

確かに、規制緩和によって劇的な変化を通信、情報産業は遂げた。だからと言って何でもかんでも規制緩和をしてしまえというのは、乱暴である。世の中には、どんな病気にも効く万能薬というのはないのである。病人の症状やび病気に合わせて処方箋はかかれるべきなのである。
石油は、装置産業であり、初期投資が巨額になる。商品格差がなく差別化が難しい。無原則な価格競争に陥れば、構造不況業種になる。
経済と政治は、密接に結びついている。経済も政治も単独で存在している事ではない。相互の働きによって成り立っている。

しかし、忘れてはならないのは、経済の目的は生活にあって、金儲けにあるわけではない。
金儲けのために、生活が成り立たなくなるのは本末転倒である。
石油業界をどう規制するかは、石油という資源を国家、国民がどう位置づけるか、どう考えるかによるのである。
石油が国家国民にとって不可欠な資源だとするならば、石油産業が成り立つように規制するのは、行政府の責任である。


石油業界と為替


石油危機に目を獲られがちだが原油価格以上に石油価格に影響を与えているのは、為替である。
1993年、昭和シェル石油は、1600億円、翌1994年には、鹿島石油が1500億円を先物為替損失を出した。もともと為替ヘッジは、石油業界で生まれたようなものである。石油業界は、原材料の99.6%を輸入に頼っている。この様に原材料のほとんどを輸入に頼っている石油業界は、為替の変動に敏感に感応する。
また、同時に為替リスクを背負い込む事となる。




石油価格の上昇は、円安、ドル高と言うのが1997年頃までは基本であったが、1998年頃からそれが逆転傾向にある。1995年から1997年頃に市場の構造に変化があった事が窺える。
ドルと石油価格が連動している場合は、価格の変化を増幅する傾向がある。ただ、石油価格の変動があってドルが大きく動くという例は、プラザ合意時以外は、余り見受けられない。プラザ合意時は、プラザ合意によって円が上昇するのに連動するように石油価格も大幅に下落している。

第一次、第二次石油危機の際は、日本のファンディメンタルを反映したように原油価格に連動して為替は変動している。
その結果、為替の動きが石油危機を増幅していた。
円高が進行している今日では、石油価格の変動を抑制するように変化してきているのがわかる。

1985年プラザ合意後急速に原油価格の輸入価格は、値を下げている。それに対して為替の変動が下げを増幅している。原油価格の下落に円高が追い打ちをかけているからである。
しかし、2001年~03年にかけての値上げの際は、円高が、上げ幅を抑える効果を発揮している。

為替と原油価格は、微妙に連携している。つかず離れずの関係と言ってもおかしくない。



為替リスクが生じるのは、換算があるからである。換算とは、ある値、数量を他の単位に置き換えて計算しなおす事である。物理的な量、例えば尺やヤードをメートルに換算するような場合、尺度は、一定であるが、石油をドルから円に換算しようとした時、尺度は時間や場所、取引条件などで変化してしまうのである。しかも、その変化を予測する事が難しい。そこに為替リスクが生じるのである。

為替のリスクが生じるのは、物の受け渡しと、「お金」の受け払いの時点が違うからである。物の受け渡しは、取引の成立を意味し、「お金」の受け払いは、決済の完了を意味する。
石油は、産油国から原油を輸入し、それを、消費地である我が国で生成する。つまり、消費地精製主義を原則としてきた。
その為には、産油国から原油を消費地である我が国に輸送し、石油精製所で製油し、それを製品毎に販売会社に配送して最終的には、消費者に販売する。産油国か消費国に輸送するためには、一定の期間がかかる。その時間差に為替リスクが掛かるのである。

為替のリスクには、物のリスク(輸送費用や時間の変動、保険料の変動、商品の劣化、陳腐化、事故や災害等)と「お金」のリスク(為替や金利の変動等)がある。

為替のリスクを回避する手段には、保険、為替予約、通貨スワップ、通貨オプション等があり、これらの手段が後々、金融商品、デリバティブへと発展していくのである。

石油業界は、常に為替変動や為替リスクに備えた会計をする必要がある。

  

  

円高局面で為替差損が出やすい傾向が読み取れる。


石油会社 為替差損益 単位 百万円
年度 昭和シェル石油 コスモ石油 出光興産 東燃ゼネラル石油 東京市場単位円
為替差益 為替差損 為替差益 為替差損 為替差益 為替差損 為替差益 為替差損 ドル・円 スポット 
1998 5988 2629 1747 1491 131
1999 4956 3502 3141 2222 114
2000 5052 1347 5611 1745 108
2001 3906 2373 2042 1059 122
2002 4432 426 1732 1791 125
2003 1824 17 2253 116
2004 247 648 2006 2914 108
2005 2832 3438 7177 1770 110
2006 1324 2884 8333 224 6123 116
2007 3400 8886 6051 7069 118
2008 2116 9325 1030 10354 103
2009 683 2581 252 1283 94
2010 913 106 1915 1933 88
2011 1507 451 1083 80
2012 175 1242 2253 2053 80
2013 700 2536 2974 98
(京都マネージメントレビュー 行待 三輪)

会計の目的とは何か


会計というものについて我々は本質を見失ってはいないだろうか。
なぜ、何のために会計は存在するのか。
その根本的な思想を明らかにしないままに数字だけが独り歩きしているように思える。

東燃ゼネラル石油は、2011年1~6月期連結決算が、純利益が前年同期比約4.5倍の1,299億円になった。在庫評価方法を東燃ゼネは期首在庫と期中に仕入れた原油価格を平均する「総平均法」に今期から変更したことにより大きく利益を押し上げた結果である。従来使っていた「後入れ先出し法」を「総平均法」に変えたことにより原油価格が上昇すると期首に持つ安値在庫による利益かさ上げ効果が生じたのである。
1~6月期には在庫評価方法変更に伴う利益だけで1,571億円発生。この分が営業利益段階から含まれ、1~6月期の営業利益は約16倍の2,178億円と大きく膨らんだ。(2011年8月12日 日本経済新聞)

逆に、JXホールディングスは2015年3月期、営業損益2,189億円の損失。出光興産、営業損益1,048億円の損失。営業損益コスモ384億円、営業損益東燃ゼネラル、729億円、昭和シェル石油は昭和シェル石油営業損益181億円の損失と元売り5社すべてが赤字に転落し、うち4社が2期連続赤字に転落した。

ただし、JXホールディングスは在庫評価損の影響を除いた場合の経常利益相当額として、2,552億円の損失。出光興産は、在庫評価の影響を除いて場合、営業利益285億円。コスモ石油は、在庫評価損1161億円及び在庫評価損の影響を除いて経常利益665億円、東燃ゼネラルは、在庫評価損865億円、昭和シェル石油は棚卸資産評価損の影響を除いて経常利益相当額を345億円として公開した。(PWCあらた監査法人)

石油元売り会社は国際会計基準に従い、「原価法」から「低価法」へ、「後入れ先出し法」から「総平均法」へと変更した。

「後入れ先出し法」は在庫の時価と簿価との乖離が大きいとされ問題視された。しかし、価格が相場によって大きく変動する商品は、「後入れ先出し法」の方が実質的な利益を反映していると考える専門家もいる。
確かに、在庫の評価が時価からかい離するのは問題かもしれないが、それ以上に市場の取引の実態を正しく反映する事も大切であるはずである。

期首と期末の在庫量が変わらなければ、「後入先出法」によって導き出される利益と実質的な利益とは、ほぼ同じとされている。それ故に、国際会計基準では、「後入先出法」は認められていないが、米国会計基準では容認されている。原油価格の乱高下や一時的な石油の減産、供給の減少によって棚卸資産が期間損益に重大な影響を及ぼす場合を鑑み。「先入先出法」や「加重平均法」を用いている企業は棚卸資産による増益、あるいは減益効果を除いた実質利益を開示している場合が多い。(「エネルギー・資源投資の会計実務」PWCあらた監査法人 編 中央経済社)

一体、会計数値が何に対して、どの様に利用されるか。
単に杓子定規に、教科書的、教条主義的に物事を評価する事は会計の本意ではないはずである。
根本に経済をどのように考えるのかの思想が不可欠なのである。
いかに数値的に正しくても経済の実体からかけ離れたら何の意味もない。

どのような目的で在庫をどの様に評価すべきかが要点なのである。
そして、それが経済に対してどのような働きを持つのか。
大切なのは何を最も重視すべきなのかだという事である。
その点を鑑みるとキャッシュフローとの関係が重要になると思われる。
利益は、融資や投資、納税の基礎となる値である。特に、キャシュを必要としている時に、多額の納税負担がかかる事は、本来の会計の在り方からすれば反しているように思われる。

要は、会計は、合目的的行為だという事である。会計によって何を知りたいか、何を測りたいかが核心なのである。

なぜ、利益を平準化しようとすることは悪いと言えるのか。
期間損益の目的は、元来、利益の平準化にあったはずである。それが減価償却の理論的な根拠となる。減価償却は、費用の平準化によって適正な利益を算出する事にある。

利益操作が悪いとされるのは、会計制度の骨格が出来上がった後の議論である。
利益そのものの正当性の問題は、利益操作以前の問題である。

第一の前提は、会計制度の目的にある。期間損益主義というのは、費用対効果を測定する事と株主の権利を守るという事である。
第二に、石油は、相場商品だという事である。
第三に、石油業界は、備蓄が義務づけられているという点である。
相場商品は、投機的動きによって価格が乱高下する性格がある。
この様な相場商品は、「平均法」や「先入れ先出し法」では、市場の実体を反映できない。
しかも、石油業界は、一定量の備蓄が義務付けられているのである。

会計の目的は、企業活動の実態をら正しく測定する事にあるはずである。
企業活動を正しく評価するためには、企業の社会的役割や働きこそ前提とすべきなのである。
利益は結果に過ぎない。

会計の目的、会計の在り方を議論する前に、どの様な産業に、また、どの様な経済の状態にしたいのか。その根本となる構想がなければ議論のしようがない。今のマスコミや学者は、ただ、悪い事は、悪いと意味もなく言っているように思えてならない。
競争が悪いというのでもない。競わせるべきところを競わせればいい。しかし、競うべきではないところ、競ったところで意味のないところは競わせる必要がないし、かえって有害ですらなる。
経済においては、協調・妥協する事も必要なのである。

会計が果たすべき社会的役割とは何か。

会計は、手段、道具に過ぎない。会計の数値の整合性をとる事が、会計の目的ではないはずである。会計の目的は、経済の状態を正しく反映し、生産と分配、消費の均衡を制御するために監視する事である。
会計の数値が経済の実体を正しく反映できなくなったら、会計を変えるべきなのであって会計に合わせて経済の仕組みや実体を変えようとするのはおかしい。
それは、肉体を服に合わせて切り刻むような事である。

地価が下落したら返済を迫るというような行為は本末転倒である。
実体は、経済活動にある。名目的数値にあるわけではない。

会計の目的は、企業経営を苦境に落とし込める事でも、金儲けの手助けをする事でも、経済を無用に混乱させる事でもないはずである。数字が会わないからと言って不正だと決めつけるのもどうかと思う。大切なのは企業経営の実際である。
企業が社会に果たしている役割をきちんと反映できるからこそ会計の意義がある。企業が社会に果たす役割が会計によって見えなくなることがあったとしたら本末転倒である。
経済は、生きるための活動なのである。根本にあるのは、いかに人を生かすかという思想である。人を生かす道すじを明らかにする事こそ会計の本分なのではないのか。

出光


原油価格の動向、為替の影響、会計基準の変更による影響などは、実際の企業を見るとよくわかる。
そこで実際の企業の決算書から経済の動きや経済と企業の関係を見てみる。

出光興産の収益と利益の変化を見てみる。





粗利益の減少をもろに受けて営業利益、経常利益ともに大幅に減少している。



出光興産のキャッシュフローを見てみる。



2015年、営業キャッシュフローは、営業利益は正反対の動きをしている。また、経常利益も一見同じ動きに見えるが、経常利益は、-1330億円なのに980億円借入金を減らしていることになる。

8 9 10 11 12 13 14
営業活動によるキャッシュ・フロー(百万円) 59934 235340 △62,846 86995 159723 50780 50087
投資活動によるキャッシュ・フロー(百万円) △78,448 △86,136 △139,223 △74,848 △59,092 △70,891 △179,811
財務活動によるキャッシュ・フロー(百万円) 8953 60929 23681 12732 △79,462 △45,657 161143

20008年~2009年にかけて、そして、2011年、2014年は成長期。2010年は、創生期。2012年、2013年は、成熟期の相を示している。

 


産業構造はどうあるべきなのか。



石油業界に対する世間の見方は必ずしも好意的とは思えない。
それは、石油が戦略物資である事が多分に影響しているように思える。

そして、石油業界は、原油価格の乱高下、規制緩和による過当競争、二度の石油ショック、省エネルギー化、温暖化問題などによる需要の減退、会計基準の変更と痛めつけられてきた。ある意味で円高だけが助けてくれたともいえる。
外資が撤退していたのは、海外の見方を反映しているともいえる。
政府は、石油業界、ひいては、エネルギー業界をどうしようとしているのか。将に、国家戦略の問題である。

世間は、石油業界を悪役に仕立てるが、安定供給と価格の安定を両立させる事が、石油業界は絶対的使命として課せられていたことを忘れてはならない。

世界は、石油をめぐって血なまぐさい歴史を繰り返してきた。また今でも、国際紛争の陰には、石油問題や資源の問題が潜んでいる。
しかし、だからと言って石油産業を悪役にするのは間違いである。
石油産業に従事する者の多くは、国益に従って志を持って自分なりに努めているのである。

激しく乱高下し、しかも、為替の変動も受ける石油業界としては、利益を平準化し、内部留保を厚くして不足の事態に備えるという動機が働くの必然的帰結である。しかも、オイルショック時に過大な支払金利が発生したことを鑑みると自己資本率を高め、設備の効率性を良くし、過当競争を抑制して収益の安定を図りたいというのは、当然である。

80年代に16社あった元売りは、2016年には、3つのグループに集約されようとしている。
思えば、石油業界の歴史は、再編の歴史と言える。
かつて、業界再編が囁かれるたびに、独占禁止法が立ちはだかったものである。
しかし、3つのグループ、率直に言えば、2つのグループと1つの会社の体制が出来上がってしまえば、独占禁止法なんて有名無実である。独占、寡占体制のなにものでもない。
規制緩和、自由化の結末がこれである。規制緩和、自由化が競争の原理にとどめを刺したのである。これが厳然たる事実である。

独占、寡占状態を望んだ結果ならばまだ許せるが、独占、寡占を防ぎ、適正な競争を促すと言っておきながら、結局、独占、寡占対背を許してしまうとしたら、何をかいわんやである。

安定供給と価格の平準化、企業経営の継続性を同時に実現しようとした場合、独占、寡占、あるいは、国営化、公営化は、選択肢の一つと言える。しかし、選択肢の一つであって唯一という訳ではない。
独占、寡占、国営、公営の持つ弊害は、独禁法の精神に照らすまでもなく明らかである。相互牽制が利かなくなり、モラルハザードを引き起こしやすくなる。

規制緩和が正しいとなると規制緩和が唯一絶対のごとく考え始める。そして、規制緩和に反対する者は、反対勢力として排除される。それは横暴であり、民主主義に反している。
規制の是非は、規制がどのような目的で、どの様な働きをするかによるのである。そのためには、どの様な市場にするかその考えがあっての事である。

野球は、1チームではできない。2チームではリーグは組めない、しかし、100も200もあったら経営が成り立たない。では、12チームが適正か、それが経済の問題である。

規制緩和は絶対的原理ではない。規制は規制なのである。
規制を緩和した方がいい市場もあれば、規制を強化した方がいい市場もある。
規制を緩和した方がいい部分もあれば、規制を強化した方がいい部分もある。
景気や市場の実態に合わせて決められることであり、何が何でも規制緩和ありきというのは、不見識である。市場は相対的なのである。

それを官民一体とか、癒着だというのは感情論である。

健全な経営努力をしている企業が健全な利益を上げられなくなる経済体制がおかしいのである。これでは真面目に、正直に働いている者が報われなくなる。
それは、資本主義の終焉を意味する。
確かに、石油業界は、政治に翻弄され続けてきた。だからこそ、国家国民のためにも、確固たる信念をエネルギー産業に携わる者は持つ必要があるのである。

要は、日本のエネルギー戦略をどう考えるか、ひいては、石油をどう位置づけるかにかかっているのである。
石油は戦略物資である。戦略物資とされるのは、それなりの理由がある。
石油やエネルギーは、ライフライン、生命線だという事である。
ライフラインである石油を断たれたら、エネルギー資源の大部分を海外に依存している我が国は、一日たりとも立ちいかなくなるのである。だからこそ、石油業界に対する施策は、根底に国家戦略がなければ成り立たないのである。
エネルギーは、国家の存亡にかかわる大事である。その点を抜きにして石油業界は語れないのである。

やれ規制緩和だ、やれ独禁法だと言われながら結局石油業界をどうしたいのかという視点にかけてきたのである。
それは、日本の戦後を象徴しているような事である。
今、出光佐三を主人公にした百田尚樹の「海賊とよばれた男」がベストセラーになり映画化もされた。
石油業界と言えば、ロックフェラーとか、メジャーといった事が思い浮かび、自由主義経済の闇を象徴されるようなところがある。
それもこれも、石油は戦略物資だという事、また、中東問題と深くかかわり、独占法、カルテルなどの格好の標的にされ、二度の石油ショックや湾岸戦争などの引き金を演じたというような事に由来している。
しかし、これほど国際情勢に翻弄され、世界戦略、国家戦略が云々されているというのに、いまだに、石油業界をどの様にしたいのか、エネルギー戦略をどうしたいのかが見えてこない。これこそが石油業界が混迷を深めている最大の原因なのである。
まず国家戦略、エネルギー戦略に石油をどう位置づけるべきなのか。その辺を明らかにすることが急務である。



石油業界とは


石油業界は、セブンシスターズ、独占的企業、産油国カルテル、経済制裁の手段、第二次世界大戦、中東戦争、オイルショック、湾岸戦争といろいろと話題に事欠かない。総じて悪い印象を持たれている人が多いように思われる。事実、石油の歴史は、血生臭く、欲望に満ちたものであった。
しかし、それは、石油がそれだけ、国民生活に大きな影響を与えてきたからであり、生きていく上に書く事の出来ない資源だったからである。しかも、石油は、国防上からも国家の存亡にかかわる貴重な資源なのである。この点を抜きに石油について語る事はできない。日本人は、現実を直視すべきなのである。ただ、幻想を抱いて自分の都合よく国際情勢を判断していたら自国の安全すら維持できなくなる。好き嫌いの問題ではないのである。

国家、国民にとって不可欠な資源でありながら、石油価格は、不安定で予測できない動きをする。その為に、石油は、国家戦略の枢要を構成してきた。石油のために戦争までしてきたのである。これが現実である。

何よりも問題なのは、石油業界の収益性の低さである。
2001年から2014年まで業界の設備削減は、累計で6000億円に達するも収益は改善しなかった。(みずほ銀行産業調査部 松本成一郎)業界の自助努力も外的要因によって相殺されてしまう。

この様な状態を前提として石油業界のあるべき姿を構想する必要がある。成り行き任せの業界再編は、国家の礎であるエネルギー政策の根幹を揺るがしかねない。

経営者にとって収益、収入の安定は、至上命令である。とにかく、収益が安定しないと予算も資金計画も立てられない。雇用も維持できないし、投資計画も立てられない。なぜなら、将来に対する展望が立てられないからである。
そういう意味では、石油業界は意思決定においても外部要因が多く、経営者自身が自分の意志で決定できる範囲は狭い。
経営は、外部の環境変化に翻弄されがちだし、現実に、翻弄され続けてきた。その意味で、石油は、政略的な業界だと言われてきたのである。

石油価格は、経済的な要因だけで動くわけではなく、政治的、投機的動機、軍事戦略によっても左右される。政治力がものを言う業界でもある。

収益が不安定なのに、金利負担も税負担も大きい。為替や原油価格の影響も受ける。
しかも、備蓄の義務があり、危険物だと言う点や消費地精製主義という枠組みの中でいろいろな制約もある。定期点検や改修、設備の更新が法的に義務付けられており、更に、タンカーや保険費用もある。一定の設備投資とメンテナンス費用が固定的にかかる。

また、損益の型から見ると固定費も変動費も大きい形になる。石油業界は、他の産業と比べても特殊な形に属している。

原料を輸入して製品を輸出するという、家電や自動車ともビジネスモデルが違い、輸入して精製して生産した商品は、そのほとんどを国内の市場で消化してきた。
どちらかと言うと、石油に関しては行政も業界も内向きの傾向がある。過剰設備で国内の需要が頭打ちな状況が予想される石油業界は視点を内向きから外向きへと転換する必要がある。

規制を緩和し、国際競争力をつけるというが土台、石油業界は、外向きな体制になっっていないのである。

石油製品は、商品格差がない上に、装置産業であり、連産品でもある。しかも設備が過剰気味な現在、無原則に放置すれば、乱売合戦、安売り合戦に陥りやすい。行きつく先は、独占、寡占状態である。石油業界が常に、独占寡占問題で糾弾されるのは、必然的帰結である。
しかし、独占は市場経済の終焉をも意味する。独占に弊害があるからこそ、独占を禁じる法まであるのである。

寡占独占を防ぎたければ、何らかのカルテルを結ぶか、規制をする以外に手立てはない。
いずれにしても石油業界だけでは解決ができない事であり、行政の強いリーダーシップが求められるのである。

カルテルが悪いとか、規制は悪だなんて言ってられないのである。
手本となるのは、プロスポーツのしくみや制度である。何を、どこで競わせるか、それを明確にして一定のルールの下で共存する道を模索するべきである。

石油製品は、社会、国民生活、産業の基盤であり、インフラストラクチャーでもあるしライフラインを担ってもいる事を忘れてはならない。石油業界が破綻する事は国民生活が破綻する事をも意味するのである。だから、多くの国が石油のために戦争すら辞さないのである。

しかも、ほぼ百%輸入に頼っているのである。明確な展望を持たずに他国の庇護ばかりを当てにしていても他国は、自国の都合で戦略を変えてしまう。その危うさを常に鑑みながら、自国の採るべき道をハッキリとさせていくことが肝心なのである。

資源問題、環境問題を常に根底に孕んでいて、環境保護、省エネは不可避な状況なのである。

金融市場に比べて石油先物市場は相対的に小さく、投機筋に利用されやすい。2000年以降市場が成熟し、縮小局面に入った国は、金融に活路を求めようとする傾向がある。しかし、それは方便に過ぎない。縮小期に入った産業もその役割を終えたわけではない。ただ成長のみを追い求めていたら、経済は土台から崩れてしまう。経済は、生産だけで成り立っているわけではなく、消費の働きも市場の半分を担っているのである。生産と消費をつないでいる所得は、雇用によって維持されている。
単純なリストラ、経費削減は、雇用を圧縮し、所得を削減する事でもある事を忘れてはならない。生産性ばかりを追求したら市場は成り立たなくなる。市場で大切なのは、均衡なのである。

一概に規制は悪であり、全てを失くしてしまえというのは、乱暴な話である。規制がいいというのではない。時代や業界の性格に装具わない規制もある。時代遅れになったり、役割を終えた規制、業界の性格に適合しない規制は廃止すべきである。しかし、時代に変化に適応したり、市場の変化や業界の特異からくる規制は必要に応じて強化すべきなのである。規制緩和は、原理でも万能薬でもない事を肝に銘じておくべきである。
何よりも重要な事は、石油業界を国家戦略に対してどう位置付けるかである。

東日本大震災の後、原子力政策、電力政策を根本から見直さざるを得ない状況に陥った。
重要なのは、日本をどの様な国にするのか、そのためには、エネルギー産業をどう再構築するかの展望であり、構想である。
エネルギーの先行きに対しする展望も構想もないままに成り行き任せにしている事が問題なのである。

日本人は、日本が置かれている現状を直視すべきなのである。日本がこれまで平和で豊かな生活を送れたのは、偶然ではない。微妙で繊細な国と国との力の均衡の上に成り立ってきたのである。その力の均衡がいつまで保たれるか予断は許されない。日本の独立と繁栄は、日本人自体が守らなければ守り切れるものではないのである。

富国強兵、殖産興業と言った国家戦略に基づいて日本は近代国家を建設してきた。戦後、それを頭から否定され、国家としての指針をもって産業を育成する事さえ否定する風潮がある。しかし、それは国家の独立を認めずに植民地化する事と同じである。
富国強兵が軍国主義、封建主義的だから悪いというこれからの日本は、自由主義、民主主義国家として生きていくのだとしたら、民主主義的なエネルギー政策、戦略を明らかにすべきなのである。富国強兵が時代にそぐわなくなったというのならば、それに代わるべき国家指針を立てるべきなのである。我々は、次の世代へとこの国を引き渡していかなければならないのである。
石油業界には特に業界としての指針が求められる。なぜならは、エネルギーは、国家を動かす原動力であり、国家の存亡にかかわる大事、エネルギーなくして人々の生活は成り立たないからである。エネルギー産業は、使命感なくして支えられないのである。


石油業界の目指すところ


まず大前提は、石油は、国家のみならず人々の生活に欠く事の出来ない資源だという事である。
確かに、現在、脱石油、脱化石燃料が叫ばれている。再生エネルギーの開発も急がれている。しかし、だからと言ってここ二、三年で石油の重要性が失われるわけではない。石炭から石油へのエネルギー転換は急速進んだ。同じように、石油が代替えエネルギーに、即、変われると言うとそれほど簡単な話ではない。石炭から石油に変わった時の様な代替えエネルギーが明確ではないのである。原子力も再生エネルギーも価格的にも、また、性能面からもまだまだ問題がある。電力と言っても二次エネルギーであって生産段階で石油を全く使わないという訳にはいかない。

むしろ、現在問われているのは、石油の効率的活用である。いかに、石油を効率的に使って省エネルギーを実現すべきかをより考えるべきであり、それが産業としての石油業界が生き残るすべである。

石油は、まだまだ人々の生活に欠く事の出来ない資源である。故に、石油の安定供給、確保というのは、軍事的な目的に限った事ではないのである。この事を忘れてはならない。

次にいえるのは、何よりも収益の確保である。石油業界は、石油価格とか、為替と言った外的要素、国際情勢に振り回される傾向がある。
だからこそ、安定的な収益があげられるような産業構造にすべきなのである。

その為に、寡占、独占、あるいは、国営化がいいかと言うと、これまでの共産主義国や独占的産業の状態を見ると良いとは言い切れない。寡占、独占、国営化は、統制経済への道を拓く。ある意味で市場経済の死を意味する。
なぜ、自由主義経済、市場経済が発達し、統制経済や計画経済が廃れたのか。それは自己抑制が効かなくなるからである。
もともと、経済的価値は相対的価値であり、絶対的価値ではない。相対的価値である経済的価値は、他との比較対象の上で成り立っている。競争がなくなれば比較対照する事が出来なくなり、自社が置かれている状態を確認する事が出来なくなる。企業は、切磋琢磨する相手があってこそ進化するのである。
独占的な体制では、選択肢の幅がなくなり、比較対照する事が出来なくなるのである。また、絶対権力は、相互牽制作用を失わせ自己抑制力を極端にまで弱めてしまう。権力者を諫める者がいなくなるのであり、権力が絶対化してしまう。
その為に、独占的、統制的体制は、利権が生じ腐敗を防げないのである。自浄作用が働かなくなるのである。
選択肢の幅が失われる事は、自由が失われる事でもある。
また、組織が巨大化すると末端まで目が行き届かなくなり、自己統制が弱くなる。そしては、自己増殖をはじめ抑制できなくなる。
だからこそ自由主義者たちは、無原則な競争も認めなかったが、それ以上に独占、寡占状態を警戒したのである。

適度な競争を前提として収益を維持するためには、規制が必要である。規制が悪いのではなく。規制が本来の働きをしなくなることが悪いのである。
スポーツは、ルールによって守られている。ルールのないスポーツは、闘争でしかない。問題は、ルールにあるのではなく。ルールの働きにあるのである。ルールが特定の勢力の利益を擁護したり、既得権益を守るような働きをすればるルールは本来の働きを維持できなくなる。
問題は、公正、公明な手続きに従ってルールが定められ、それが厳正に守られているかにある。規制は悪だから何が何でも規制を失くしてしまえ。規制をなくせば万事うまくいくというのは短絡的に過ぎる。

収益の安定は、価格の維持にある。現在価格に対する間違った認識が流布している。価格は安ければいいという発想である。そして、費用は、無駄な事だから何が何でも削減してしまえという思想である。これは原則とか、原理ではなく、思想である。競争を原理とする者もいるが、競争は手段であって原理ではない。競争や規制緩和を原理とするのは思想である。競争や規制緩和は絶対的原理ではない。どちらも手段であって前提条件によって有効にも障害にもなる。大切なのは前提条件である。

適正な価格は、適正な費用を意味する。費用は無駄な事とは限らない。むしろ必要な事である。何に対してどのような比率で分配するか、それが費用構造である。つまり、費用の本質は、分配であり。費用の持つ働きによって価格の妥当性が計られるべきなのである。価格を競わせるのか、品質を競わせるのか、性能を競わせるのか、デザインを競わせるのか、サービスを競わせるのか、それによって市場の在り方も規制の在り方も変わる。根本にあるのは、石油なら石油に対する考え方である。

その根源にあるのは、必要性であって価格ではない。価格は、そういった要素が複合されて形成される結果である。
肝心なのは必要性である。何に資源を配分するかによって費用は決められるべきなのである。

石油の根本も同じである。石油に何を求め、どこを競わせるべきなのか。それが肝心であり、石油に求められるのは、安定供給と省エネルギー、そして、人々の生活の利便性である。それを最大限に発揮できるような市場の仕組みを作る。その市場の仕組みを作るのは規制である。
むろん、時代や環境に合わなくなり、本来の働きを失った規制は、変えるべきである。しかし、なくせばいいというのは乱暴すぎる。

問題は、量から質への転換であってそれは石油業界にも求められているのである。

石油業界の未来は、エネルギー戦略による。


明治維新以後、日本の国家戦略は、エネルギーが中心になる。
なぜならば、エネルギー戦略が国家の命運を握るようになってきたからである。

それまでの経済の中心は、衣食住にあった。
しかし、近代に入り、産業革命がおこると国家の盛衰は、エネルギーに左右されるようになる。
同時に、経済だけでなく、軍事力もエネルギーに命運を握られる事になる。

そのエネルギー戦略の中核をなしているのが石油産業である。石油がエネルギーの主役となる以前は、石炭が、エネルギー戦略の中心を担ってきた。

エネルギーは、常に、環境問題に関わってきた。それは、エネルギーが熱量に関わっている上に生活全般に深く関わっているからである。
エネルギーを大量に消費すればするほど環境に負荷がかかる。その為に、エネルギー産業には、いつの時代にも負のイメージが付きまとう。

エネルギーの消費量は、経済成長のバロメーターでもある。エネルギーの中核である石油の消費量は、石油危機以後横ばい状態が続いている。日本経済の停滞は、石油危機に端を発しているように見える。しかし、実際は、それ以前にニクソンショックを経験し、高度成長も石油危機と伴の終焉したと言われている。石油危機によって高度成長時代が終わったとするのか、石油危機は、高度成長時代の終焉に伴うのかは見解の相違がある。しかし、いずれにしても石油危機は、日本経済の根幹を変えてしまったことは確かである。

そして、以後省エネ、脱化石燃料、輸入元の多様化、安定供給、備蓄、資源保護等が至上命令となり、更に、温暖化や環境問題などが加わって石油離れが加速した。しかし、東日本大震災やシェール革命などによってまた、石油を取り囲む様相も変化しつつある。
温暖化や脱石油の切り札とみられてきた原子力発電に待ったがかかったからである。

かつて、21世紀には枯渇すると言われてきた石油も実際には可採年数が伸び、更に、シェール革命によって埋蔵量も飛躍的に伸びている。反面、省エネ技術などの進展によって石油の消費量そのものはここ数年伸び悩んだとはいえ、新興国や中国のようにこれから大量にエネルギーを消費する事が見込まれる地域が台頭してきている。エネルギー事情は予断を許さないのである。

日本のエネルギー戦略は、脱石油を前提として原子力、再生可能エネルギーなどに徐々に転換してきたが、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故によって原子力行政が頓挫し、抜本的な見直しが不可欠となった後、日本のエネルギー戦略は混迷を極めている。

問題は、エネルギー戦略がたたないまま、石油産業をどの様にしたいのかが明確でないのに、業界の自由化や規制緩和、業界再編が進んでいる事である。
まずエネルギー戦略を立て、石油業界をどの様にしたいのかを明確にすることが急務なのである。

石油は、電気、ガス、水道とともに国民のライフラインを握っている。石油、電気、ガス、水道が途絶えたら、国民生活は一月と成り立たないのである。

石油業界には、負のイメージ、ダーティなイメージが付きまとうが、税や金利なども含め、多大な国家に貢献している産業であることも確かなのである。石油業界を悪者にしているだけでは、国家の先行きを明らかにする事はできない。それは原子力にも言える。エネルギーも経済も現実なのである。現実から目を背けている限り、国家の平和と安寧、ひいては、独立さえも維持する事が困難である事を忘れてはならない。

産業には、産業の役割があり、企業には企業の使命がある。
産業や企業を悪者扱いするのはやめるべきだ。
産業や企業を悪役扱いする思想は、行政やメディア、学界、教育界、労働界等に牢乎としてある。
まるで企業が利益を上げるのは、搾取であり、私腹を肥やす事だといった考え方である。それは、商業の蔑視や差別、軽視にもつながる。
いい加減に儲けは搾取だといった思想を捨てるべきだ。儲け、即ち、利益だけでなく。
利益だけ、赤字も、借金も、内部留保も、労働も、悪いと言った考えは捨てるべきである。
ただ、過剰な報酬や配当は抑制すべきである。なぜならば、利益処分の中に長期借入金の返済資源が含まれるからである。内部留保に課税などしたら、資金繰りがつかなくなり危険性がある。
要するに、適正な利益であるか、報酬であるか、赤字であるか、借金であるかが問題なのであり。適正であるか否かは、利益や赤字の働きから考えるべき事なのである。

石油業界は、妙なところで悪役を演じさせられてきた気がする。しかし、石油業界は、国策の根幹にかかわる事である。国防問題は、戦前は、不可侵の事として戦後は忌事として忌避されてきた。しかし、触れられないと言う点で同じである。結局肝心な事が検討されてこないで、神学論みたいな議論が続いている。国防は、現実である。現実を直視し、見据えた議論をしなければならないのである。

エネルギー問題も国家戦略、国家の存亡にかかわる大事である。単に、一企業だけで片づけられる問題ではない。エネルギー政策をどうするのか、エネルギーの中に石油をどう位置づけるのか。これは原子力も同じである。石油も、原子力も、感情論、心証が先行してしまって現実にどう対処すべきか国家、国論がどこかへ行ってしまっているように思える。
今一番考えなければならないのは、この国をどの様な国にするのか。その為に、エネルギーを石油をどう位置づけるかである。エネルギー問題は、金勘定だけで片付く問題ではないのである。石油企業を悪役にしたところで、何も解決しない。この事を肝に銘じるべきである。

石油業界の次の時代を担う者は、高い見識と志が求められる。目先の利益、浮利を追い求めてばかりいたら、国家の存亡すら危うくするのである。将来を見通し、国家、国民の先行きを示し、次の時代を主導していかなければならない。その高い使命感がなければ、石油業界を正しく導くことはできない。行政や政治家、経営者は、この点をよくよく心得ておかなければならない。

経営の要諦は、リスク管理である。
リスク管理というのは、予言に基づくものであってはならない。予言と言うのは、未来に起こることすべてを正確に読み切ってそれに対処する事である。しかし、未来は闇の中にあり、読み切れるものではない。未来は神のみぞ知る。人知の及ぶところではない。
リスクを管理するというのは、起こりうることを可能な限り予測し、それに対して事前に対策を立てておく事である。人は全知全能ではない事を自覚し、できる範囲で全力を尽くす。それがリスク管理である。人事を尽くして天命を待つ。

神は自らを助ける者を助く。



       

このホームページはリンク・フリーです
ページの著作権は全て制作者の小谷野敬一郎に属しますので、一切の無断転載を禁じます。
The Copyright of these webpages including all the tables, figures and pictures belongs the author, Keiichirou Koyano.Don't reproduce any copyright withiout permission of the author.Thanks.

Copyright(C) 2015.5.8Keiichirou Koyano