経済の現状

日本経済の現状について

鉄鋼業


かつて鉄は国家なりと言われた。
鉄は、産業の米と言われており。基幹産業である。
また、国際商品でもあり、為替や景気の変動の影響を受けやすい産業である。

我々は、金銭の変化に目を奪われがちである。
しかし、実際の経済を理解する為には、物の動きを理解する必要がある。
その点から言うと鉄鋼業は、典型的な産業といえる。
鉄鋼の生産、流通、在庫を把握すれば、鉄鋼の消費量を知る事もできる。
そして、鉄鋼の消費は景気の動向を左右する。翻って言えば景気を予測する為に格好の情報となるのである。

鉄鋼業は、巨大な装置産業である。

売り上げに占める原価、原価率は一定ではない。
市場が拡大している時は、粗利益率に下がって利益幅も確保できるが、市場が縮小し、単価が低下している時は、粗利益率は、一定、あるいは上がっていたとしても売り上げが低下した分、幅を維持する事は困難になる。そうなると粗利益に占める固定費の比率が上がり、単位あたりの利益も低下する。
単位あたりの製造原価は一定ではないのである。

また、費用は、支出を根拠にしているが、価格は、市場を根拠としている。いくら費用が上昇しても費用の上昇分を価格に転嫁できるとは限らない。
この点を考慮しないと景気の本質は理解できない。
売り上げが上がって景気が良さそうに見えても、実際は、利益が上がっていない時あるのである。

だから、増収増益、増収減益、減収増益、減収減益というように収益と利益両面から損益をはからないと収益の状態を正しく認識する事はできない。

装置産業は、設備に対する先行投資を前提としている為に、一般に固定費が大きくなる。
固定費には、マネジドコストとコミッテッドコストの二種類がある。
交際費のように自由裁量で決まる費用をマネジドコストというのに対し減価償却費のように初期投資によって制約を受ける費用をコミッテッドコスト(拘束費用)という。
特に、電力や石油、ガスと言った巨額の先行投資を必要とする産業は、必然的に固定費が大きくなる。
固定費の性格も人件費よりも減価償却費といった資本集約型になる。
また、装置産業は、初期投資をすると投資した資金を回収されるまでに時間がかかり、長期間費用が固定し、資金が寝る性格がある。
この様な産業は、損益分岐点を超えないと利益を確保できない、反面、損益分岐点を超えると急激に利益を上げる事ができる。
装置の効率を上げる為には操業度が鍵を握っており、大量生産、大量販売、大量消費を促す傾向がある。
固定的に操業率を維持する為には、一定の生産量、販売量を維持する必要があるからである。
一定の生産量を確保する為に、薄利多売体質になりやすい。
一般に商品格差もつけにくく、価格競争に陥ると構造的に不況業種になりやすい傾向がある。

また、寡占独占になりやすい点も注意しなければならない。

電力、ガス、鉄鋼、航空、交通など巨大装置産業の多くが国家の基幹産業である場合が多い。この点をよくよく認識していないと経済政策の要諦を理解する事はできない。経済と国家戦略が不離不可分の関係にあるのは、国の基幹産業が装置産業だという事と無関係ではない。
この様な産業国家戦略と密接に結びついている。

装置産業の対極にあるのが労働集約型である建設業である。
ただ、巨額の資金や既得権益に結びついた装置産業や建設業は、政治や官僚と結びやすい産業だともいえる。

また、石油や鉄鋼は、グローバルの市場の上に成り立っている。
それ故に、鉄鋼市場は国際的であり、為替や資源価格の動向に左右される。
また、動乱や戦争と言った国際政治の影響も受けやすく、地政学的な産業といえる。

その意味では、石油産業によく似ている。つまり、国家戦略や外交政策によって制約を受けやすい産業である。
主要企業も多国籍化せざるを得なくなる。

鉄鋼業の総資本利益率は、他の産業の平均値に比べて大きく乱高下している。

鉄鋼業は、リーマンショックが起きるまでは順調に業績を回復し、発展してきた。

リーマンショックというのは、本来、金融市場の問題である。金融市場の問題が実物市場に深刻な影響をもたらした。問題はそこにある。なぜ、リーマンショックは、金融市場の問題にとどまらずに、実物市場にまで永享を及ぼしたのか。
それは貨幣経済と市場経済の仕組みに不整合な部分があるから出る。

我々は、経済をお金の問題だと錯覚していはしないだろうか。市場や「お金」は、本来、生きる為に必要な資源を生産し、分配する為の仕組みなのである。ところが、「お金」が本来の働き分配の手段という働きから乖離し、独自の働きをするようになった。そして、分配の手段であるべき「お金」が物の生産や消費を支配するようになった事が経済の本質を見失わせてしまったのである。
何の為に鉄が必要なのか。何に鉄を使用しようとしているのか。その目的」を逸脱した時、人間は、経済を制御する術を失うのである。

経済政策は、産業の特性を前提としてその産業構造、仕組みを基礎に考えなる必要がある。
一律に考えていたら、産業構造を破壊するか、偏ったもの、既得権益に縛られたものにしてしまう可能性が高い。
対処療法的施策に頼っていると事態をより深刻な事にしてしまう危険性もある。
何事も抜本的対策を恐れていてはならない。

















企業法人統計


経済産業省



鉄鋼統計  経済産業省

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