企業にとって、資金は、生命線である。資金が続けば、企業は存続できる。キャッシュは、その資金を指して言う。ただ、資金といってもその概念は、一様ではない。ここで言う、キャッシュ、つまり、資金は、現金及び現金同等物を指す。

 キャッシュフローは、資金収支を言う。資金収支と言うくらいであるから、現金主義である。

 会計の問題を突き詰めると、現実とは、何か、事実とは何かに行き着く。

 従来の会計制度の基礎、つまり、依って立つ現実は、取得原価主義である。取得原価主義の根幹は、原価評価の原則、原価配分の原則、減価償却の理論、収益に関する実現主義、費用の発生主義、収益費用対応の原則から成り立っている。
 この取得原価主義という概念が、今揺らいでいる。

 貸し手から見ると貸した金が戻ってくればいいのである。だとしたら、貸し手が一番知りたいのは、借りての返済能力である。返済能力は、何も、相手の所得だけではない。むしろ目に見える現物、資産に掛けた方が確実なのである。そして、それ以上に確実なのは、現金である。そこから、時価主義、現金主義が台頭したのである。

 しかし、元々、時価主義や現金主義に問題があったから、取得原価主義や実現主義、発生主義がとられたのである。その根本の問題を忘れて、時価主義や現金主義にすれば良いというのは、乱暴すぎる。

 家計は、現金主義、時価主義の世界である。家のローンを組む時も安定した収入は、もちろんだが、建てた家そのものを担保した方が確実なのである。そして、足らない分は、その人が所有する財産を担保する。担保とする価値は、融資を決定した時点での時価である。一度設定した担保の価値は、借り換えを起こさない限り、原則変わらない。これが、変化したら、たまらないからである。
 銀行が企業に融資する際も実質的には、時価主義である。取得した時点での価値を担保価値としたのでは、資金調達は、取得価値に拘束されてしまう。だとしたら、時価主義に変更し統一すればいいという事になる。
 しかし、時価主義に統一されると、第一に客観性が損なわれる。第二に、利益が、本来の営業活動とは無縁の処に左右される。第三に、税金に未実現利益や未実現損失が反映される。特に、三番目の問題は、実害が生じる。

 原価主義の根本は、要するに、現実に支払われた金額である。又は、証憑に記録された取引事実と金額である。この点は、原価主義も現金主義も同じである。

 利益は、意見、キャッシュは、事実という考え方がある。しかし、それ故に、事業は、調達できる資金に限界があった。

 この問題を解決するためには、会計の在り方を考えてみる必要がある。会計は、目的適合的体系である。つまり、会計の目的を考えてみればいいのである。

 株主や債権者と税務会計、経営者は、元々、目的が違うのである。
 経営側は、元々、資金が欲しいのである。資金を調達できれば、事業を拡大したり、新規の投資をしたりする事ができる。経営者にとって財務諸表を作る目的は、資金を調達する事が、主なのである。
 それに対し、株主から見ると、本当に、儲かっているのか、いないのかを知りたい。
 投資と効果は、時間の関数である。資金収支は、長期的に見ないと均衡しない。初期投資額が大きい事業は、目先の資金収支だけで判断されたら、初年度に巨額の赤字が生じてしまう。そうなると、資金を提供する者が居なくなる。一定期間コストを平準化して、収益を計算した方が、投資と効果の関係がわかりやすく。投資家も資金を提供しやすい。それが、取得原価主義、減価償却の理論であり、従来の会計は、それに則って成立してきた。
 債権者や取引業者から見ると支払い能力であり、それは、資金をどれくら準備しているかに関わってくる。
 債権者から見ると融資をするための裏付けがあれば、いいのである。その裏付けを判断する資料が欲しいのである。その一つが担保であり、今一つは、収益力であり、そして、もう一つが、キャッシュフローなのである。
 税務当局にしてみれば、企業は、どれくらいのうぜいする事ができるのか、つまり、徴税のための資料と根拠が欲しいのである。
 目的から考えると、債権者にしろ、行政にしろ、経営者にしろ、取引業者にしろ、資金の動きを知りたいのである。株主にしても、資金が続かなければ、企業は、成り立たないのだから、資金的な裏付けは、知りたい。そこにキャッシュフローの必要性がある。
 ただ、会計の本義は、収益力を明らかにする事である。収益があって、はじめて、企業は、成り立つものだからである。キャッシュフローは、あくまでも補助的な手段に過ぎない。現代のキャッシュフローは、一種の流行のようなものである。キャッシュフローさえあれば、企業実体が明らかになるというのは、錯覚である。

 いずれにせよ、資金の裏付けとダイナミックな動きこそが、企業を支えているのである。
 実際の企業を動かしているのは、人・物・金・情報である。中でも、金の動き、金の力は、絶大であり、金の流れが止まったら、企業は成り立たない。逆に言えば、資金が続く限りは、企業は行き詰まらない。資金会計というものは、この金の流れを明らかにしようという試みである。今後ともに、重要性が増す事は、間違いない。


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