会計には、会計の対象に対する直接的な働き以外に、経済や会計主体、家計に対する間接的な働きがある。直接的な働きだけが問題にされて、間接的な働きがないがしろにされてきた。それが、会計構造を歪める原因となっている。
 そこで、直接的な働きと間接的な働きなどのようなものがあるのかを明らかにし、本来の在り方を探っていきたい。

 働きについて検討する前に、先ず会計主体とは何かを明らかにしておきたい。会計主体の在り方が、会計主体の本来の働きを規定するからである。

 会計主体、即ち、事業体・企業は、単なる機関ではない。単なる機関なら、目的を果たしたら、解散すればいい。会計主体は、解散を前提とせずに、永続性が求められた。そこから、会計の在り方が変わったのである。永続性を求められる事によって会計主体は、共同体に変貌したのである。同時に、会計の特徴である期間損益を義務づけられるようになった。そして、そこから資本の概念が派生するのである。その点に、近代会計の出発点がある。しかし、この根元的な事が、現行の会計においては、明確に位置付けられていない。それが、近代会計の不幸の始まりである。

 この会計主体の働きは、何らかの事業を行い、その事業から派生する仕事によって収益をあげ、その収益をその仕事に関わった主体に分配する事である。そして、収益を分配するための根拠となる情報を提供する事が会計の役割である。ここから、会計の働きが生まれる。
 この事から解るのは、第一に、会計主体は、永続的な機関であるという事である。第二に、会計主体は、主体的な機関である。第三に、自己完結的な機関である。第四に、会計主体は、一定の期間を区切って損益を明らかに、利害関係者に報告をする義務があるという事である。第五に、永続的な機関に変化した事によって資本の概念が生まれた。

 本来、会計の主な対象は、投資家、債権者、行政、経営者、従業員、取引先、顧客である。現行の会計制度が対象としているのは、投資家、債権者、行政、一部経営者に過ぎない。

 そして、それら全てが会計の外部に存在する。外部の人間にとって、会計主体は、共同体としての意味合いが薄い。彼等にとって、会計主体は、自分達が利用できる間だけ存続すればいいのである。会計は、外部の存在に隷属することによって主体的働きが保てなくなる。

 投資家は、キャピタルゲインと配当を得るのが目的であり、債権者は、金利と債権の保全、行政は、税金の徴収、経営者は、役員報酬であり、従業員は、給与、所得の確保、取引先は、自己の利益と債権の保護が目的なのである。

 会計が報告すべき対象が知りたいのは、会計主体の収益性、安全性、成長性、生産性、そして、最近では、キャッシュフローである。その目的は、自分の権利を確保しつつ、自分の取り分を増やしたいからである。そして、会計の本質は、そこにあるのである。

 投資家は、成長性を、債権者は、収益性とキャッシュフローを、行政は、所得を、そして、経営者は、安定性をと見る対象によって重要視する視点が違う。この様な視点の相違で会計の捉え方・考え方にも微妙な差が出てくる。

 会計主体というのは、全く可哀想なものである。これだけ、多くの関係者に功徳を施しながら、社会からは、まるで必要悪、無用の長物のような言われ方をしている。奴隷のような扱いを受けている。だから、経済が上手く回らないのである。

 外部の人間から見ると会計主体というのは、機関である。それも、成果を吸い取るための機関に過ぎない。それに奉仕するのが、現行の会計である。会計主体を自分の所有物、奴隷のように扱うのは、蓋し当然である。役に立たなくなれば潰してしまえばいい。

 例外的にオーナー企業がある。オーナー企業には、共同体という視点が色濃く反映する。ただ、オーナー企業の場合、特定の家族、一族に奉仕する事になる。それでも、外部の人間達に利益を収奪される割合が少なくはなる。

 会計の働きは、従来の枠組みでは捉えられなくなっている。一般的な人で、株に興味があるか、物好きでもないかぎり、会計の知識など必要とされてこなかった。しかし、銀行や保険会社の倒産が相次ぐ中、自分の預金を守ったり、保険金を減らされない為には、顧客も経営分析を必要とする時代になりつつある。

 また、企業業績の悪化やリストラによって、一旦、大企業に就職してしまえば、一生安泰というわけにはいかない事を、サラリーマン達は、嫌と言うほど思い知らされ。それまでのサラリーマンと違って、自分の会社の業績に無関心ではいられない状況になってきたのである。
 この様な変化は、当然、会計を利用する者の多様化を招き。自ずと会計制度の役割、働きに、従来とは、違う必要性の要求が増してくるのである。

 会計の直接的な働きも重要だが、間接的な働きの及ぼす、影響が甚大になってきた。次に、その点を考えてみたい。

 会計を鏡に喩える考え方がある。確かに、会計には、鏡の働きがあるが、鏡にはない、働きがある。それは、会計が直接、その対象に作用する働きである。

 企業の倒産は、多大な影響を経済に与える。その企業の死命を制するのが会計情報なら、会計が経済に対して影響を与えないとは言えない。むしろ、会計制度、例えば、会計基準の変更は、経済に甚大な影響を及ぼす。会計基準の変更に大手銀行の首脳が、いきなり、ルールの変更するのは、八百長じゃないかと悲鳴を上げたのが好例である。

 企業の収益は、家計の可処分所得にも大きく影響する。会計主体の重要な機能の一つに所得の分配がある。会計主体は、労働者に仕事を割り振りその対価として所得を分配するという働きがある。

 また、財務諸表は、税務のための証憑になる。特に、日本では、税務当局が確定決算主義を採用していることによってこの傾向が強い。税制の改正は、財政にも企業行動にも影響を及ぼし、両者を通じて経済に大きな影響を与える。

 経済に与えた働きの中で一番顕著なのが減価償却である。減価償却制度によって費用を平準化することが可能となり、資本の作用と合わせて、巨額の資金を民間が集めることが可能となり、巨大産業が成立したのである。更に、巨額の資金を運用することが可能となることによって金融資本の成長を促したのである。

 この様に、会計制度のあり方、働きは、その国の経済全般に影響を与えているのである。

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会計の働き