会計とは、誰のために、何のためにあるのか。この単純で、何の変哲もない疑問が、実は、会計の本質的、根本的な問題なのである。

 本来、会計の目的とは、ある一定期間の共同体内部の経済的な状況と資金の流れを、共同体内外の利害関係者に、貨幣的、数値的に説明するための手段と基準、規則を制度化したものである。
 会計には、内部会計と外部会計がある。企業の働きは、内側との働きと外側からの働きが均衡したとき安定する。
 それにたいし、現行の会計の目的は、投資家、債権者、国家に対する説明責任という外的要因による。それから、表には、現れにくいが、説明責任の対象の中に経営者も含まれる事を忘れてはならない。経営者というと、会計主体の内部要因に見えるが、現行の会計制度上では、経営者は、外部要因である。いずれにせよ、現行の会計制度は、外向きの制度である。だから、労働者や従業員は、会計や簿記の事を知らなくても何ら問題にならない。また、仮に職制上知り得たとしても、それを自分や同僚のために、直接、役立てることはできない。
 現行の会計制度には、共同体内部のための会計という視点が抜け落ちている。それが、会計制度の均衡を失わせる原因となっている。

 一般に言う内部会計は、管理会計であり、外部会計は、財務会計、又は、制度会計である。しかし、財務会計と管理会計とは、本質が違う。ここで、問題とするのは、制度としての会計の方である。そして、制度としての内部会計は、まだ確立されていない。

 一般には、内部会計というと管理会計をさすが、本来の内部会計というのは、内側に向けての会計の意味である。ここで言う内側というのは、会計主体を一つの共同体として見なした時、共同体内部の事を指す。そして、内部会計とは、共同体の内部に向けた会計という意味である。

 制度会計は、法的な規制、拘束、言い換えると、法的な裏付けをもっていると言う事を意味する。法的な拘束力、つまり、強制力を制度会計は、前提として成り立っている。この様な制度会計と、何ら、法的な強制力を持たない管理会計とは、本質が違うのである。

 会計主体を経済主体、共同体、又は、一個の機関、組織と見なすと、いろいろな機能、働きが見えてくる。例えば、雇用の創出、生産、財の分配、物価の安定といった点である。しかし、こういう事は、内部会計が確立されていないと会計の俎上には上がってこない。

 では、内部会計とは何か。会計主体を内部から支えている者達への会計である。
 すなわち、内部会計の目的は、第一に、企業の存続である。第二に、従業員、労働者に対する情報の開示である。第三に、企業の生産性や効率を上げることである。

 共同体にとって重要な事は、継続である。その継続に必要なのは、資金である。資金が回れば、共同体は存続できる。逆に言えば、資金を断たれた時、共同体は、死ぬのである。内部会計にとって内部留保というのは、一種の緩衝材である。経済環境は、企業にとって常に良好であるとは限らない。むしろ、順風な時の方が少ない。また、設備の老朽化に際し、常にも新鋭の設備で対応しないと競争力を失ってしまう。企業は、事業を継続するためには、内部に資金を蓄えておく必要がある。故に、内部への蓄えは、存続するための当然の共同体内部への取り分でなのある。

 さらに、共同体内部にとって重要な事は、共同体を構成する者の、生命、財産の保護である。それを仕事を与えることによって会計主体は、本来、成り立っているはずである。会計主体を構成するのは、そこに働く者、つまり、労働者並びに従業員である。会計主体は、労働者や従業員に、仕事を創出し、与えることによって成立している。そして、労働者や従業員は、会計主体から仕事を与えられることによって生計を立てている。取引業者も同じである。彼等にとって会計主体は、文字通り、運命共同体なのである。企業は、公器だと言われる所以である。
 会計は、その運命共同体の生命線を握っているのである。

 その点、外部会計は、企業の存続に重きを置いてない。また、内部の人間についても重要視していない。内部の人間は、人件費としてのコストにすぎず、確立統計の問題にすぎない。現行の会計制度は、内部の人間に決して優しくない会計なのである。それは、現行の会計の目的や働きが、外部の要因でしかないからである。

 また、内部会計は、家計に直結した会計といえる。内部会計は、所得を通じて家計に対し、直接的につながっていく。その証拠に会計が確立した世界では、会計主体の働きは、直に、家計所得に結びついている。日本では、サラリーマンの所得税は、企業によって源泉徴収されているし、社会保険料も同様である。また、企業の福利厚生制度は、家計に直接的な影響を及ぼす。家計を維持するためには、安定的、継続的に収入を確保するだけでなく、所得を平準化する必要がある。

 外部要因から見た会計目的を要約すれば、国家は、税金を取ることを目的とし、債権者は、自分の債権を保全することが目的であり、投資家は、自分の利益と取り分を確保することが目的である。ここには、事業を存続し、適正な原価で生産財を市場に送り出すと同時に、労働者に対しその成果を合理的に配分するという経済上の視点が欠けている。その結果、雇用を創造し、労働者に社会的な富を分配するという経済上最も重要な機能が見落とされているのである。それに対し、内部要因から見た会計の目的は、安定的な収益を維持し、同業者との競争力を確保すると同時に、生産性や効率をあげ。従業員の雇用と収入を安定的、継続的に確保し。再投資や非常時の資金を確保するために必要な手段を講じるための情報を提供することである。それは、いずれにせよ、利益処分、収益の配分に集約されるのである。つまり、外部会計、内部会計双方の目的は、収益の配分に収斂されるのである。

 元々、会計の論理は、内向きの働きと外向きの働きを表した複式簿記に基づく。つまり、内部会計を確立し、外部会計と均衡させることが、真の会計制度を確立することなのである。
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